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かしこく動く農業機械で未来の食を支える 藤本与助教に聞く【ちくだい×SDGs(18)】

須貝 拓也

十勝毎日新聞社 編集局メディアコンテンツ部

 -研究テーマを教えてください。
 日本有数の大規模畑作地帯である十勝は、他の地域では見られないパワフルな大型農業機械が活躍しています。さらに近年はICT(情報通信技術)を積極的に活用し、効率の良い農作業が広く普及してきました。しかし年々減少する農家戸数に加え、農業者の高齢化が進むことで、労働力不足が懸念されています。さらに農作物の収量増加や品質向上のために、より精度の高い自動運転技術が求められています。

藤本与助教


 研究室では十勝の農業が抱える農作業システムに関する課題を調査し、現場で求められる農業機械と農作業支援システムの開発に取り組んでいます。3次元CAD(コンピューター設計支援システム)、構造解析、モーション解析などのシミュレーションソフトと3Dプリンターといった工作機械を活用することで、試作にかかる費用と時間を節約しています。研究室にはさまざまな工作機械が充実しているので、思いついたアイデアをすぐに形にできる物作りの環境が整っています。

 -現在、取り組んでいる研究内容を教えてください。
 大規模畑作に適したロボットトラクターによる作業、具体的は耕起から収穫まで全ての作業を無人化することに取り組んでいます。すでにジャガイモの栽培については実証実験レベルでは成功しているのですが、安全性と作業効率をより高める必要があります。

無人運転を可能にしたロボットトラクター


 ここでロボットトラクターによる農業機械の実情を解説させてください。現在、国内で開発されるロボットトラクターは主食である米を作る稲作を中心とした作業体系を想定したものがほとんどです。しかしトラクターの年間使用回数が少ない稲作に対し、十勝の畑作は耕起作業から収穫まで一連の作業でトラクターを多用します。ところが現段階でロボットトラクターの無人作業に適用できるのが、ロータリーハローやディスクハローを使った均平・整地作業に限られているのです。稲作では十分に活用できるのですが、大規模畑作では多くの課題が残っています。

 研究室ではさらなるロボットトラクターの導入と普及を図ろうと、畑作で年間を通して最も使用回数が多い農業機械となるブームスプレーヤーの自動化に着手しました。ブームスプレーヤーは畑に農薬を効率よく散布して、病害虫などの防除に用いられる農業機械のことです。ブームスプレーヤーの防除作業が無人化できれば、大幅に投下労働量が削減できます。

無人運転で農薬を散布するブームスプレーヤー


 十勝では1ヘクタールあたりに希釈された農薬を500~1000リットルほど散布して確実に作物に付着させる「多量散布」が主流です。耕地面積の拡大に伴い、スプレーヤーのタンク容量と農薬を吹き出すブーム長は増大する傾向にあります。長くなったブームの先端はトラクターが少し傾いただけで激しく上下します。特に全長が20メートルを越えるほどに長くなったブームは制御が難しくなり、地面や作物と接触するリスクが増大します。逆に接触を避けるためにブームの高さを上げると、農薬が風などの影響で飛散してしまう「ドリフト」という現象を引き起こしてしまいます。このドリフトは隣接する他の作物へも悪影響を与えるので極力避ける必要があります。

 研究室では安価で丈夫な光学センサーを使ったブームの高さ制御システムを開発して普及を目指しています。赤外線光を利用した散布高さ検出装置を独自に開発し、作物までの散布高さを一定に制御することで、均一散布を実現しました。専用設計のプリント基板と独自アルゴリズムを開発し、作物に応じた最適なブーム高を測定できるようにしました。また旋回時におけるブームの開閉操作も自動化することで、畑の両端(枕地)での操作も自動化しています。

プラウ作業を行うロボットトラクターのデータを計測する学生たち


 さらに無人化技術に関しては、天地を返すように土壌を耕起するリバーシブルプラウの自動反転装置にも挑戦しています。この装置はロボットトラクターの無人運転と連動して、枕地でプラウを自動で反転させることが可能です。また有人運転の時でも油圧操作の自動化として利用できます。この技術は特に実用化が期待されていて、この無人システムの作業精度や耐久性などを調べるために、研究室の学生と評価実験を続けています。

無人運転でプラウ作業を行うロボットトラクター


 -これから開発に着手する農業機械や今後の課題について教えてください。
 ブームスプレーヤーとリバーシブルプラウに続いて自動化を目指しているのが除草作業で使用するカルチベータです。これも熟練したトラクターの運転技術が求められる難易度の高い作業です。進路のわずかなズレで作物に傷をつけてしまうため、より緻密な制御が求められます。これまで防除作業の自動化について研究を続けてきたので、農薬の使用をこれまで以上に削減するために、雑草を効率よく除去するシステムを開発したいと考えています。

 また鹿追町を拠点にキャベツの無人栽培の研究プロジェクトにも参画していて、これまで開発してきたプラウなどの無人化システムを、より現場の実作業で使っていただけるように日々、細かな改良を続けています。

 今後はトラクター作業の無人化をより普及させるためにも、その安全性を高める必要性を強く感じています。利便性と安全性の両輪がそろってこそ、農業者から信頼が寄せられる機械になると思います。

 十勝を拠点にした帯広畜産大学で地元の実情に合わせたスマート農業の確立を目指すとともに、世界中の畑作地帯であたりまえに利用していただけるような安全で革新的な農作業システムを開発して食生活を豊かにしていくことが夢です。

あてはまる目標


<ふじもと・あつる>
 帯広市出身。千葉工業大学工学部卒業。帯広畜産大学畜産学研究科、岩手大学連合農学研究科修了。畜大特任研究員を経て、2020年に同大助教に。専門は大規模畑作を対象にした農業機械学。

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