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グアテマラの新聞記者と旅をした あれから20年~再びグアテマラへ(12)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 日本は新聞が多い国と言われるが、グアテマラにも新聞がたくさんある。事件事故を大きく扱うタブロイド紙から、政治経済を重視するいわゆる高級紙まで、20年前と顔ぶれはほぼ変わっていない。最も読まれているのはタブロイド紙の「ヌエストロ・ディアリオ(Nuestro Diario=私たちの日刊紙)」で、常にショッキングな事件事故の写真と派手な見出しが1面を飾っている。ちなみに協力隊員時代のハワイの家では毎日パンを売りに来る女性が一日遅れのこの新聞を届けてくれ、いきなりトイレの話で恐縮だが、読み終わったら家族が小さく切ってトイレ紙として再利用していた。さすがに新聞紙はお尻に優しくないので自分はマイ・トイレットペーパーを使っていたが、トイレで蚊と戦いながら記事を読んだのが懐かしい。

 高級紙は「プレンサ・リブレ(Prensa Libre=自由な新聞)」「エル・ペリオディコ(El Periodico=新聞)」などがある。歴代政府の汚職や社会問題を追及してきたジャーナリズム精神豊かな新聞だ。20年前は「紙の新聞」がメインだったのだが、今や日本と同様にグアテマラでもみんながスマホを持っているので、メディアはネット対応に力を入れている。Web版(電子版)はもちろん、事件事故や新着ニュースはツイッターなどSNSで速報される。JICAグアテマラ事務所では職員や隊員のための安全情報を収集分析するのも仕事なので、ツイッターで事件やデモ、道路封鎖などのメディア情報をチェックするのは日課となっている。

グアテマラメディアの政治家への囲み取材現場(一部画像加工、以下同じ)


 「グアテマラの新聞記者と仕事の話をしてみたい―」。日本で20年以上新聞記者として働いてきた自分としては、今回のグアテマラ滞在でぜひ実現したいことの一つだった。記者の働き方がどう違うのか、特に日本では直近に電子版の担当をしていたので、紙媒体からデジタルへの移行がどう進んでいるのかに興味があった。たまに仕事で行くグアテマラ市内の会合などで取材に来ているメディアの人たちを見かけることはあっても、話をする機会はなかなかなかった(一度、政治家の囲み取材にしれっと仲間入りしてみたら落ち着く感覚だった!笑)。しかし今回、グアテマラ市のメディア関係者5人と、2泊3日の取材ツアーに出かけるという願ってもないチャンスが訪れた。

プレスツアー参加の記者らと私(ドローンで撮影)


 ツアーの目的はJICAがグアテマラ国内で行う援助プロジェクトのPR。記者と立場が一転し、現場に案内して記事を書いてもらう役割だ。参加したのはヌエストロ・ディアリオ、プレンサ・リブレを含む新聞記者とテレビ記者、カメラマンの男女5人。1台の車に同乗し、グアテマラ市から約4時間ほど離れた西部地域を巡り、移民を防ぐための地域振興プロジェクトの関係者と住民、地方行政能力強化のプログラムに参加する市長、火山防災の担当者、そして海外協力隊のボランティア隊員2人(栄養士と算数教育)の活動現場の取材をしてもらった。内容が盛りだくさんすぎてすべてを消化できるかちょっと心配だったが、各記者の意欲は予想以上に高く、現場ではたくさんの人の話を聞き、写真を撮ったり、動画でインタビューを収めたりと精力的に動いてくれて、「さすがプロだ!」と感心した。

市長に取材する記者たち


 掲載までは1カ月ほどかかり、「どんな記事になるのかな?」と楽しみにしていたら、各紙に見開き(2ページ)の大きな特集記事が載った。それぞれ各取材テーマを一括にまとめて「JICAを通した日本国の援助」を分かりやすく紹介してくれた。各紙それぞれの個性を生かし、大衆紙は大きな写真をキャッチーに配置した見やすい構成で、高級紙はグアテマラの大きな社会問題である不法移民による若者流出をテーマに子どもや地域住民にJICAがどんな援助をしているかを詳しく報じていた。著作権の関係で紙面画像はぼかしたものしかお見せできないが、「ディアリオ・デ・セントロアメリカ(Diario De Centroamerica=中米の新聞)」紙の電子版があったのでリンクを貼っておきます(自分も登場してます!)。

掲載紙面の一部


 さて、JICA(日本)の活動を知ってもらえる良い機会となった今回のプレスツアーだったが、「同業者」としても彼らの仕事ぶりに驚き、感心し、共感する良い経験だった。一番驚いたのは入社まだ3年目という20代の女性新聞記者の働きぶりだった。大きな一脚(カメラを固定する足1本の棒)を抱え、でっかい一眼レフカメラを首から下げ、リュックに大きなウエストポーチという重装備で「重たそうだな~」と思っていたら、まずはリュックからノートとICレコーダーを取り出して関係者の話をメモって録音し、合間にパシャパシャと写真を撮る。一通り話を聞き終えたら、今度はカメラを一脚に固定し、主要人物のインタビュー動画の撮影を始めた。カメラで動画も撮れるのだ。「頑張るな」と見ていると、次はウエストポーチからごそごそと何かを取り出した。出てきたのは小型のドローンだ。てきぱきと組み立て、ブーンとあっという間にカメラ付きの機体を上空に上げ、取材地域の空撮を始めた。1時間弱の取材時間でこれらすべてを黙々とこなす彼女の能力に「これは、できる…」と感嘆した。

日本より規制が緩くどんどんドローンを揚げる


 日本は特にそうなのだが、かつての取材現場は記者は記事を書く人、写真を撮るのはカメラマン、動画を取る動画カメラマンと分業されていた。テレビだとさらに照明やマイク(音声)、コードを持つ助手みたいな人などさらに分業され、運転手も含めて4、5人のクルーで取材に来ることも珍しくなかった。しかし、紙新聞やテレビ全盛期からネットの時代となり、各社の人員(コスト)削減もあって、今はマルチタスク(複数の作業を行う能力)が求められている。以前いた新聞社でも「記事を書くだけでなく写真も動画もSNS発信も何でもできる記者」を若手育成の目標にしていた。人員減というマイナスな背景だけでなく、個人がだれでも自分で情報発信をできるネット時代にあって、記者も自分で取材・編集・発信ができなくては生き残れないと考えているからだ。

 今回同行した他のグアテマラの記者やカメラマンたちも、撮影した動画を自らアプリで編集したりと複数タスクをこなしていて、正直、日本のマスコミの現場よりも「進んでいる」と感じた。裏返せば、日本よりもマスコミ産業の変化(紙媒体の衰退、デジタル化)が早く進み、対応を迫られているということだろう。彼らに「同業者」として話を聞いてみた。「編集局の人数が減ったね。以前は運転手の車でカメラマンと取材に行っていたけど、今は自分が運転手だしカメラマンだよ」「とにかくネットで速報が大事。それも文章だけでなく動画がいる」「でも若い人は動画は15秒以上は見てくれないよね」「キャッチーな見出しを付けないと読んでもらえないし」。どれも1年前に日本の新聞社で同僚と話していたことと全く同じ内容で深く共感した。

ボランティアが活動する学校の子どもたちに取材


 ネット、SNSの普及で「斜陽産業」とも言われるマスコミだけど、今回のツアーで記者たちを見て「情報を人に伝える仕事はやっぱり面白いな」と実感した。日本では「紙の新聞は10年でなくなる」なんて言われて久しいが(もう10年以上たつが…なんとかなくなってはいないものの各社の部数減は止まらない)、例え媒体の形は変わっても記者という仕事はなくならないとも改めて強く感じた。日本の若い記者さんたちはぜひマルチタスクを身に付けて、新しい時代のジャーナリストとして頑張ってほしいと、おじさんっぽく考えてしまった(説教くさくてすみません…)。

「プロジェクトのおかげで若者の移民が減る」と語る若い男性


 最後にグアテマラのジャーナリズムについて。グアテマラではここ数年、政府の汚職問題に関連して捜査を行う司法関係者の逮捕や国外逃亡が相次ぎ、同時にジャーナリストへの捜査や逮捕も起きている。昨年7月にはエル・ペリオディコ社の社長が資金洗浄などの容疑で逮捕された。これについて司法当局は「容疑はジャーナリズムに関するものでなく、ビジネスに関するもの」としているが、国内外の人権団体や報道組織が抗議をしている。間もなく裁判が始まるので注目だ。私たちの仲間である記者たちが安全に、自由に発言できる社会が続くことを願っている。

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