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十勝は60年前不毛だった 土の分析・改良で節約+収量増+合理的に 谷昌幸教授に聞く【ちくだい×SDGs(4)】

松田 亜弓

十勝毎日新聞社 編集局メディアコンテンツ部

 -研究のテーマは。
 畑の土壌を分析し、作物生産にとってより良い環境を作るための研究をしています。土の素性を理解し、悪いところがあれば改良を提案し、元々土が持っている機能をより引き出す―というのが3大テーマ。これを組み合わせることで、環境負荷を最小限に抑えることもできると考えています。

 持続的に食料生産を支えるためには土の力が必要です。土といっても、成り立ちはさまざま。その土がどういう風にできてきて、どういう素性を持っているかということを分からずに、土づくりはできません。

谷昌幸教授


 -十勝の土の特徴は。
 十勝の土はほとんどが火山灰由来で、噴火で上空高くに飛ばされ、偏西風に乗って運ばれてきた火山灰が大地を広く覆っています。噴火の際に灰の中に入っていた水やガスが外に逃げると、火山灰には多くの穴が空きます。

 昨夏は記録的な干ばつでした。雨が降らず、気温が高い日が何日も続き…農業への影響が心配されましたが、作物は収穫できました。なぜ大丈夫だったのかというと、実は雨が1、2週間降らなかったからといっても十勝の土はカラカラにならず、水を保持していたんです。

 雨が降らないなど環境に変化があっても、土には影響を最小限に抑える「環境自律性」があります。例えば1990年代には酸性雨が降ると、森が枯れたり魚が死ぬと言われていましたが、そんなことは起こらなかった。これは、土に酸性雨を和らげる力があるからです。

 土には養分や水を供給するだけでなく、こうしたさまざまな機能があります。その隠れた機能をより引き出すためには、土の素性をよく知ることが大切です。

 -土の素性を知るにはどうしたら。
 土の素性を知るには、まず穴を掘ること。土の層の成り立ちを明らかにします。例えば池田町のブドウ畑を挙げると、川の横の低地の畑と、ワイン城の裏の畑も全く土が違うんです。

池田町内の清見園地の土壌

池田町内の千代田園地の土壌



 十勝の土は「地形」の影響を大きく受けます。十勝の大地は太平洋プレートに押されつつあって、何万、何十、何百万年単位で見ると隆起していて。その周りに山があり、川で削られて谷ができる。また上がり、削られる。これが進むと階段状の河岸段丘になります。上に行けばいくほど古い段丘になりますね。

 十勝には樽前山、恵庭岳、支笏火山。この3つの火山灰が多く降り注ぎました。この何万年、数千年の間に噴火した火山灰がたまっています。

 飛んできた恵庭岳の砂や、支笏の軽石が土の下にある畑は、ナガイモがよく育ちます。砂や軽石は排水性が良く、空気が通る。ナガイモやゴボウは根なので呼吸する必要があり、通気性が良くなければ腐ってしまうんです。なので畑を知るには穴を掘った方がいい。

樽前山の調査



 この火山灰の影響で、十勝の大地は60年前まではかなりの痩せ地でした。この話をすると多くの人が驚くけれど、不毛の大地といってもいいほどで。

 というのも、十勝の畑はリンの固定力が世界一といっていいくらい高い。肥料には窒素・リン酸・カリという3つの要素があり、作物生産の維持や向上にとても大切な役割を果たしています。ただ、十勝はリン酸が作物に吸収される前に土にくっついてしまう。その力がとても強く、肥料を入れなければ何も実らなかったんです。黒ボク土という土が半分以上を占めているんですが、その土がリン酸を多く吸収してしまうんです。

 これまで世界中のリン固定力が高い国々の土を調べて見ましたが、十勝が最も高かったです。リン酸をたくさん入れても、1~2割ほどしか作物にいかない。日本国内も同様の傾向があり、この60年ほどリン酸肥料を多く入れ続けてきました。ただ、土の中にリンが貯まってきたかというと、貯まった量を1とすると今後貯められる量はその10倍。それくらいリン固定力が高い土ですが、元々の生産力が高くないところに、人々が改良を重ねて良くなっていったんです。

 なので、日本は世界的にもかなりの量のリン酸肥料を使っています。この肥料は「リン鉱石」という化石資源からしか作れず、世界には710億トンの埋蔵量がありますが、年間2億2000万トンが消費されています。となると、後320年で無くなる計算です。

 そして、このリン鉱石は偏在していて、モロッコと西サハラに7割があります。日本はリン酸を大量に使うことで土壌の栄養不足の問題を解消してきました。ウクライナのことで今回明らかになりましたが、地勢的な問題が発生したとき、資源がないというのは一大事です。

 加えて、ヨーロッパ諸国は環境に配慮してリン酸肥料の使用を控え始めています。高い食糧自給率、進む大規模畑作…というけれども、リンが手に入らなくなった時にいまと同じ農業は続けられない。リンは日本が一番先に考えていかなければいけない資源なんです。

日本と世界の農耕地における面積当たりのリン酸施肥量の推移



 この問題の解決のために、いくつかアプローチをしています。

 ひとつは、必要のないところにはまかないこと。一枚の圃場(ほじょう=農地)でも、リンが多く入っているところと、そうではないところがあります。十勝は一枚あたりの面積が大きいので、いろんな土壌タイプが一枚に含まれるんですね。火山灰でできていても、黒い、茶色い、砂が多い…など違いがある。これまでは一枚の圃場に一律の肥料を使っていましたが、ドローンや衛星画像を用いて土の性質を予測し、リンが多いところと少ないところの予測をしようとしています。

 この研究はかなりいいところまで進んでいて、土の性質に応じて肥料をまく量を変えられれば合理的な施肥(肥料をまくこと)ができます。本当に必要な分だけまくことができるんですね。今までは経験や勘でまいていた肥料を、積み重ねてきたデータで可視化することでスマートな施肥ができるようになります。

 -十勝の土は良くなってきている?
 60年間たくさんのリンを入れてきたので、土はリンが効きやすい状況に変化してきました。肥料が要らなくなっている土に過剰な肥料を上げても、収量を下げてしまいます。にも関わらず、生産者の8割以上が肥料を与えすぎていて、そうなると太っている人にごはんを食べさせすぎているような状況です。作物が取れなくなってきたら肥料を入れればいいという考えは間違いで、土をよくすることが大切なんです。加えて、肥料を上げすぎると病気や傷のリスクも高まり、いろんな面で品質が落ちることも分かっています。まるで人間のメタボリック症候群と同じですね。

化学肥料の増減を人間の体形とご飯で例えると…


 最近はホクレンの協力もあり、十勝でも改善に取り組む人が増えてきました。ポテトハーベスタに収量センサー(コンベア周辺に付ける収量を感知する機械、100万円程度)を付け、圃場の収量の高いところ、低いところを見ていくんです。低いところはサンプルを取って分析すると原因が分かるんです。

 将来的にはドローンの上空画像や土の断面調査などを通じてリンなど養分の高いところ、少ないところとの予測を付けることが目標です。現在の肥料は窒素、カリウム、マグネシウムなどがあらかじめブレンドされた状態ですが、インクジェットのようにそれぞれタンクを分け、現場で混ぜるようになれば。「オンサイトブレンド」と名づけているのですが、土壌の分析ができていれば、どこにリンを多めに入れればいいとかが分かるので、タンクから自動的に肥料が落ちるようにする。そうしたら生産者も気にせずに合理的なスマートな施肥につながります。これが十勝の大規模農業にマッチし、収量、品質、安全性も上がるんです。

 こうした研究がいまできるのも、土壌の成り立ちや診断など積み重ねてきたものがあってこそです。

施肥の実態調査。いずれの肥料も過剰に使用されている割合が高い


 -リンを日本で賄うことは可能なのか?
 また、リンを自前で賄うための研究にも力を入れています。

 鉄鋼業では鉄鉱石とコークスから鉄を溶かし出します。その時に銑鉄のかすが残り、「高炉スラグ」と言うのですが、ほとんどがセメントに使われています。一方、銑鉄から鋼を作るときには不純物を取り除いたかすである製鋼スラグにはさまざまな元素が含まれていて、その代表格がリンなんですがリサイクルはうまく進んでいません。

 そのリンを回収できると日本の農業で使うリンの半分くらいを賄えるので、日本製鉄やJFEスチールなどと協力して研究を進めています。これは普通のリン酸肥料より良くて、3年間掛けて実務的な物にしていこうという動きになっています。これが終われば実用化に持っていけるかもしれません。

 これとは別に、土にたまっているリンにも着目しています。もしリンを取り出せたら作物に必要なリンが500年分くらいたまっているんです。これは菌や緑肥で取り出せないかと研究を進めています。

 また、「肉骨粉」もリンの塊です。肉骨粉は燃やすとエネルギーが手に入り、燃やした後の白い灰が純度の高いリン酸カルシウムです。肥料として使ってもいいものですが、まだ肉骨粉にはBSE=危ないという風評が残っています。イメージの問題で使われていないんですね。

 SDGsを考えるときに大事なのは生産者だけでなく、消費者側の意識も変えていくことが良い方向につながっていくと思います。こうした多方面から研究をすることで、畑に取ってより良い環境を作り、環境負荷に配慮した持続的な食料生産を支えていきたいと考えています。

畜大圃場での小麦栽培試験(21年)

当てはまる目標

 

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