勝毎電子版ジャーナル

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首都中心部の国家文化宮殿前広場

首都生活は快適だけど…ホコテンは別世界 あれから20年~再びグアテマラへ(2)

小林 祐己

元JICAグアテマラ事務所企画調査員

 今回生活しているのはグアテマラの首都・グアテマラシティー(グアテマラ市)だ。スペイン語では通常は「シウダ・デ・グアテマラ(la Ciudad de Guatemala=グアテマラ市)」と呼び、現地では簡単に「カピタル(Capital=首都)」とか「グアテ(Guate)」とか言う。日本では時折「ガテマラ」という表記を目にするが、正確には「グアテマラ」だ。昔にバスに乗ったとき、料金を集めに来た若者にどこまで乗るかを聞かれ、首都のつもりで「ガテ!」と歯切れ良く発音したら、「はあ?」というリアクションをされたことがある。「グア」と「ガ」は違うのだ。

 この首都の暮らしの良いところは、一番に気候の良さだ。標高1500メートルの高原にあるため、年中気温は20度前後で過ごしやすい。「常春の国」という言葉で紹介されることもあるが、「涼しい」と言う方が正しいと思う。グアテマラ人の通勤風景を見るとセーターやダウンジャケットを着ている寒がりの人もいる一方で、半袖やタンクトップ姿の夏スタイルも混ざっていて面白い。季節感がない分、個人の感覚しだいなのだ。自分は冬はマイナス20度近い十勝暮らしで耐寒性能が上がったのか、ずっと半袖で過ごして快適だ。

仕事帰りにバス停に向かう首都の人々


 ところが同じグアテマラでも、20年前に住んでいた場所はとにかく暑かった。太平洋に面した砂浜にある村だったので標高はほぼ0メートル。年中通して気温は30度以上あった。なので、たまに行く首都は極楽に思えた。標高が上がるとともにバスの窓から入る熱風が涼風に変わり、首都に降り立った感覚は、日本の真夏に冷房がギンギンに効いた電車に乗った時のような感じ。「なんて快適なんだ」と短い首都滞在に感動していたが、帰りのバスで村に近づくにつれてモワッとした熱風が顔に当たると、「帰ってきたな」と安心した気持ちになったのを懐かしく思い出す。

旧市街の街角。落書きが多い


 そんな首都は人口200万人ほどの都会で、北海道で言うと札幌のような規模感だ。国家宮殿などがある中心部の旧市街は石造りの古い街並みが広がる一方で、日本大使館やJICA事務所がある新市街はビルが立ち並ぶオフィス街、高級住宅街だ。今はこの住宅街で、十数階建てのアパートメントの一室で一人暮らしをしている。20年前は3食付きのホームステイだったが、今回は自炊生活と正反対だ。ただ近くに大きなスーパーもあり、食堂やレストランも多いので、不便はない。昔は首都に来ても隊員連絡所(ボランティアが宿泊する家)の近所しか知らなかったが、今回は行動範囲も広がり、都会暮らしの魅力を楽しんでいる。

新市街の高級住宅街


 このコラムではそんな首都やグアテマラ各地の魅力を伝えたいと思っているが、その前に、どうしても避けては通れない問題がある。中南米のことを少しでも知る人に「グアテマラ」と言うと、「危ないんでしょう」という反応が返ってくる。確かに治安がよろしくないのだ。日本と比べると大体の国は治安が悪いのだが、殺人件数で比べると、グアテマラは年間10万人当たり約17人と、日本大使館のデータによると東京都の約80倍になる。すごく単純に言うと、日本で一生に一度遭う犯罪に毎年遭う確率だろうか。

中米・カリブの国々の殺人発生率(10万人当たり)。グアテマラは11番目


 ネットでグアテマラと検索すると、バックパッカーのブログなどに「中南米一危険な国に来た!」みたいに書かれていることもある。確かに10年ほど前、今の倍ほどの殺人事件が起きていた時期もあったが、現在は統計上は中米カリブの国々では中くらいの治安状況だ。とは言っても決して治安が良いわけではなく、首都を歩くときは強盗への警戒は欠かせない。常に周りの状況を注意しなければいけないので神経が張る。ギャング組織や麻薬がらみのひどい事件は日々起きていて、テレビのニュースを見ていると本当に悲しい気分になる。

入り口にも鉄格子がある旧市街の商店

                         
 そう聞くと、「そんな危ないところで大丈夫?」と心配するかもしれないが、幸いに今住んでいる地区は比較的に治安が良く、今年は殺人は1件も起きていない。正しい知識を持ち、「場所」と「時間」と「行動」さえ間違わなければ、グアテマラ市でも安全に暮らせると思っている。例えば、市内には決して一人で行ってはいけない場所もある。夜は出歩かない。スマホを路上で出さない。流しのタクシーには乗らない。リュックは前に抱えて手放さないーなどなど。ちなみに職場のルールでは首都内は原則徒歩移動禁止で、限られた範囲のみ限られた時間に歩くことができるが、慣れてしまえば特に不便は感じない。

のどかな地方の町の広場


 一方、地方都市の多くは日中に徒歩で移動してもほぼ問題ない。たまに出張で地方に行くとのびのびとした気分になる。国内各地で活動するJICAのボランティアの人たちも歩いて仕事場に向かい、生活をしている。自分もかつては任地の村で何の不安もなく夜も出歩いていた。というのも夜に産卵に来るウミガメのパトロールが仕事だったので、毎晩のように懐中電灯を片手に砂浜をてくてくと歩いていたのだ。途中で出会うのは顔見知りの村人ばかり。都会で一人で暮らす今思うと、当時は村の一員としてみんなに守られていたんだなとありがたく思う。

人々が散歩を楽しむ日曜の大通り


 というわけで、外出時は常に一定の緊張感が付きまとう首都暮らしだが、今回の再訪で驚くべき光景に出合った。そこは市内なのに人々がスマホを片手にのんびりと道路を散歩し、子どもたちが自転車やローラースケートで遊んでいるのだ。これは日曜日限定で大通りを開放する「Pasos y  Pedales(パソス・イ・ペダレス=歩きとペダル)」というイベントで、いわゆる歩行者天国だ。帯広で言うと日曜のホコテン。けっこう大規模で、キッチンカーが出ていたり、さまざまな団体がテントを張ってブースを出していたりとお祭りムードもある。

家族連れに人気の消防の放水体験


 日本でも見る消防の放水体験などもあって、子どもたちが楽しそうに遊ぶ姿が見られる貴重な機会だ。治安が良くない首都では通学はスクールバスか車が多く、子どもが街角で遊ぶ風景にはまず出合えない。子どもが路上を走り回る、この何の緊張感もないのどかな空間に身を置くと、「ここは本当にグアテマラなの?」と不思議な感覚に襲われる。しかし注意深く見ると、その理由がわかる。そう、あちこちに警察官が立っているのだ。

 警察のブースもあったりして、たくさんの警察力に守られて、初めてこの平和な空間は成り立っている。そう思うと、高い塀とガードマンに守られた高級マンション内で安全な生活を送っているのと同じで、これもグアテマラらしいのかと思わなくもないが、青空の下でみんながのびのびとする姿を見るのが楽しくて、つい足を運んでしまう。いつの日か、銃におびえることも、銃に守られることもなく、市内のあちこちにこんな風景が広がる未来が来てほしいと願う。

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