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天然由来からウイルスに効く薬を 新型コロナにも効果 家畜のウイルス診断開発も 武田洋平助教に聞く【ちくだい×SDGs(6)】

松田 亜弓

十勝毎日新聞社 編集局メディアコンテンツ部

 ―研究のテーマを教えてください。
 ウイルスは病気を引き起こす病原体です。天然由来のものからウイルスに効く薬や、あるいはウイルスを殺す消毒薬になるものを見つけるための研究をしています。

 なぜ天然物(自然から得られる物)というと、これまでも多くの医薬品が開発されている中で、半数ほどが何らかの天然物が起源だということが言われています。天然物にはがんに効いたり、細菌やウイルスを殺したりとさまざまな薬理作用がありますが、まだ多種多様なものが眠っているのではないかと言われていて、探す研究が行われているんです。

 ウイルス制御に応用できるものとしては、細胞に感染したウイルスが増えるのを防ぐ効果がある「抗ウイルス化合物」という治療薬のようなものと、ウイルスを直接殺す「殺(さつ)ウイルス化合物」という消毒薬のようなものがあります。

 ただ、この既存の「殺ウイルス化合物」は全てではないですが、副作用といった有害応答が問題になっているものもあります。例えばアルコールは非常に良い消毒液なんですが、使い続けると手が荒れたりすることもあります。また、新型コロナウイルスにはよく効くのですが、ノロウイルスに対する効果は限定的とも言われていて、ノロウイルスに対する使用は推奨されていません。

 ノロウイルスの消毒には漂白剤などとして使われる「次亜塩素酸ナトリウム」が厚労省で推奨されていますが、刺激性が強く人の手には使えないですし、金属が腐食してきます。そうしたことから、使いやすさや安全性に問題がありました。

 天然物だからといってトリカブト(毒性のある植物)のように全てが安全というわけではありませんが、例えば生薬や漢方薬のように昔から食されてきた経験があり、かつ薬効成分があるものも多くあります。環境に優しく、人体に無害な天然物を見つけ出し、現在使われている人工的なアルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどに代わるもの、あるいは新しい治療薬に繋がるものを見つけたいと考えて研究しています。

武田助教


 ―効果のある天然物を見つけるための研究とは。
 私たちの研究室は天然物から化合物を取り出す技術は持っていないので、そのような分野を専門とする別の大学の先生や企業と共同研究しています。

 今は非常に安全性への消費者ニーズが高いので、企業も天然物に注目しています。私たちの研究室では共同研究の相手が天然物から抽出した化合物を実際にウイルスと反応させ、ウイルスを殺す力や薬のような作用があるかを実験を通じて見つけていきます。

 どのような実験かというと、例えば東北医科薬科大学の先生との共同研究では、ユキノシタ(渓谷沿いの湿った斜面の岩かげに分布する多年草で、日本各地に生えている)に消毒薬の効果があるのかを調べました。ユキノシタ属の約5種類の植物からエキスを取り、そこからさらに一つ一つ化合物を取り出し、ウイルスを殺すものがあるかを調べたんです。

 結果、ウイルスを殺す力があるものが見つかりました。「縮合型タンニン」という化合物が効いているだろうと考えられます。この共同研究は現在、特許出願中です。

日本や中国、モンゴルなどに自生するユキノシタ。研究では根以外の部分を使用した


 ―どんなウイルスを殺す力があったのでしょうか。
 実験で標的にしたウイルスは新型コロナウイルス、A型インフルエンザウイルス、またヒトのノロウイルスの代替として用いられる2種類の動物のウイルスです。ウイルスをユキノシタ属植物のエキス、あるいは単離した縮合型タンニンと混ぜ、一定時間反応させてウイルスがどれだけ殺されたかを確かめました。消毒薬としての効果を見るような実験ですね。

 どれぐらいウイルスが殺されたかは「不活化」と言います。新型コロナウイルスは10秒で99%以上が不活化されていて、インフルエンザも同様に10秒で99%以上。2種類のノロウイルスの代替ウイルスのうち1種は少し手強い種類でしたが、それでも1分ほどの非常に短い時間で90~99%の不活化を達成できました。

効果を試すための対象となった人間に身近なウイルス


 ―四つのウイルスそれぞれに効果が見られました。どんな活用方法が考えられますか。
 普通に消毒薬として使ってもいいですし、あるいはアルコール消毒薬に混ぜることでその分アルコール含有量を下げることができ、今までアルコールで皮膚が荒れてしまっていたような人にも使いやすくなると考えています。ノロウイルスに対しても次亜塩素酸ナトリウムの代わりに。ユキノシタは生薬にも使われているので、飲んでも平気です。なので食品を扱う時や子ども、ペットにも安全です。

 ハンドクリームもアイデアの一つです。ウイルスは口などの周りを手で触ることで口の中に入ってきたりするので、ウイルスを殺す付加価値が付いたハンドクリームも良さそうです。

 ユキノシタのエキスをクリームに練り込み、ウイルスと反応させる実験をしましたが、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスの代替ウイルスはクリーム状でも変わらずそれぞれ不活化できました。ユキノシタには炎症を抑える消炎作用もあるので、皮膚の荒れや炎症を抑えつつ、ウイルスを殺してくれると思います。

 うがい薬やトローチにして、体の中に入る前にウイルスが侵入するのを防ぐこともできるかもしれません。あとはマスクや日用品に塗布してもいいですし。こうしたこれまで見いだされていなかった天然物の新しい利用価値を見つけることがSDGsとマッチしていると思います。

ユキノシタのエキスを混ぜたクリームは、4つのウイルス全てで不活化の効果を示した


 ―活用に当たっての課題は無いのでしょうか。
 「この植物が効く」と話題に挙がったら、乱獲が問題になります。こうした天然資源を扱う時は、一つは大量に栽培できる環境を整えなければいけません。そうしたことは分野外なので、原料となる植物の栽培、生産ラインの確立、製品化―を企業と共に更に進めていく必要があります。

 幸い、ユキノシタは栽培法が確立されていて、生薬として市場に出回ったりもしているので、製品化には近いものなのかなと思います。

 もう一つの課題ですが、天然物でも何らかの製品を作る時には捨てられる部分が出てきます。そうしたこれまで廃棄されていたり、使い道がなかったりといった天然物にも着目し、ウイルスに効果がないかを研究しています。

 ―ウイルス感染症の診断法の開発も行っています。
 また別の研究になりますが、ウイルス感染症の迅速で簡便な診断方法を開発しています。これも他の先生との共同研究ですが、北海道大学の先生が開発した野外に持ち運べる小型検出装置を利用して、家畜におけるウイルス感染の有無を迅速に判定できる診断系の確立も目指しています。

 なぜこうした装置が必要かというと、今は人の新型コロナウイルスの簡易検査が15分ほどでできますが、このように迅速に診断をすることはウイルスのまん延を防ぐという意味で非常に重要です。家畜も人と同様に多くのウイルスの病気がありますが、その中でも被害が甚大になる病気がいくつかあります。代表的なものとしては豚熱、口蹄疫、鳥インフルエンザが挙げられますが、上述した病気は感染が確認された場合、動物を殺処分しなければなりません。すぐに封じ込めなければ甚大な経済被害が起こりうるため、速やかに早期摘発しなければいけないんです。

帯畜大の武田助教、小川晴子教授ら研究グループが開発したウイルス抗体を検出する検査装置を取り上げた十勝毎日新聞記事(2020年5月21日付)


 ―十勝で課題になっているウイルス性の感染症はどのようなものがあるのでしょうか。
 現在、十勝地方では牛が感染する「牛ウイルス性下痢ウイルス感染症」というウイルスの病気の早期摘発に力を注いでいます。乳量や増体量、繁殖成績の低下といった影響があり、また群れに広がりやすいので、十勝全体で感染拡大を抑える取り組みを何年も前から行っています。

 このウイルスは「BVDV」と訳されるんですが、少しずつウイルスの形が違うバリエーションが存在します。専門的には「遺伝子亜型」ですとか「抗原性」などと言うんですが、新型コロナウイルスの変異株のように思っていただければ大丈夫です。そしてこの病気の予防にはワクチンが有効だと言われています。

 ただ、人の新型コロナウイルスもそうですが、実はワクチン接種によって体の中で作られた抗体は、ワクチンウイルスと形が少し違うウイルスが体内に侵入してきた場合に十分ウイルスを抑え込むことができず発症してしまうことがあります。ただ、このように発症してしまったとしても重症化は抑えられるといった効果はあります。

 BVDV感染の有無の検査によく使われるのが人の新型コロナウイルスでも使われているPCRという遺伝子検査です。BVDVでは感染が疑われる牛から血清を採り、ウイルスの遺伝子の有無を調べます。

 PCRは比較的早く結果が出て、検出感度もいいのでよく使われるんですが、検体数が多いとその分の時間や人の手も掛かります。

 ―そこで診断法の開発に着手したのですね。
 今は機械による自動化が求められていて、ある企業がウイルスの遺伝子を全自動で抽出できる装置を開発しました。人の医療領域でもよく使われているのですが、牛などの畜産領域にも使えないかという共同研究をしています。私たちの研究室ではその装置の性能評価を行っていて、従来から使われていて、すでに性能が確立している手動の遺伝子抽出法と比べました。

 十勝で採取されたBVDV感染牛の血清から上記の異なる2つの方法でウイルス遺伝子抽出を行った結果、全自動装置の方が手動の従来法に比べてより多くのウイルス遺伝子が採れ、抽出効率がいいことが分かりました。使い方も検体をセットしてスイッチを押せば30分ほどで結果が分かるので、時間や人手も掛かりません。

―省力化につなげることができたんですね。
 十勝地方の多数のBVDV感染牛から検出されたウイルスの遺伝子配列を調べたところ、大部分が特定の一種類の遺伝子亜型に属することが分かりました。少数ですが他の型もあり、こうして現在どういった種類のウイルスがまん延しているかが分かると、どんなワクチンを接種したらいいのかが分かります。

 家畜の場合はウイルス感染症が疑われる動物を早期に摘発し、そして現在はやっているウイルスの遺伝子情報などを解析することで感染の拡大を防げます。経済的被害の軽減や食の安全にもつながると思います。

当てはまる達成目標


<たけだ・ようへい>
 1986年、札幌市生まれ。帯広畜産大畜産学部共同獣医学課程卒業後、北海道大大学院博士課程修了。専門はウイルス学、免疫学。

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