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堆肥が再び脚光集める理由とは!? 全自動機械化×土壌に優しく×牛の寝わらにも 宮竹史仁准教授に聞く【ちくだい×SDGs(3)】

 -堆肥の役割が見直されていると聞きます。
 家畜の糞(ふん)尿などのバイオマス(木材や汚泥、生ゴミなど再利用可能な有機性の資源)を堆肥にし、土に与えることで安心安全な畑作り、また牛の寝わらとして活用するなどして持続可能な農畜産業を目指しています。

宮竹准教授


 堆肥は家畜の糞尿や落ち葉などの有機物を、微生物の力で分解させて作ります。日本の農家でも戦前は3年ほどかけてじっくり作るのが当たり前でしたが、戦後は化学肥料に頼ってきました。両方うまく使えれば良いのですが、化学肥料に頼り切ってしまったせいで土壌劣化が深刻な問題になっています。もちろん十勝も同様で、「収量が落ちてきた」という声をよく聞きます。

 そこで堆肥の重要性が見直されているのですが、堆肥を作る知識がある日本の農家はほんの一握り。化学肥料に慣れ親しんできたので、作る知識が継承されてきませんでした。

 堆肥化していない生の糞を畑にまいている農家もありますが、化学肥料と共に限度を超えると土壌に成分が貯まりすぎてしまいます。これが硝酸態窒素などの地下水の汚染につながるのです。

 ただ、人手不足も問題になっている中、堆肥作りに人手は割けません。でしたら機械化し、知識がなくても自動で作れる仕組みを作る。そうしたら、例えば酪農家だったら生乳生産といったところに人手を掛けられるようになります。

 -堆肥を全自動化で作る機械はどのようなものでしょうか?
 堆肥を作る機械は「堆肥クレーン」といって、30年ほど前、農水省所管の研究所での勤務時代に先輩方が作り、私たちが改良しました。十勝を含めて北海道では「スクリューオーガ型」の堆肥撹拌機械が比較的良く使われているのですが、比べると電気代は10分の1です。全自動なので人手も掛からず、さまざまな空気の送り方ができることから微生物のよりよい働き方を探り、メタンや亜酸化窒素といった地球温暖化に影響する温室効果ガスを従来と比べて7割減らせます。

 スクリューオーガ型と比べると規模にも依りますが1500万円程度高くなります。高いと思われるかもしれませんが、電気代のランニングコストなど広く捉えると安上がりです。

堆肥を全自動で作る機械。現在は北海道、静岡県、広島県で使用され、特許も3点取得している



 現在は北海道、広島、静岡の3道県7件で導入され、十勝でも3件で使われています。一から設置する場合もあるし、既存の施設に導入するなど大きさもオーダーメイド。北海道は農協で主に使われていますが、規模が大きい民間農場からも希望が来ていますし、順調に増えています。

 十勝農業協同組合連合会との共同研究も行っていて、大樹町の牧場では堆肥クレーンを活用した新たなシステムを試しています。

堆肥クレーン


 -堆肥をまいた畑で作った作物のメリットは。
 堆肥の使用用途として、まず畑に肥料として使います。いわゆる有機栽培ですね。堆肥を与えてどんな効果があるのか、化学肥料との違いなどを検証しています。

 研究から分かったことの一つとして、堆肥を使った小松菜は化学肥料で育てたものよりもビタミンCが多く含まれています。また、土の微生物の多様性が増えていて、土壌劣化を防げることも分かりました。冷害や干ばつ、外からの病原菌も影響しにくくなります。

堆肥が土壌や作物に与える影響は大きい



 -牛のよりよい生活環境にもつながる使い方があると聞きます。
 肥料だけではありません。今すごく重要視されているのが、牛の“寝わら”として使うことです。

 十勝の農家さんからの相談も多いです。寝わらというと麦稈(ばっかん)やおが粉が使われてきましたが、現在、非常に値段が高く品薄です。これは全国的な問題で、業者に頼んでも「いつ入荷するか分からない」と言われてしまう。なぜ品薄かというと、麦稈やおが粉がバイオマス燃料として使われているからです。燃料としての方が高く売れるので、農家と取り合いになっている現状があります。

 10年ほど前、おが粉は1立方メートルあたり1500円でしたが、今だと5000円以上。規模の大きい畜産農家だと1立方平方メートルあたり3、4000円の時代でも2000万円ほど掛かっていました。

 そこで注目されているのが堆肥を寝わらの代わりの敷料に使うことです。

 本州では敷料としても使われてきたのですが、北海道ではそうした例はありません。なぜかというと、良質な堆肥ができなかったからです。北海道は寒く、なかなか発酵しづらいので本州と比べて良い堆肥ができにくい。よって敷料としての利用も進んでこなかったんです。

 ただ、機械等の工夫の仕方で良質な堆肥が作れるようになりました。堆肥の敷料はおが粉をどれだけ混ぜるかにもよりますが、コストは2~3分の1以下になります。堆肥100%だと敷料代は0円になるんです。

堆肥を寝わらとして活用することも期待されている


 海外ではすごく注目されていて、アニマルウェルフェア(動物福祉)とも関連させた飼養管理も行われています。敷き方や交換のタイミングといった牛が気持ちいいと感じるように使うための方法も十勝農協連と研究しています。ストレス値や横になっている時間を調べたりですね。大腸菌群といった病原菌も堆肥の微生物が働いてやっつけてくれるので、おが粉より減ります。大腸菌が減るということは牛の乳房炎を抑える効果もあるんですよ。アンモニアなどの臭いガスも減ります。十勝でも少しずつ使われて始めてきました。

 ただ、海外の一部の論文では堆肥敷料で育った牛の牛乳やチーズは風味が劣るとの報告もあります。知人の農家で堆肥敷料を使って販売しているチーズはすごく人気なのですが…これから研究が必要ですね。

 こうした研究・取り組みを通じ、持続可能な農畜産業を目指しています。

<みやたけ・ふみひと>
 1972年、北海道小樽市出身。2003年、岩手大学大学院連合農学研究科博士課程修了。同年食品総合研究所特別研究員。宇都宮大学地域共生研究開発センター講師(中核的研究機関研究員)、日本学術振興会特別研究員、畜産草地研究所研究員を経て、08年帯広畜産大学地域環境学研究部門講師。12年から現職。

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