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食の楽しみ、思い出の味は今 あれから20年~再びグアテマラへ(3)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 旅の楽しみは何だろう? きれいな景色やその土地ならではのアクティビティー、温泉などいろいろあるけど、個人的にはやはり食だ。新聞社で出張に行った際には仙台の牛タン、福島の円板餃子、北見の塩焼きそばなど、その土地の名物を食べるのが楽しみだった。しかし、この話題を以前に同僚たちとしたときには、「面倒くさいからいつもコンビニ弁当」派も多く、中には「夕食はグミで済ます」という衝撃的な例もあった。なので全員には共感してもらえないテーマかもしれないが、今回は自分が経験したグアテマラの食の魅力を紹介したい。

きれいな柄の布に包まれたトルティーヤ


 グアテマラの主食は「トルティーヤ(Tortilla)」と呼ばれるトウモロコシの粉を円形に薄く伸ばして焼いたパンのようなものだ。生地はしっとり軟らかく、トウモロコシの種類によって黒いものもある。グアテマラで食事をすると、布に包まれた熱々のトルティーヤがカゴに入って来て、食材を包んだり、スープにつけたりして食べる。街角では食堂の女性たちが手でパンパンと整形しながら焼いている姿をよく見かけ、焼きたてはそれだけで十分においしい。一緒に食べるものの代表格は「フリホーレス(Frijoles)」というインゲン豆の一種を煮た料理で、黒いペースト状だったり、粒を残したスープ状のものがよく食べられている。

黒いトルティーヤを焼く女性たち


 ホームステイをしていた2年間、ひたすら1日3食、この二つを食べ続けた。料理上手なステイ先のお母さん(「ママ」と愛情を込めて呼ぶ。グアテマラの母だ)の名誉のために言うと、これ以外にもポヨ(鶏肉)や魚介の料理、各種カルド(スープ)、野菜料理(カリフラワーをフワッと衣で揚げたのが好きだった)などが出て、朝食にはプラタノ(食用バナナ)も付いてくる。しかし、圧倒的な常連であるトルティーヤとフリホーレスは毎食のように現れる。日本人の中にはこれが苦痛でホームステイから自炊生活に変えたという例も聞いたが、自分の場合は幸い飽きることもなく、「土地の味」として2年間おいしくいただいた。

伝統的な朝食。黒いのがフリホーレス


 しかし、この二つ以上に食べ続けたものがある。それは卵だ。一般的な朝食にはスクランブルエッグか目玉焼きが付くが、ステイ先ではほぼ朝昼晩どちらかが出てきた。しかも自分だけに! 家族と食卓を囲んでも、まるで昭和のお父さんのように特別の一皿が付いてくる。大事なお客として栄養を考えてくれたのだろう。暑い中、毎日砂浜をとぼとぼ歩いて痩せていく姿に心を痛めていたのかもしれない(実際、2年間で5キロは痩せた)。このスクランブルはトマトと炒めていて、熱々のトルティーヤに包んで食べると抜群にうまかった。グアテマラの思い出の味の一つだ。ただ、さすがに毎日3食×2年間は食べすぎたのか、帰国後、卵料理に全く食指が動かなくなった。恐らく一生分の卵を食べてしまったのだろう。

ある日の食堂の昼食


 さて、今回は一人暮らしの自炊生活なので、家ではトルティーヤもフリホーレスも食べていない。ただ、昼食に職場近くの食堂(コメドール)に行くと、グアテマラの庶民の味を楽しめる。よく行く食堂ではメーン料理(鶏の骨付き肉や牛肉を焼いたものや煮たもの、豚肉の煮込み、フライ、スープなど種類豊富)とサラダ(緑の野菜のほか、マカロニやビーツなどいろいろ)、炒めた米などを選ぶことができ、これにトルティーヤ数枚と飲み物が付いてくる。これで値段は22Q(ケツアール=グアテマラの通貨)=約400円~とお手ごろで、野菜を取ることができるので愛用している。食堂の片隅で現地の人々に交じって定食を食べていると、生活に慣れてきたとはいえ、何となく旅気分を味わえるのも好きだ。

レストランの昼定食。少しおしゃれ


 ポヨ(Pollo=チキン、鶏肉)を中心とした肉料理(スープも含めて)とトルティーヤというのが伝統的なグアテマラ料理のイメージだが、「チュラスコ(Churrasco)」と呼ぶ牛肉の焼き肉も人気だし、グアテマラ版シチュー「ペピアン(Pepian)」に代表される煮込み料理、蒸し料理とそのスタイルは幅広い。中南米の料理というと、メキシコ料理のイメージからか「辛い」と想像するかもしれないが、グアテマラ料理はそれほど辛くなく、食卓の辛味調味料をお好みで加えるのが一般的。どれも日本人の口に合う味で、食を楽しみに旅に来ても十分楽しい国だと思う。

街の食堂でペピアンを作る女性


 ひとつ、今回の滞在で分かった意外な事実がある。それがグアテマラ人の海鮮好きだ。太平洋とカリブ海に面した国ではあるものの、首都を含む多くの都市は標高1500〜2000メートルの山の上にあり、内陸の「海なし県」も多い。それなのにどこの都市にも必ず「マリスコス(Mariscos=魚介、海鮮)」の店があるのだ。メニューはレモン汁で仕上げたマリネ「セビチェ(Ceviche)」や魚介スープなど。20年前は海沿いの村に住んでいて普通に魚やエビを食べていたので気が付かなかったが、どうやら魚介を食べるのに場所は関係ないようだ。先日も「ここでシーフード食べるの!?」という暑い内陸の山間部の町でマリスコス屋さんに入った。メニューのはみ出しっぷりが強烈だったので写真を撮った。

どうやって食べるのか…豪快盛り


 おいしいグアテマラの食体験は出張時の楽しみで、普段は家で米を炊き、肉や野菜を炒めたりと日本風の食事をしている。幸いにスーパーには何でもあり、特に農業国らしく野菜は豊富だ(キャベツやもやしもある)。アメリカに近いこともあり品ぞろえは本当に豊かで、しょうゆも普通に売っている。これからグアテマラに来る人に「日本から持って行くべき現地で手に入らないものは?」と聞かれたら、「昆布とかダシの類」くらいしか思いつかない(きっともっとあると思うけど)。先日はワサビも陳列棚に見つけたし、市内にいくつかある韓国食材店に行くと値段は高いがみそや豆腐、納豆まで売っている。

品物豊富なスーパーの野菜売り場


 ただ、グアテマラで初めて自炊をして、最初に戸惑ったのが肉の種類(部位)だ。スペイン語の表記が分からないので見た目で判断していたが、鶏肉は基本的に骨付きで売っていて、日本で一般的な骨なしもも肉はスーパーの陳列棚では見かけない。牛肉も豚肉も基本はどーんと塊で、日本のような薄切り肉は置いていない。先日は豚汁を作ろうと家で塊から細切れに挑戦した。ただ、肉屋さんで頼むと薄切りもしてくれるらしく、ある肉屋では「シャブシャブ!」と言うと超薄切りにしてくれるとか。本当なのかどうか、今度頼んでみなくては。

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