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バイオマスを化学の力で成分分離 未利用農作物を有効に 吉川琢也准教授に聞く【ちくだい×SDGs(5)】

松田 亜弓

十勝毎日新聞社 編集局メディアコンテンツ部

 -どんな研究をされているのでしょうか。
 トマト茎やバガス(サトウキビの搾りかす)などの農作物の非食用部や間伐材といった未利用バイオマスの有効利用について研究しています。バイオマスは主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンからできています。セルロースは紙などの原料に使われていますね。

 混合物なので、それぞれを使うには分ける手法が必要です。例えば、同じ混合物の石油であれば蒸留という手法を用いて灯油やガソリンなどに分けているのですが、バイオマスの場合には使えません。うまく成分ごとに分ける技術を新しく開発する必要があり、ここに注力して研究を行っています。各成分に分けたあとは、化学原料、材料、燃料などさまざまな用途へ展開できます。このような取組みは「バイオマスリファイナリー」と呼ばれ、SDGsへの取り組みが求められる中、期待されています。

吉川琢也准教授


 -どうバイオマスを分離するのですか。
 これまでの製紙産業の場合、紙の成分になるセルロースを回収するときにアルカリの試薬を使って、その他のヘミセルロースとリグニンを溶かし出す方法が使われています。溶けた成分は、熱源として利用されているのですが、元々の性質とは大きく異なった状態になってしまいます。

 研究では有機溶媒(水に溶けない物質を溶かす有機化合物)を使った分離を行っていて、水と有機溶媒の組合せをうまく選択して使うと、元々の性質を保ちながら、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを分離できます。セルロースは固体として回収されて、水層の方にヘミセルロースが分離します。有機溶媒として1-ブタノールを使った場合には、その層の中に溶けた状態のリグニンがきれいに回収されます。

 この分離方法はオルガノソルブ(オーガニック=有機(溶媒を用いて)、ソルブ=溶かす)というんですが、この言葉はこれまでにもありました。ただ、エタノールなど他の有機溶媒を主に使っていたんです。私たちの研究で使用する1-ブタノールは水と分かれる性質があり、こういった有機溶媒に着目した例は今までにありませんでした。


 -分離した後はどう使用するんでしょうか。
 これまでは主にリグニンに着目してきました。というのも、リグニンがうまく利用できていないという課題があったからです。構造がとても複雑なので効率的な利用技術がなく、これまでは主に燃料として燃やされていました。

 リグニンを樹脂にうまく混ぜることができれば、強度を強くしたり、燃えにくくなるなど樹脂の性能をアップさせることができます。もしくは、リグニンを構成するユニットまで分解できると、プラスチックの原料となるフェノールが得られます。包丁などのキッチン用品で取っ手が黒いものがありますけど、フェノール樹脂がけっこう使われています。強度があって燃えにくいという性質が活かされています。

 セルロースはバイオエタノールやナノファイバーの原料など用途はいろいろあるのですが、私たちはそのまま固体として活かす研究を進めています。これまでの用途の場合、一旦、セルロースを細かく砕く必要があるのですが、そうすると砕くエネルギーが掛かります。セルロースの配列を保った固体として利用する検討はあまり行われていませんでした。

 この固体と樹脂を混ぜることで、建物などを作る際の構造材(建物を構築するための骨組み)として利用できる可能性があります。強度が出て、腐りにくくなるので、建物やその補強、柵の一部などを考えており、構造力学が専門の先生(北海道大学・佐藤太裕先生)と共同で進めています。

 例えば、バイオマスとして竹を使っています。竹は、強くてしなやかなという特徴があり、古くから家具や家屋などに用いられてきました。しかし最近、九州や関西では竹林が増えてきていて、その管理が行き届かなくなっています。輸入品や代替品に押され、国内の竹の消費が減っているためです。新しい用途ができると、竹林の管理にもつながります。

抽出されたリグニン。上部のブタノール層にリグニンが含まれている


 -他にも活用方法はあるのでしょうか。
 先ほど、リグニンを樹脂の添加剤やフェノールとして活用できると話しましたが、より付加価値の高いポリマー(高分子化合物でプラスチック製品の素材となる)を新しく作る研究も、実用化を目指して共同で進めています(研究代表:弘前大学・園木和典先生)。
身の回りのプラスチック製品は、ほとんどは石油から作っているのですが、バイオマス由来の循環できる資源から作ることでSDGsにつながります。また、石油製品の置き換えだけでなく、これまで石油では作るのが難しかったポリマーが、バイオマスを原料とすることで作りやすくなるという可能性もあります。

 -今後の研究の展望は。
 家畜ふん尿の処理施設であるバイオガスプラントから生じる消化液の利用についての研究を、先に触れた研究と両輪で行っています。バイオガスは、電気や熱としてエネルギー利用することができ、消化液は、家畜ふん尿からバイオガスを取った後の残りの液です。肥料成分などが含まれているので、うまく回収して利用することができれば、地域での資源循環につながります。この研究は、十勝地域の生産者、企業、金融機関と電力会社の寄附を受けて開設された寄附講座(資源循環環境学講座)での取り組みの一環として行っており、環境負荷低減による循環型農畜産業の実現を目指して進めています。

 消化液は現在は主に牧草地にまいて液肥として活用されています。ただ、すごく量が多くなってきているのでまききれないという課題も生じていて。これはほぼ水分なのですが、窒素、リン、カリウムといった肥料成分を効率的に回収することが目標です。

 これまでもいろいろな方法で研究はされてきているのですが、乳牛を対象にした例はあまりありません。なるべくエネルギーやコストをかけずに、農学と畜産科学を連携するような形で行っていきたいです。

処理装置を用い、セルロース、ヘミセルロース、リグニンに分離する


 -帯畜大には昨秋、着任されました。抱負を。
 これまで私たちの生活は、石油製品や輸入資源に支えられてきましたが、十勝地域にある豊かなバイオマスの利活用に関する研究を通して、地域資源の地産地消の促進に繋げていきたいです。地産地消はモノの循環を生むだけでなく、そこに関わる新しい産業や雇用を創ることにもつながるため、持続可能な地域づくりにも貢献できれば考えています。

当てはまる目標



<よしかわ・たくや>
 札幌市出身。北海道大工学部応用化学科卒。同大学院修士課程、博士後期課程修了。北海道立総合研究機構研究職員、北海道大大学院工学研究院助教を経て、帯畜大環境農学研究部門准教授、北海道大大学院工学研究院招へい教員。

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