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山あいに広がる古都・アンティグア

古都アンティグア、すてきなカフェ巡り あれから20年~再びグアテマラへ(5)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 グアテマラに来るJICAの青年海外協力隊員は出発前に、日本国内の訓練所でスペイン語の訓練を受ける。自分はその時に初めてスペイン語を学び、初心者レベルでこの国にやって来た。さすがにそのまま1人で任地に放り込むのは酷だということなのか、グアテマラに来てからも数週間の語学訓練がある。その学校の場所が世界遺産にも認定されている歴史都市のアンティグア・グアテマラ(Antigua Guatemala=古いグアテマラ)だ。

山あいに広がる古都・アンティグア


 20年前、初めてのグアテマラ生活をスタートさせたこの街は思い出深い。スーツケースをガラガラと引いて、語学学校に通うためのホームステイ先に着いた時の光景とドキドキした感覚は今でも心に残っている。今回職場の休暇を利用して久しぶりに滞在し、昔歩いた街並みを巡った。ホームステイ先がどこだったかはもう覚えていなかったが、当時初めての一人歩きに緊張しながら行ったスーパーが今も同じ場所にあったのが懐かしかった。街自体の雰囲気は当時と大きく変わらず、どこかタイムスリップしたような感覚も覚えた。

世界遺産・アンティグアの街並み


 そう、この街の魅力はそのゆったりとした時間感覚と言える。首都からは車で約45分の近さだが、アンティグア市街地に入ると道路はガタガタと石畳に変わり、スペイン統治時代の古い教会や建造物、当時の遺構や街並みが現れる。ここは16世紀ごろから約200年首都があった場所で、地震や火山の噴火で壊滅的な被害を受けて現在の首都に遷都したため、「古いグアテマラ」と呼ばれる。その後街並みが再整備され、1979年にはユネスコの世界遺産に登録された。そんな歴史ある街にとっては、20年前などほんの少し前のことなのだ。
                                                             
 そうした古いヨーロッパの雰囲気を残す街並みで、普通に生活できるのがこの都市の魅力だ。歴史を感じる石造りの建造物をおしゃれに活用したレストランやカフェ、伝統の織物など手工芸品を売る店舗がたくさん並び、歩いているだけで楽しい。そのため、一年を通して国内だけでなく、ヨーロッパやアメリカなどからの観光客があふれている。この街の人気の理由の一つが安心して滞在できる治安の良さだ。昼間ならば、首都のような緊張感を持つことなく、のんびりと街歩きを楽しめる。そんな理由もあって、ここには語学学校が多くあるのだ。

観光客や物売りでにぎわう街角


 ここで語学を学ぶメリットは、治安に加え、グアテマラのスペイン語の訛(なま)りの少なさもあると言われている。メキシコや中南米、カリブの多くの国で使われるスペイン語は国によって語彙(ごい)や発音などにそれぞれ特色があるが、簡単に言うとグアテマラは比較的「標準」っぽいらしい。なので、中南米を旅する前にアンティグアでスペイン語を学ぶという欧米人旅行者は珍しくなく、この街に滞在するといろいろな国の若者らと交流できる。自分も昔、同じホームステイ先だったイギリス人の若者と仲良くなった思い出がある。

まるでカフェのような語学学校


 今回滞在した目的も語学学校だった。わずか5日の滞在で、授業は午前中のみ。「そんな少しだけ通って意味あるの?」と思われるかもしれないが、マンツーマンでみっちりとスペイン語を聞く時間は密度が濃く、感覚を思い出すのにとても良かった。アンティグアらしく、色とりどりの花が咲き乱れるすてきな中庭を見ながら学ぶ優雅な雰囲気で、気持ち良く勉強ができた。優しい先生は期間が短いと思ったからか、「明日までに」と毎日どっさりと宿題をくれた。さて、ホームステイ先の部屋でやろうかとも思ったが、せっかくコーヒー産地としても知られるアンティグアにいるのだからと、午後は街角のカフェで勉強をすることにした。

カフェ・コンデッサの中庭


 アンティグアでカフェと言えば有名なのが「カフェ・コンデッサ(Café Condesa)」だ。にぎやかな中央広場から薄暗い建物をくぐると、明るい陽光が差し込む中庭にテーブルが並ぶ静かな空間が現れる。20年前にも来た記憶があるが、1993年開店というので、当時はまだ10年目ほどだったと思うと、ちょっと歴史の中に存在した気分がした。チーズケーキとコーヒーを傍らに中庭をのんびりと眺めていると、宿題の存在をすっかり忘れてしまう危険な店だった。

 歴史があるカフェと言うと「ドーニャ・ルイサ(Doña Luisa)」が代表格か。創業は1978年で、建物は1600年代の建設という。やはり石畳の中庭にテーブルが並び、ゆったりとした時間が流れる。ここはバナナケーキが有名らしいが、気分的にチョコケーキを頼み、コーヒー片手に勉強をした。中庭を舞う小鳥たちが膝に乗ってくるという夢のような時間にまたもや宿題の現実を忘れそうになったが、鳥が去った後のズボンにはリアルにフンが残されていた。
                                         
 学校に近くて今回特に気に入ったのが「ビエホ・カフェ(El Viejo Café)」という店。ここの中庭は広く開放的で、観光客の外国人からビジネスっぽいグループまでたくさんの人でいつもにぎわっていた。ここではアップルパイとカフェオレを注文し、新聞記事を読んで生きたスペイン語を勉強をするということをやってみた。やっているうちに自分で「これは絵になるな」と思い、スマホでいろいろな角度で写真を撮るのに夢中になり、勉強ははかどらなかった。

常ににぎわうビエホ・カフェ


 ということで、すてきすぎて勉強には向かない(すみません、自分の精神力不足です)アンティグアのカフェだが、コーヒーはもちろん、どこのケーキもおいしかった。コーヒーにどっさりと砂糖を入れる人が多いグアテマラで、20年前のケーキの思い出は「色がやたらカラフルで、むちゃくちゃに甘い」というものだった。ところが今回の再訪では、とにかくスイーツがうまい。その後首都でも何度も食べているが、甘さ控えめで上品だ。上から目線で申し訳ないが、この20年でスイーツの技術が向上したのか、はたまた20年前においしい店に行っていなかったのかは分からないが、「20年前と変わったもの」の答えを一つ見つけたかもしれない。

パン屋さんに並ぶカラフルケーキ


 しかし、半年間ほど過ごして、「やたらカラフルで甘いケーキ」も健在だということが分かった。街のケーキ屋さんやパン屋さんに行くと、誕生日などお祝い用に色鮮やかなホールケーキが並んでいる。何度か食べる機会があり、記憶の中ほど強烈ではなかったがしっかりと甘く、「これこれ、グアテマラのケーキはこうでなきゃ」と懐かしく、おいしくいただいた。世界遺産の話を書いていたのに、いつの間にかまた食べ物の話で終わってしまった。


 蛇足ながら、写真をもう1枚ご紹介。歴史都市・アンティグアではあのファストフード店の店内ですらこんなすてきな雰囲気だ。彼が座っていなければどこだか分からない。

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