ご当地グルメが食べたい! あれから20年~再びグアテマラへ(4)
前回はグアテマラの食について書いたが、十分に魅力や特色を伝えられたとは思えない。そこで今回も引き続き、食をテーマにグアテマラを紹介したい。本当は魅力的な世界遺産の街について書きたかったのだが、紹介しきれないことがたくさん残ってしまったので次回としたい。世界遺産よりも食べ物に執着があるのかと、少々自分に呆れている。
面積は北海道の1・2倍ほどとそれほど広くはないグアテマラだが、山も海もあり、気候も文化も多様なので、その土地ならではの味もある。いわゆるご当地グルメだ。今回はまだ着任半年で全国各地を回ったわけではないけれど、少ない体験の中でいくつかの名品に出合った。最初の出合いは「タサホ(Tasajo)」という肉料理。国中央部の高地にあり、高品質なコーヒーの産地として有名なコバンという都市には、七面鳥のスープ「カキック(Kaki´ik)」という代表的な名物料理があるのだが、なぜかそれではなく、タサホを食べることになった。
出張で行ったコバンの旅、同行したグアテマラ人の同僚が行きの車内でかつてこの地方で食べたという思い出の味を語り始めた。それがタサホで、たいそううまかったという熱弁を聞いていたら、もう食べずにはいられなくなった。昼食に郷土料理を出すレストランを探し、メニューを開くとそこにタサホの文字が。迷わず一皿50Q(ケツアル)=約900円を注文した。出てきたのは豚肉の煮込み料理で、日本の角煮に似ているが味はピリリと辛い。お肉がとろっと柔らかく煮込まれていておいしく、「これはビールだ!」と心の声が思わず外に漏れた。もちろん仕事中なのでレモネードと合わせたけれど、印象深いご当地グルメ第一弾となった。
コバンは別の機会にも仕事で訪れ、その時も郷土料理で有名な別のレストランに入った。「今度こそカキック」と心に決めていたのだが、いざメニューを開くとカキックの下に「ソパ・コバネーラ(SOPA COBANERA=コバンのスープ)」と書いてある。「コバンの~」と名乗るからにはこれは自慢の郷土料理に違いないと説明を読むと、「本来はカメのスープとのコンビネーションですが種の保護のため今はカメは入っていません」と興味深い一文が。これは頼むしかないと注文すると、牛肉の味がしっかりした野菜たっぷりのスープが出てきた。ヘルシーでおいしく、風邪が一発で治りそうな一皿だった。カメが保護されていることにも安心したが、結局いまだにカキックは食べておらず、次の機会をうかがっている。
コバン近くのランキンという町では、「タマーレス・ランキネーロ(Tamales Lanquinero=ランキンのタマル)」という料理に出合った。タマルとはトウモロコシの粉を練ってバナナの葉に包んで蒸した料理で、全国的にあるものの、地域によって特別な日に作られるそうだ。通常は中の具は鶏肉か豚肉だが、このランキンでは牛肉なのが珍しいという。これも食べねばと立ち寄ったのはガソリンスタンドの売店のような食堂で、この一品しか置いていない。なので注文は「数」だ。昼食後でおなかがいっぱいだったので「一つ」と頼む。ほかほかを口に入れると、もっちりと蒸しあがった皮の中にこれまたピリ辛の牛肉がたっぷり入っている。コンビーフのような食感でおいしくぺろりといただいた。こういう軽食的な一品も旅の楽しみとしてとても良い。
最後に紹介するご当地グルメは「タパード(Tapado)」だ。グアテマラの東北部、カリブ海に面した地域には、ガリフナと呼ばれる黒人系の人々が住んでおり、彼らの代表的食文化がこの郷土料理だ。エビやカニなどの魚介をココナツミルクベースのスープで煮た一品と聞いただけでよだれが出るが、実際にとびきりうまい。これを食べたのはリオ・ドゥルセというカリブ海につながる川に面した町で、グアテマラで4年ほど過ごした同僚から「グアテマラ1おいしいタパードの店がある」との情報を得ていた。川面を眺めるオープンテラスの店で出てきた料理は前評判の高いハードルをあっさりと飛び超えるおいしさで、皿に残ったスープの最後までガーリックパンでふきふきいただいた。これはグアテマラに来たらぜひ食べてほしい一品だ。
すっかり美食レポートのようになってしまったが、旅に出ると、そこに何かおいしいものはないかとつい探してしまう。ボランティア時代はほぼ任地の村で暮らしていたので、仕事で国内あちこちに行く機会をいただける今回、初めて知る食文化も多い。昔は任地の村にはレストランや食堂などなく、売店とお酒を飲む場所が数カ所あるだけだった。外食をする機会は数カ月に一度行く首都のみで、それもファストフード店に行くぐらい。でもこの外食が本当に楽しかったのをよく覚えている。
グアテマラのファストフードというとフライドチキンの「ポヨ・カンペロ」が有名だ。この国発祥ながら今や中米各国やアメリカにも展開する一大チェーンで、以前はあのケンタッキー・フライドチキンがグアテマラには出店できないとか撤退したとかのうわさを聞いたものだ(帯広でいうとインデアンカレーのような存在!?)。当時は首都に来ると必ず一回は衣パリパリのチキンを食べていた気がする。人の好みだが、自分はこっちが結構好きだ。現在は市内にもケンタッキーの店舗が見られるが、やはり「ポヨカン」の勢いの前には存在が薄いように見える。
その他もドミノ・ピザやタコベルなどアメリカ系の各種ファストフードチェーンが立ち並ぶグアテマラで、最も思い出深いのがバーガーキングだ。日本にもあるハンバーガー・チェーンだが、2000年代初めにはまだ北海道には進出していなかった。個人的にはグアテマラで初めて出合った味で、ボランティア時代に首都に来ると隊員連絡所近くの店舗によく歩いて行っていた。村の暮らしは本当に楽しかったが、たまに過ごす涼しい都会のひとときは、それはそれでホッと息を抜く大事な楽しい時間だった。そういう意味でバーガーキングのでっかいハンバーガーは、グアテマラの思い出の味の一つなのだ。
2005年に北海道に帰ると札幌にバーガーキングの店ができており、新聞社の出張取材の帰りなどに立ち寄っては記憶に残る「グアテマラの味」を楽しんでいた。今回久しぶりにグアテマラに戻り、自分にとっての「本場の味」を食べてみたが、もう20年前のようなうれしさは感じられなかったのはちょっと寂しかった。