日々の食事で健康増進 永田龍次助教に聞く【ちくだい×SDGs(15)】
-研究テーマを教えてください。
いつまでも健やかな毎日を送るために、日々の食事による腸内細菌の活性化について研究しています。腸には小腸と大腸がありますが、その働きは大きな違いがあります。小腸は食べたものを消化吸収する臓器です。一方、大腸は栄養を吸収したあとの残りから便を形成する臓器です。この大腸にいる細菌を腸内細菌と呼んでいます。大腸には1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が生息していて、重さにすると1㌔以上にもなると言われています。
腸内細菌は種類ごとの塊となって腸壁に隙間なくびっしりと張り付いています。細菌種ごとに並んでいる状態が、まるで花畑(フローラ)のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。正式には「腸内細菌叢(そう)」という名称です。
研究室ではラットを用いた投与実験を行い腸内細菌叢や糖・脂質代謝を調べたり、人間の大腸と同じような環境を人工的に作り出したモデル装置を使って腸内細菌叢とその代謝産物などを調べたりしています。
-腸内細菌にはどんな種類があるのですか。
腸内フローラを形成している菌は、その働きによって三つに分かれています。いわゆる善玉菌と悪玉菌、そして腸内の状況によって善玉菌の味方になったり、その反対に悪玉菌の味方になったりする日和見菌です。
善玉菌は乳酸菌やビフィズス菌などがあり、腸内で発酵活動を行います。悪玉菌は大腸菌などがあり、腸内で腐敗活動を行います。例えば、牛乳を発酵させればヨーグルトになり食べることができますが、腐った牛乳は飲むことができません。発酵と腐敗にはこのような違いがあります。
善玉菌は糖分や食物繊維を発酵させて乳酸や酢酸などを作り出し、腸内を弱酸性に保ちます。腸内が酸性になると、多くの悪玉菌は増殖できなくなります。一方、悪玉菌のほとんどはアルカリ性の環境を好みます。悪玉菌が増えると便秘や下痢などおなかの調子が悪くなると言われています。
日和見菌は腸内細菌の約7割を占めています。腸内環境を酸性に保ち、日和見菌を善玉菌の味方につけることが健康維持には不可欠です。
このように腸内では毎日、善玉菌と悪玉菌の縄張り争いが行われていて、腸内フローラのバランスが変わっています。残念なことに、善玉菌のビフィズス菌は加齢によって減少することが知られています。また年齢だけではなく、食生活によってもバランスが崩れてしまうので、栄養バランスのとれた食事を心がける必要があります。
-どんな食品が腸内細菌を活性化させるのでしょうか。
食品の摂取により大腸に生息する善玉菌に栄養素を供給するためには、小腸で消化吸収されにくいものが理想的です。そこで研究室では食物繊維や難消化性でんぷん、難消化性タンパク質、さらにポリフェノールといった食品成分に注目しています。いわば、体内に吸収されない便の元になる成分が重要になるのです。
-おすすめの食材を教えてください。
日々の食事に取り入れやすいという点でおすすめなのが大麦です。不溶性と水溶性の食物繊維をバランスよく含み、便の量を増やしてくれます。白米に混ぜて「麦ごはん」にするほか、市販のシリアルなども入手しやすいと思います。また玄米や雑穀米、小麦の全粒粉を使ったパンや麺類も有益でしょう。
食卓では複数の食材を使った料理が一般的なので、食事という観点から食品そのものの成分だけではなく、その組み合わせの相乗効果にも注目しています。
例えば水溶性食物繊維でゴボウなどに多く含まれるイヌリンと、小豆などから抽出したポリフェノールを組み合わせて摂取すると、腐敗物質(アンモニア)の生成を低下させることが期待されます。ポリフェノールは抗酸化作用にも優れることがわかっています。
ほかにも最近、よく目にするようになった有色ジャガイモの研究も進めています。有色ジャガイモの色素(ポリフェノール)と難消化性デンプンとの組み合わせは腸内細菌のバランスを維持するのに効果的であることが期待されます。
これからも食の宝庫である十勝の食材を主な研究材料としながら、成分ごとの効果の特徴や作用機序を明らかにすることで、有益な食品素材の探求を進めていきます。
<ながた・りゅうじ>
池田町出身。帯広畜産大学畜産学部卒業。同大学大学院修士課程畜産学研究科修了、岩手大学大学院連合農学研究科修了(帯広畜産大学所属)。専門は栄養生化学、栄養機能科学。