勝毎電子版ジャーナル

勝毎電子版

シラカバが餌に!? 目指せ安価でおいしい牛肉作り 撫年浩教授に聞く【ちくだい×SDGs(12)】

 -研究のテーマは。
 肉牛の飼養管理に関する研究で、消費者に好まれるものをより効率的に作ることをテーマにすることが多いです。

 これまでの和牛は脂肪交雑(霜降り)を高める肥育が行われてきました。ただ、最近は霜降りの多い牛肉だけではなく赤身肉に対するニーズも高くなっています。

 牛肉は普段使いには高いですが、安い輸入品が入ってくると国内の肉牛生産者が仕事しにくくなります。現在はいい肉を主に海外へ輸出している状況ですが、そうなるとおかしいですよね。消費者目線の肉を効率的に作り、併せて価格を下げることを狙い、地域の未利用資源を餌に活用できないかを研究しています。

撫教授


 -肉質を変えるには。
 餌の中身と給与方法です。餌にエネルギーやタンパク質といった栄養素がどれぐらい含まれているかをはじめ、濃厚飼料(たんぱく質や炭水化物、脂肪などの栄養素を多く含み、繊維質が少ない餌)と粗飼料(牧草など繊維質が豊富な餌)の比率、牛の月齢に応じた餌を与える―といったことです。

 -肉質の評価方法は。
 超音波診断装置という機械を使い、生きている状態で肉質を調べることができます。超音波は体の内部の組織の違うところで反射が起きます。撮影した写真を基に、いつ頃からロースなどの部分が大きくなるか、要らない脂肪が増えるか…といったことが分かります。肉質にいい影響がなければ、長く飼養することは餌代や施設代がかさむことになるので肥育農家の負担になります。

 10月に全国和牛能力共進会(和牛全共)が開催されましたが、こうした品評会に出す牛も超音波診断で選抜できます。この診断法は難しく全国的に行えるのは数人だけです。今回の和牛全共も審査する牛の選抜に携わりました。

 このほか、体形評価や血液成分、肉質肉量分析などを通じて評価します。

5等級の牛の超音波解析図

1等級の牛の超音波解析図


 -地域の未利用資源を飼料にするという研究では何を使っているのでしょう。
 シラカバです。高圧蒸気処理といって圧力釜のような装置を使うと、牛が消化しにくい木の成分(リグニンなど)が消化できる形になります。シラカバは雑木なので、山がきれいになることにつながります。

 この飼料はすでに商品になっていて、ホルスタインの肥育に役立てられないかを研究しています。

 牛のアシドーシスという病気は配合飼料を食べ過ぎると胃の中が酸性になり、乳酸ができて体に回り、良くない影響を及ぼします。ホルスタインは若いときから短期間で大きくする必要があるので、配合飼料もたくさん与えます。配合飼料にシラカバを混ぜることで病気のリスクを下げていけたらと思います。

 今年研究を始めたのですが、1頭につき1日あたり500グラムのシラカバの餌を与えています。月齢7カ月目から与え始めて現在14カ月目ですが、普通の餌の牛と比べて体調が怪しい牛が少なく、体が大きくなってきた印象があります。20カ月目まで与えるので効果が出てくるのはこれからだと思います。

 また、ホルスタインの肥育は無理をかけているので、内臓の疾患が多く、廃棄になる場合が多いです。シラカバは体にストレスをかけない餌なので、内臓の疾患が減り、販売できるようになれば生産者の売り上げになります。

 多くの農家さんは以前、発酵バガスというサトウキビの絞りかすを餌にしていましたが、円安などで高騰しています。シラカバはその代わりとして和牛の肥育農家さんが主に使うようになり、値段が安定していて使いやすいため、ここ何年かで広がりました。畜産と林野の資源循環で、山の美化にもつながります。

白樺のエサを食べる牛


 -大学敷地内にある上川大雪酒造「碧雲蔵(へきうんぐら)」の酒かすを餌に使う研究もしています。
 酒かすは水分を抜いた状態だと3、4割がタンパク質です。

 消費者が主に食べている国産牛のホルスタインの雄は、6カ月から肥育をはじめ、20カ月前には屠(と)殺します。6カ月から20カ月のうち半分ずつ分けて前期・後期と言います。

 体を大きくするにはタンパク質が大きな役割を果たし、前期に与えることが大切です。今回の研究では牛の体を大きくする狙いがあるので、酒かすを前期に与えています。酒かすで肉の味がよくなるという話もありますが、その場合は後期にあげたほうがいいです。 

 -酒かすを餌にしたきっかけは。
 碧雲蔵が大学構内にできたからです。現在は格安で購入させていただいていて、1頭につき1日500グラムを与えています。牛たちは酒かすが大好きで、普通の餌よりよく食べます。

 酒かすを餌にすることは注目されていて、碧雲蔵に農家さんなどが「売ってくれませんか」と相談に訪れています。餌が高騰しているので、何かいいものがないかとみんな探しているんです。

 その中で酒かすはタンパク質が高く、嗜好(しこう)性もあるのでよく食べて大きくなるはずです。ほかにもセラミド成分で胃壁が保護される可能性など、さまざまな効果があるのではないかと言われています。

 旭川はすでに酒かすを与えているところもありますが、研究を行いシステマチックにしていこうと動きだしたのは最初です。

碧雲蔵の酒かす。タンパク質が豊富で、牛の増体が期待される


 -今後の目標は。
 大学は研究の結果を出した後、結果を基に進めていく力が弱いです。販売やマーケティングなどを考えて初めて畜産業が成り立つので、今回はそこまで行います。酒かすを与えた肉がどれくらいの値段であれば消費者は容認するか、生産者はどのくらいの値段であれば餌に使えるか―といったところを調べ、実際に現場で使えるシステム作りをしていきます。このことで地域振興につながればいいと考えています。

 -別の研究になりますが、ホルスタイン経産牛の再肥育にも力を入れています。
 種が付かなくなるなどした廃用のホルスタインはミンチ肉かペットの餌となり、酪農家のもうけにはなりませんでした。

 研究では配合飼料を使うとお金がかかるので、地域のサイレージといった餌で改めて肥育します。

 サイレージでも、赤身のいい肉には肥育できます。ホルスタインは草を食べてますから、脂肪が黄色くなってたいたり、赤肉色が暗くなっていておいしそうに見えないんです。それを再肥育することで改善され、商品価値が上がり、さらに国産の肉を安く買えるようになります。一頭丸ごとは難しいですが、ロース、モモ、ヒレといった主要な部分は、スライスしてパックで出せる肉として販売できます。

 酪農家さんも副収入が得られますし、いわゆる国産の大衆肉の資源として使えます。お手頃な北海道産の安い牛肉を作っていくことが狙いです。ホルスタインの再肥育はあまりなく、これから広げていけたらと思います。

 ただ、酪農家さんから出た牛を集めて再肥育する“再肥育屋さん”が名寄市にはいますが、こうした役割の方も必要になってきますね。

 -広げていくための課題は。
 流通だと思います。今はホルスタインの廃用肉という言い方しかできないので二束三文の価格ですが、「おいしい肉」「国産の赤身肉」だということをうたって流通すれば、今よりも高く売れるはずです。

 そうなると、酪農家さんが自分で売る努力をしていかないといけなくなってしまいます。そうなると負担になるので、流通システムを作り、そこに酪農家さんが参加するだけという仕組みを作る必要があります。

 今は「廃用牛でしょう」と買ってくれないところもありますが、今回の研究には流通業者も加わりシステム作りをしています。現在は肉が販売できる質なのかという研究なので、今後は餌の改良などを通じて廃用牛の可能性を高めていきたいです。

当てはまる目標


<なで・としひろ>
 大阪府生まれ。近畿大卒。独立行政法人家畜改良センターを振り出しに、日本獣医生命科学大学准教授、宮崎大学教授を経て、今年4月から帯広畜産大学教授。専門は家畜飼養学、肉質・肉量評価。

記事のご意見・ご感想
深掘りしてほしい話題はこちらへ

かちまい投稿ポスト