勝毎電子版ジャーナル

勝毎電子版

温暖化に影響する反芻動物のげっぷ えさでメタン量減る? 西田教授に聞く【ちくだい×SDGs(2)】

 -牛や羊のげっぷが温暖化に影響を与えていると言われています。
 牛や羊など反芻(はんすう)動物のげっぷに含まれるメタンは、地球温暖化に与える影響が大きいと言われています。エサによって乳牛の乳量やげっぷのメタン量は変わるので、適した飼料の研究をすることで地球温暖化の阻止を目指しています。

西田教授


 反芻動物には4つの胃袋があります。牛では焼肉でいうと第一胃がミノ、第二胃がハチノス、第三胃はセンマイ、第四胃はギアラ…というと分かりやすいでしょうか。第四胃が人間と同じ胃袋です。

 反芻動物は主に第1~3の胃袋で草を消化します。特に第一胃には微生物が非常に多く、胃の中で食べた草や飼料が発酵してげっぷとしてメタンが出て来ます。特に草を食べるとげっぷはたくさん出るので、“動物らしく”飼うほどメタンも出るということです。

牛の消化器


 ちなみに、人間のげっぷは食べた時に飲み込んだ空気なので、反芻動物のげっぷとは違います。反芻動物のげっぷは深夜3時半ごろがピークで、胃で発酵したものが貯まると出る仕組みです。

 地球温暖化に与える影響ですが、例えば二酸化炭素を1と考えると、メタンはその25倍、糞尿から出る亜酸化窒素は310倍も与える影響が大きくなります。同じ量を出しても全然違うんです。このメタンですが、二酸化炭素に換算して考えると牛1頭に付き、1年間で車で2人が乗って6000キロ走るほどの量にあたります。

 地球全体のメタン発生量のうち、反芻動物の家畜に由来するものは15~19%。そのうちの発生割合は牛は70%と体が大きいこともあり大きく、羊は10%、水牛9%、ヤギ4%と続きます。反芻動物の家畜からのメタンがその国の温室効果ガス発生量に占める割合は、ニュージーランドでは33%にもなります。これは人口の10倍、約4000万頭の家畜がいるからです。他の主な国はオーストラリア10%、アメリカ5%で、日本は0・5%になります。

家畜種別メタン発⽣割合

反芻家畜からのメタンがその国の温室効果ガス発生量に占める割合


 -与えるえさによってメタンの量を減らせるのでしょうか?
 エサを食べると、一部は糞尿やげっぷ、熱として出て行き、残りのエネルギーが牛乳や肉になります。げっぷに含まれるメタンを減らせば、より牛乳や肉といった生産のためのエネルギーに回すことができます。また、より生乳を出すことのできる牛の方がメタン排出量が少なくみなせるというデータがあるので、高い能力の牛を小頭数飼えばメタンが少なくなるという考え方もあります。

反芻動物における摂取飼料エネルギーの体内配分

エネルギーの体内配分


 メタンを減らすエサの研究ですが、最近はスイスの農業技術のスタートアップ企業「Mootral(ムートラル)」と共同研究を行っていました。ニンニクとオレンジの皮を混ぜた飼料サプリメント「ムートラル」を製造した企業なのですが、エサに混ぜるとげっぷ中のメタンを減らす効果が分かっています。私はエサのムートラルの割合を変えることでメタン量の変化を調べました。

メタンを減らす効果が見られ、注目されているムートラル

 
 ニンニクなので臭いがあり、たくさん混ぜると嫌がって食べない個体も出てきます。なので混ぜたエサを朝のみから朝・夕の2回に分けて食べさせたりと工夫しました。

 他にもげっぷ中のメタンを減らす効果のある物として、微生物の「ユーグレナ」があります。動物と植物の両方の性質を持っていて、消化もしやすい。二酸化炭素と日光があれば増えるので発展途上国での培養にも向いています。農耕飼料を置き換えたところ、メタンが減る効果が見られました。こちらは特許を共同で出しています。

 最近注目されているのは「カギケノリ」という海藻です。少量で効果がすごくあるのですが、ただ、海藻ですから調達が大変だという課題もあります。このほか、北海道大はカシューナッツの殻の液を研究していますし、モネンシンという抗生物質も有効だと分かっています。ムートラルはニンニクとオレンジの皮の天然物質なので消費者に受け入れられやすいという長所がありますが、まだ研究が進んでいないのでデータを集めていく必要があります。

 ただ、こうした温室効果ガスの問題は大きな視野で見ることも大切です。

 トウモロコシや麦といった濃厚飼料はほとんどが輸入で、運搬に係る船やトラックが排出する二酸化炭素についても考えていかなければなりません。北海道は比較的、飼料を自給しているので多く草を与えるとメタンの排出も多めになりますが、外国から輸入していないという点ではいいんです。

牛のげっぷ採取


 糞尿も消化率が高いエサを与えれば減ります。例えば消化率100%のエサだと全く糞が出ませんが、草だと50~60%なので、“牛らしく”飼おうと思うと糞が多く出てしまいます。バイオガスプラントなどを使って糞からのガスを外に出さないようにするというのもありますが、畜産と地球温暖化の問題は広い視野で考えていかなければいけないですね。

<にしだ・たけひろ>
 1964年岡山県倉敷市出身。京都大農学部卒。農林水産省の畜産試験場や草地試験場などを経て、駐在員としてタイに赴任。2008年から帯畜大。

当てはまる目標

記事のご意見・ご感想
深掘りしてほしい話題はこちらへ

かちまい投稿ポスト