十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2024年11月号

特集/レトロかわいい十勝

日本酒ことはじめ(3)「十勝の地酒 帯広畜産大学×上川大雪雪造 碧雲蔵」

碧雲蔵は上川大雪酒蔵や十勝の出資者らが設立した「十勝緑丘(りょっきゅう)」が建設した。名前は大学の学生寮「碧雲寮」から。製造棟とセミナー棟に分かれ、見学室も備える(一般見学は今後検討)

 かつて、酒造りの文化があった十勝。時をへて、新たな酒を生み出そうと挑戦が始まっている。

 帯広畜産大学の構内に4月、道内13カ所目となる酒蔵「碧雲(へきうん)蔵」が誕生した。上川大雪酒造(上川管内上川町)が主導し、大学内の開設は全国で初めて。酒造りの現場を訪れた。

 湯気が上がる210㎏の蒸し米をスコップで崩し、冷却器で冷やして醸造タンクに運ぶ。温度に気を配りながら混ぜ、発酵を促す。米の甘い香りに包まれ、繰り返される作業。10月下旬の取材日、本醸造の仕込みが行われていた。

 十勝で酒蔵というと驚く人も多いが、最盛期には10以上の蔵があった。古くは1789(寛政元)年に広尾町で記録が残り、各市町村で「狩勝」「亀の露」など多くの清酒を製造・販売。しかし、酒税制度の強化や道外酒などの影響を受け、1981年でその歴史は途絶えた。

 一方、食が豊かな十勝で酒造りへの思いは潜在していた。2011年には地酒「十勝晴れ」の製造に取り組む事業が発足。さらに2年前、発酵・醸造の研究で杜氏も輩出する帯広畜産大学は、日本酒による道内の地域活性化を目指す上川大雪酒造から酒蔵設置の打診を受ける。同大学は同酒造の塚原敏夫社長らの母校・小樽商科大学、北見工業大学との経営統合を22年に控えていたこともあり、十勝の酒造りは大きく動き始めた。

酒蔵誘致を発表した帯広畜産大学の奥田潔学長(右)と上川大雪酒造の塚原敏夫社長。奥田学長は「十勝農業に大きく貢献し、北海道の経済や産業発展に寄与できる」と話した(2019年7月29日付、十勝毎日新聞より)


 構成比のうち80%以上が水という酒には、よい水と米が欠かせない。碧雲蔵で使う水は中硬水で、「水質がよいのもここを選んだ理由」と上川大雪酒造の総杜氏で副社長の川端慎治さんは話す。しっかりとした飲みごたえがあり、後味はすっきり。きれがよく「飲まさる酒」と自信を見せる酒は、試験醸造で7月にお目見えした十勝管内限定1500本が初日で完売する店が続出するほど。8月の本醸造4500本、9月の純米吟醸本のいずれも人気で、新米収穫後からの本格醸造に弾みがついた。

総杜氏の川端さん。帯広畜産大学客員教授を務め、講義も担当している


 今後は大学と共同研究を進めつつ、より風土に合う酒造りを目指す。「日本酒が苦手な人にも喜んでほしい。十勝の豊富な食材と合わせ、ぜひ一度口にしてください」と川端さん。担い手の思いを育て、“醸造”するのは地域である。まずは新たな地酒の誕生に、乾杯しよう。

甑(こしき)で蒸した米を冷却器に入れ、約16℃に冷ます

12個のタンクがある醸造室には仕込み日が異なる酒が眠る

冷ました米は醸造タンクへ。この日は3回に分けて行う仕込みの3回目の工程「仲仕込」。温度が8℃になるように米と水、こうじをゆっくりと混ぜた。今回見学した酒は28~30日間寝かせて絞り、11月末に出荷予定

2階には、「酒の味を決める肝」という麹(こうじ)を造る部屋がある。写真は麹を手で丁寧に崩す様子(10月1日付、十勝毎日新聞より)

初仕込みの〈本醸造〉〈純米吟醸〉〈純米大吟醸〉。11月13日には、ラベルも新たに〈初しぼり十勝純米〉720ml、1,320円を発売した。将来は年間120キロリットル、約20万本の生産が目標

教育・研究の場となるセミナールーム。より実践的な教育研究や地域に貢献する人材育成にも期待が高まる


上川大雪酒造 碧雲蔵
帯広市稲田町西2線15-1(帯広畜産大学内)
Tel:0155・67・7648 
※他取材協力/帯広小売酒販組合、にたいら酒店代表 仁平義克さん(酒文化を語る会会長)

※フリーマガジン「Chai」2020年12月号より。
※撮影/辻博希。写真の無断転用は禁じます。

日本酒ことはじめ

 米文化とともに歩みを始めた日本酒は、神事や生活にも欠かせない日本の「国酒」。種類も多彩で一見難しそうですが、知るほどに奥深い魅力があります。今年は帯広畜産大学の敷地内に酒蔵が誕生し、酒造りからも目が離せません。せっかくだから、十勝でおいしい日本酒を楽しみましょう。初心者にも分かりやすい好みの日本酒の見つけ方や、造り手の思いなどを紹介します。

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