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音更をラーメンの町に ブロッコリー麺で目指す「帯広豚丼」超え

柳田 輝

十勝毎日新聞社 編集局 コンテンツグループ

 「ここをラーメンの町にしよう」

 そんな呼びかけに集まった音更町内の9つのラーメン店主たちは2018年、町のラーメンをブランド化しようと組合を結成した。その原動力となったのが、「“十勝ラーメン”は存在しない」という共通認識。ご当地ラーメンとして生み出した「ブロッコリーら~麺」で、「豚丼に負けない知名度」を目指している。

<ブロッコリーら~麺>
音更産の小麦粉「ゆめちから」と「キタノカオリブレンド」で作る生地に、町内の得地農場が生産するブロッコリーの粉末を練りこんだ「オール音更」の麺で、製麺は帯広市の保刈製麺が手がける。


音更にご当地グルメを
 発端は10年に発足した音更ブランド研究会(のちの音更メロディーライン推進協議会)。食や観光のブランド化で町へ人を呼び込み、町を盛り上げることが目的だったが、食分野では音更に郷土料理がないことでつまずいた。そこで、帯広の豚丼やカレーのように、ご当地グルメを新たに作ることで一致。

 指揮を執った町商工会事務局次長(現在)の角谷稔さんが、札幌や函館のようなご当地ラーメンが十勝・帯広にないことに目を付け、分科会は町内の全店で提供できる音更ラーメンの生産を目指した。音更は小麦の産地だが、「もっと特色ある麺を」と色を付けた麺に方向性を絞り、産業支援団体「とかち財団」の協力を得て、町で採れるブロッコリーを使った“緑色の麺”の開発に取り掛かった。

 開発は予定外に難航した。ブロッコリーをペーストにして生地に練りこんだ緑の麺は、時間がたつにつれて緑色が薄くなる。さらに、液状のペーストは重く、輸送が困難で、保管にもスペースを要することが分かった。そこでペーストを練りこんだ緑の麺をあきらめ、粉末状のブロッコリーを練りこんだ麺に切り替えた。見た目で色合いを判別できて食感に影響を与えない麺にするため、3年に及ぶ改良を経て、18年に生麺のブロッコリーら~麺が完成した。

ブロッコリーら~麺の誕生について語る角谷さん


町内店舗と協力
 開発と並行して町内のラーメン店に協力を要請したが、店主たちはブロッコリー麺の提供を二つ返事では承諾しなかった。「はじめは断ったよ」と、麺やぼうずの能登孝行店主は言う。もとより商工会の活動に消極的で、「コストもかかるし面倒だ」と一蹴した。しかし角谷さんの諦めない姿勢と、「なんでラーメンなの?」と尋ねたときの返事に気持ちは動いた。「ラーメンが好きだからです」

 角谷さんも「ブロッコリー麺」だけで協力してもらえるとは考えておらず、各店の新規顧客の獲得にもつながるイベントの新設をフックに協力を要請。17年から開催する「音更メロディーラインまつり」には、「音更ら~麺村」と題し、町内各店のラーメンを食べ比べできるイベントを併催した。

厨房(ちゅうぼう)で調理する、麺屋ぼうずの能登店主


帯広の豚丼、音更のラーメン
 イベントは毎年盛況だが、店でのブロッコリー麺の売り上げは伸び悩む。ほとんどの店が通常の麺かブロッコリー麺を選ぶスタイルで、らぁめん藤の阿部利徳代表は「年々増えてきているが、注文の1割くらいかな」と話す。他店でも同様に1割程度だという。

盛り付けする、らぁめん藤の阿部代表


 こうした状況を角谷さんは「地元の人に浸透していないから」とみる。「帯広の家庭で豚丼が食べられるように、子どもの頃から食べていれば郷土料理になる。ゆくゆくは音更をラーメンの町にしたい」。より身近な存在にしようと、19年からは給食でもブロッコリーラーメンの提供を始め、21年には自宅で味わえる乾麺の「ブロッコリーら~麺」を発売した。

 「協力を断っていたのに、俺が作ったスープが(乾麺として)商品化してしまった」とぼうずの能登店主は笑う。気づいたころには活動の中心的な人物になっており、町内9店(現在は11店)で立ち上げた「音更町ら~麺組合」では、23年から組合長も務める。

 この乾麺が思わぬヒット商品となった。翌年の「道の駅おとふけ」オープンから売り上げは好調で、オープンした22年は約2万5000食、23年も2万食程度を販売。商工会は安定した売れ行きに手応えを感じている。

年間約2万5000食を売り上げた「ブロッコリーら~麺」


ラーメンで町おこし
 角谷さんは「音更ら~麺の目的は、音更に来てもらうこと」とし、町全体の活性化につなげたい考えがある。藤の阿部代表も「地元のお客さんに食べてもらって、観光客も増えたら、地元のみなさんへの恩返しにもなる」と語る。商工会と店主らが目指す方向は同じだ。

 音更産を前面に出したPRは店主たちの活力にもなる。阿部代表は「地元食材をうたう以上、おいしいものを提供しないと」と襟を正す。「音更をラーメンの町に」。11店になった同じ思いを描くラーメン店と商工会が力を合わせ、一風変わったラーメンの普及に努めている。

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