十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2025年7月号

特集/夏本番!旨辛メニュー

ワクチン注射 どっちの腕にする?~あのね、こどもはね(10)嶋田純氏

どちらの腕に接種するか悩む子ども

 冬を迎えるこの季節、雪の他に気になるのは季節性インフルエンザでしょうか。今年から鼻の粘膜に噴射するワクチンも導入されましたが、注射のワクチンを受ける子どもはすぐには減らないかもしれません。

 20年前のことですが、手術室から小児科外来に異動になり、インフルエンザワクチン接種がすぐに始まりました。それまでとは全く違う雰囲気の待合室、恐る恐る小さな声で返事をする子どもたち。時には走って逃げようとしたり、柱と柱の間に隠れてしまったり。

 「病気になったら病院に行く、病気になったから注射を打つ」と理解することが多い子どもにとって「元気なのに注射を打つ」という決心にはとても勇気が必要です。これからどんなことが起こるのか、どれくらい痛いのか、どんなふうに頑張れば良いのか、子どもなりに見通しが必要です。

 子どもが納得して決心できるよう痛くないとうそは言わず、「ちょっとチックンとするけど、イチ、ニーのサン!を数える間、動かないで」と伝えます。それから「どっちの腕にする?」「お母さんのお膝でする?」など子どもが選択できることを説明するようにしました。そうすると「え~、イチで終わって~」や「僕が、せーのっ!って言ったらやって」などと交渉の始まりです。

 交渉できる子どもは、心の中で決心していることが多いように感じます。急に動くと危ないので、こっそりと後ろから子どもの腕を支えて、表情や言動から「覚悟を決めた」と判断したタイミングで「さぁ頑張ろう!」と後押しをします。

 子どもとの約束を守ってワクチン接種が終わると、涙目でも「頑張った!全然痛くなかった!」などと意気揚々と帰っていきます。子どもが自分なりに頑張ったと思えた体験は、次も頑張ろうとする力につながると思っています。(嶋田純)


<しまだ・じゅん>
 看護師、専門は小児看護学。臨床で30年働いた後、札幌市立大学大学院看護学研究科看護学専攻博士前期課程を修了。学修中に北海道教育大学の非常勤講師、修了後に札幌市立大学看護学部特任助教、北海道看護専門学校の実習インストラクター、保育士養成施設「子ども學舎」の非常勤講師の兼務を経て、昨年4月から帯広大谷短大看護学科助教。