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化学農薬を使わずに害虫を撃退! 天敵を使った防除で収量増を目指す 相内大吾准教授に聞く【ちくだい×SDGs(13)】

須貝 拓也

十勝毎日新聞社 編集局メディアコンテンツ部

 -研究のテーマは。
 みなさんは害虫を防除、もっと簡単な言葉で言えば、殺すときにどんな手段を用いますか? 多くの人は市販の殺虫剤を使うのではないでしょうか。ところが近年、化学殺虫剤を使っても殺すことができない抵抗性を獲得した害虫が増えていることが問題になっています。さらに環境意識の高まりから、毒性が低くて残留しづらい殺虫剤や農薬が求められています。

相内大吾准教授


 化学農薬による害虫防除の代替技術として注目を集めているのが、天敵による生物的防除です。アブラムシの天敵としてテントウムシが知られていますが、害虫の天敵は昆虫だけではなく、ウイルスや細菌、カビなどの天敵微生物も含まれます。特に昆虫に寄生するカビは、昆虫寄生菌と呼ばれています。

 人間と同様に、カビに感染した害虫は病気になります。人間が病気になれば体調が悪くなって食欲も落ちますよね。それと同じようなことが害虫にも起こるのです。昆虫寄生菌に感染した害虫は、色が識別できなくなったり熱を感知できなくなったりします。病気を媒介するなど悪さをしていた害虫の行動が変わって、全くの無害な存在となるのです。

 研究室では行動変化で無害化した害虫を人工的に作りだしたり、その感染メカニズムを解明しています。環境を破壊することなく持続的で効率的な生物的防除の仕組みを確立することが研究のテーマです。

昆虫寄生菌に感染したハマダラカ

感染したハマダラカの頭部断面(黒色部が昆虫寄生菌)


 -どんな害虫が研究対象なのでしょうか。 
 大きく三つのジャンルに分かれます。まず一つ目が人や動物の血液を吸って感染症などを媒介する蚊やマダニといった「衛生害虫」です。二つ目がアブラムシなど農作物を食べたり植物の病気を広げる「農業害虫」です。最後の三つ目が貯蔵した穀物などを食べる「貯穀害虫」です。

 この貯穀害虫は貯蔵庫による低温保存などが発達した先進国ではほとんど見られませんが、アフリカでは大きな問題となっています。被害の多いところでは貯蔵した食糧の約80%が食害されるほどです。化学農薬での防除も行われていますが、人体や環境への悪影響もあるので、迅速な生物的防除の仕組みづくりが求められています。アフリカのマラウイ共和国での調査の結果、現地で生育している植物から貯穀害虫に対する忌避成分を抽出することに成功しました。

アフリカのマラウイ共和国で貯穀害虫による被害を調査する相内准教授


 -蚊やアブラムシではどんな研究をしているのでしょうか。
 蚊は国内外のフィールドで収集し、菌類由来の病気に罹患している個体数を数えることから始めました。調査の結果、自然環境下でも4~5%の個体が病気になっていることが判明したのです。現在は研究室で卵から成虫まで人工的に飼育し、感染に至るまでの経緯などを解明しています。

研究室で飼育している蚊の成虫


 アブラムシは健康な個体と感染した個体との行動比較実験を行っています。それぞれの個体に微細な電線を接続し、植物の吸汁行動などを観察しました。

 いずれの害虫についても現在、共通して研究しているテーマは「食べる」という行動についてです。害虫が昆虫寄生菌入りの餌を食べるとどんな変化を起こすのか調べています。

 -今後の課題について教えてください。
 天敵微生物を用いた生物的防除は現在、ビニールハウスなどの施設内で利用されることが多いです。より効率的な防除技術を早期に確立して、路地栽培のような屋外の農作物にも転用していきたいです。

 現状では、防除を実施しても収量の約30%が病害虫の被害で損失しているといわれます。防除技術の改良により、損失ゼロのレベルにいかに近づけることができるか、害虫による被害をいかに軽減するか、試行錯誤を重ねながら研究を進めています。

当てはまる目標


<あいうち・だいご>
札幌市出身。帯広畜産大学畜産学部畜産環境科学科卒業。同大学大学院畜産学研究科畜産環境科学、岩手大学大学院連合農学研究科生物生産科学専攻。専門は応用昆虫学、昆虫病理学、作物保護学。

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