十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2025年2月号

特集/笑顔になる台所

内なる世界への入り口「頭足人」~あのね、こどもはね(9)高橋由紀雄氏

3歳半の女の子が描いた絵。伸び伸びと自分の表現で描けている立派な頭足人

 なぐり描きがたくさん経験できると、線と丸が描けるようになります。子どもはその組み合わせだけでいろいろなものを生み出しますが、その一番の成果が頭足人(とうそくじん)です。

 丸を三つ組み合わせるだけで顔ができ、そこに線が数本加わるだけで人になります。「これは誰?」と尋ねると、「ママ」と答えてくれる感動の瞬間が訪れます。

 子どもの認識がベースなので、顔に付いていると気付いたものが反映されていきます。ママの顔にメガネが現れたり、パパの顔にひげが登場したりするなど、子どもがどんな認識をしているのかが分かります。絵を通して子どもの内なる世界をのぞかせてもらっているような気分になるので、この時期の絵は見ていておもしろいのです。

 線と丸が描けるようになると、なぜか近くにいる大人はその組み合わせで描けるものを教えたくなってしまうことがあるようです。丸を組み合わせると花が描ける、アンパンマンも描けるよと教え、中には子どもの手を持って教える人もいるようです。

 この時期の子どもは吸収力の塊ですから、教え込むとちゃんと描けるようになります。アンパンマンが描けると子どもも喜ぶかもしれませんが、大人はもっと喜び褒めまくり、天才ではないだろうかと思うわけです。

 小さな子どもが「上手に」絵を描くと他の大人たちも褒めてくれるので、すごくうれしくなりますね。

 でも、これが本当に困ったことなのです。上手に描けない子は褒められないということになり、上手に描くことが「良いこと」という大人の価値観に子どもたちが支配されるのです。描けて褒められること自体は良いことに見えますが、その子は今後ずっとアンパンマンを描いて褒められなくてはいけないという呪縛にとらわれることになります。その後はどうなるのでしょう?

高橋由紀雄先生


<たかはし・ゆきお>
 帯広大谷短期大学社会福祉科こども福祉専攻専任講師、木育マイスター。北海道教育大学釧路校出身、京都芸術大学大学院芸術研究科(通信教育)芸術専攻に在籍中。釧路で美術関連講師やグラフィックデザイン業と並行し、くしろせんもん学校で保育者養成に関わり2020年から現職。その他、美術館などの講座やワークショップ講師、木育楽器を開発。