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微生物の力は∞ 農作物を元気に×リサイクル新素材開発 大和田琢二教授に聞く【ちくだい×SDGs(10)】

 ―研究のテーマを教えて下さい。
 植物と共生する有用細菌を食の生産に活用する研究をしています。有用細菌は、特に植物とwin-winな関係(植物と細菌のどちらにもメリットがある)の細菌を指しています。微生物は肉眼では見えないだけでたくさん存在し、植物と栄養などのやりとりをしています。人の腸内細菌と健康もホットな話題ですが、有用細菌にも植物の生育を良くする、病気になりにくくする、気候変動で受ける環境ストレスを軽減する、などの「植物を健康にする」効果が期待されます。

 私は、北海道・十勝の代表的な農作物から共同研究を通して単離・選抜された有用細菌の生化学的特性や植物組織への局在・定着性を調べ、有用細菌で植物を健康にし、生育促進や環境ストレスへの適応能力の強化に係る研究に取り組んできました。

 また、植物に含まれる成分にも影響を与えることがあります。例えば、イチゴやワインの香り成分の中で微生物が作っている成分が見出されています。最近、主に小松菜などの葉物野菜を使っているのですが、共同研究先の有機資材から植物の生育を促進する有用細菌が単離され、植物に接種すると、植物自身だけでなく人の健康にも資する機能性成分が向上することや植物病原菌の増殖を抑制することがわかってきました。生育促進効果と共に、機能性成分の向上や病害防除効果が付与された、野菜類の高付加価値化を目指した研究にも取り組んでいます。

大和田教授


 ―微生物とはどんなものを言うのでしょうか。
 肉眼では見えないくらい小さな生き物のことで、特定の生き物を指しているわけではありません。細菌や酵母、カビ(糸状菌)などいろいろな微生物がいます。肉眼で見えているカビは細胞の集合体で、一つ一つの細胞は数マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)なので肉眼では見えません。同様に、キノコも微生物の仲間です。

 ―微生物がいたからこそ、植物も長い間生きてこられたんですね。
 微生物がいなかったら、地球の長い歴史の中で受けた気候変動などの環境ストレスに適応し子孫を残し続けて行くことは難しかったのではないかと思います。そもそも、植物のような真核生物は微生物(原核生物)の共生で誕生したと考えられていますので、微生物が存在しなかったら、植物はもとより人も存在しなかったことになります。植物は微生物と持ちつ持たれつの良好な関係を築くことによって健全を保つと考えると、微生物コミュニティーとの良好な関係を壊さないことが大切だと思います。

かわいらしい花を咲かせる小豆。根には多くの微生物が存在し、栄養などのやりとりをしてる


 ―近年は微生物を使った有機肥料の価値も見直されています。
 有機肥料はある意味「微生物の塊」だと思って頂いてもいいと思います。つまり、有機肥料で農業をすることは、微生物で農業をするという意味合いもあります。有機肥料は見直されてきていて、我が国も脱炭素社会を目指し、2050年までに有機農業を農地の25%まで拡大するなど、新たな農業戦略(みどりの食料システム戦略)が始まろうとしています。

 ―具体的にどんな働きをする微生物がいるのでしょうか。
 例えば、根粒菌という農業上重要で実用化されている細菌がいます。窒素は植物の三大栄養素の一つなので、植物にとっては喉から手が出るほど欲しい栄養素ですが、農業では化学肥料の窒素が多用されています。

 根粒菌は、大豆などのマメ科植物の根などに瘤(根粒)を作ることが知られていて、根粒の中で空気中の窒素ガスをアンモニアに変換し(窒素固定と呼ばれています)、植物に窒素分として供給します。このような窒素固定の能力は根粒菌だけではなくさまざまな細菌類にも見出されていて、植物と良好な関係を築けるように工夫すると化学肥料の窒素を軽減することができます。私は、根粒菌などの窒素固定菌と宿主植物との相互作用に係る研究にも取り組んできました。特に、根粒菌が大豆から放出された化合物(イソフラボン)を感知して大豆との共生関係を築く初期段階で稼働することが見出された、新たな遺伝子領域の解析に精力を注ぎました。

 また、植物の根から土壌中へ菌糸を伸ばし、土壌中の栄養素、特にリンを吸収し植物に供給する菌根菌と呼ばれる微生物がいます。菌根菌は多くの陸上植物と共生しているとも言われ、うまく活用すると化学肥料のリンを軽減することができます。リン鉱石の産出国は偏っていて、レアアースと似た争奪戦の状況が世界のリン鉱石の価格高騰の一因になっています。それで、農地に蓄積したリンを菌根菌などの微生物を用いて利用する研究が行われています。

 植物はこのような微生物たちと共に進化し(共生進化と呼ばれています)現在の地球環境が創生されたと考えられていて、地球の何十億年という長い歴史の中で植物が今まで生き抜いてきた一つの鍵は、このような微生物たちとの良好な関係があったからだと思います。こうした微生物が植物を支えていて、私たちの食を支える原動力になっています。微生物は農業を発展、持続させる強力で頼もしいツールだということを知ることは大切だと思います。

根粒菌を使った有機資材「まめぞう」。こうした有機資材は年々、脚光を浴びている


 ―微生物を使った新素材の研究にも力を入れています。
 ポリウレタン(通称ウレタン)はプラスチックの一つで、車の内装品や寝具、建材、スポーツウェアなど、非常に幅広く使われていますが、そのリサイクルには燃焼時の有毒ガス発生や粉砕が困難などの問題があり、主に埋め立て処分されています。そのため、いわゆるプラスチックゴミの問題にも関わっています。私たちはウレタンを分解する微生物を見つけ、このウレタン分解菌をもとに共同研究を進め、ウレタン新素材「エヌポーラス」を創出しました。エヌポーラスは微生物分解による無数の微細空洞を持ち、粉砕によるリサイクルが可能になりました。また、高い保水・吸水性から、土に代わる資材として観葉植物を栽培した商品「TRY ANGLE」が開発されました。

ウレタンを微生物分解したリサイクル新素材「エヌポーラス」


 ―農業への転用はどう行うのでしょうか。
 エヌポーラスが持っている微細空洞は通常のウレタンよりも優れた保水性と吸水性を提供しますので、土壌に代わる新たな植物栽培用の資材として農業への転用が期待されます。また、微細空洞は微生物の住処も提供しますので、前述の有用細菌とエヌポーラスの技術を融合した、新たな植物栽培技術の創出を考えています。有用細菌を使うことで、植物の生育や機能性成分が強化され、化学肥料の軽減と共に付加価値の高い農作物が産出されることを期待しています。

エヌポーラスを土の代替として使用した商品「TRY ANGLE」


 ―使っているウレタン分解菌はどう見つけたのでしょうか。
 きっかけは、フィリピン大学教授と共同研究をする機会が与えられたことです。フィリピンもプラスチックゴミの問題が深刻化しているので、プラスチックを分解する微生物を探し出し、プラスチックゴミの問題を微生物分解で解決したいということでした。そこで、十勝のごみ埋め立て場まで出掛けて行ってウレタン廃棄物を拾い集め、それに付着した微生物の中から、優れたウレタン分解力を発揮するウレタン分解菌を選抜しました。分解力がダントツ強かった分解菌を特許化し、実用化につなげました。

分解したウレタンを混ぜて作られた車のハンドル


 ―いま現在、エヌポーラスが使われているところはありますか。
 前述のエヌポーラスを用いた商品「TRY ANGLE」は観葉植物とセットで販売されています。エヌポーラスは軽量で保水性が高く、水やりの回数が少なくてすみます。また、土のように虫が湧くことがないので、取り扱いは大変いいと思います。エヌポーラスによって、ウレタンの農業資材へのリサイクルが促され、環境にやさしいウレタンリサイクルの拡大とサステナビリティへの取り組みに貢献すると共に、プラスチックゴミ問題解決の一助になることを願っています。

当てはまる目標


<おおわだ・たくじ>
 京都府出身。北海道大学農学部、同大大学院修士・博士課程修了。帯広畜産大学助手を振り出しに同大で勤務し、現在は教授を務める。専門は応用微生物学。

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