十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2024年11月号

特集/レトロかわいい十勝

カフェで過ごす。(1)「コーヒーと共に。十勝のカフェ文化」

昭和の雰囲気が漂う「回帰路」。心が落ち着く空間は、時間を忘れて長居してしまいそう。女性一人でもぜひ

 カフェはフランス語でコーヒーのこと。そこから転じて、コーヒーなどの飲食物を提供する店を指すようになった。特にパリのカフェはかつて、コーヒーを飲みながら文化人が集まる社交場だったという。

 法律上の「飲食店営業」「喫茶店営業」の許可区分はさておき、十勝でも1950年代ころから、“カフェ文化”が芽生えた。帯広喫茶連合会によると、帯広に初めて喫茶店ができたのは51(昭和26)年。高度経済成長期には、市内中心部だけでも40店ほどが点在していた。

昼夜問わずにぎわい「回帰路」
 「COFFE PUB 回帰郎」が開店した77年は、第一次コーヒーブームの最中。店主の鈴木忠さんは、「店を閉める間がないほど忙しくて」と当時を振り返る。娯楽が少ない時代にテーブルゲームが人気を博し、店で朝を迎える人も。仕事帰りのスナックの従業員らも立ち寄り、夜にも客入りのピークがあった。

蒸気圧を利用してお湯を押し上げるサイフォンコーヒーの抽出温度は「89℃」がこだわりだ


 中でもサイフォンで淹れるコーヒーのファンは多く、今でも店の一角には常連客の“マイカップ”コーナーがあるほど。「サイフォンのよさは客の好みを自由に出せること。顔を見て渋みなどを調整するんだよ」。そう話す鈴木さんとの会話が、何より楽しい。

食から政治・経済まで、鈴木さんの話題は豊富。帯広喫茶連合会の会長を務めていたことも

仕上げに生卵を流し入れる〈ナポリタン〉700円は開店当時から変わらぬ味。アツアツの鉄板でどうぞ。カルパスなどが載った厚切り〈ピザトースト〉650円も人気


<COFFEE PUB 回帰路>
帯広市西11条南13丁目4-7
Tel:0155・25・5363
営:9時~20時
休:なし




十勝の文化育む「Wine」
 59年、西2南8で開店した「画廊喫茶ウィーン」(現在は帯広市民文化ホール内)は、市内で2番目に古い喫茶店だ。とりわけ「画廊喫茶」として絵画やクラシック音楽を大切にし、文化人が好んで足を運んだ。帯広ゆかりの画家・寺島春雄さんや鹿追の画家・神田日勝さん…。店主・千田慶子さんの口から出る名は、十勝の文化の礎を築いた重鎮ばかりである。

いつも穏やかに来客を迎える千田さん自身も、オペラや短歌などに精通する文化人だ

節目を祝う手作り記念誌やアルバム。移転して構えた店(西6南5)を閉店する際に常連らが書いた色紙には、千田さんや夫・時雄さん(故人)への感謝の言葉が連なる


 ネットも携帯もない時代、店はコーヒー片手に文化人らの情報交換と議論の場だった。「カウンターは私の学びの場でした」と目を細める千田さん。十勝の文化はここで醸造されたと言っても過言ではない。

開店時からのパネルは客から贈られたもの。上部はベートーベンのデスマスク。深夜まで議論する絵描きらのタバコの煙による変色を防ごうとこの色に


 店には、常連が手作りした記念誌などが残る。コーヒーと共に過ごす時間がどれほど愛しく、人生に寄り添うものだったのだろう―。

<喫茶 Wien(ウィーン)>
帯広市西5条南11丁目48-2(帯広市民文化ホール内)
Tel:0155・25・6162
営:10時~18時(催事開催日は~21時30分)
休:火曜
※営・休は変更の場合あり


◇ ◇ ◇

 今は書店やコンビニにもカフェがある時代。ともすれば、カフェは「個」の空間を楽しむことに偏りがちだが、当時はそこに、人の温もりや物語が色濃くあった。コーヒーはいわば“コミュニケーションツール”。そんな過ごし方も、悪くない。

◇ ◇

【特集】カフェで過ごす
 ひとりでのんびり、女友達との気兼ねない時間―。カフェという空間は居心地がいい。こだわりの個性派カフェや、十勝でカフェ文化が広がった当時の様子などをご紹介。秋はおいしいコーヒーと一緒に、のんびり過ごしましょ。

※フリーマガジン「Chai」2019年10月号より。
※撮影/辰巳勲。写真の無断転用は禁じます。