2024年4月号

特集/ときめきのプリン&愛しのシュークリーム

十勝の“さしすせそ”(3)「さ 原料栽培から製糖工場まで 十勝は砂糖の一大生産地」

ビート1つからどのくらいの砂糖ができるのかなどを説明している展示。糖液は、数回加温を繰り返して砂糖を製造する。その間、透明だった糖液は色が変化する

 十勝は、砂糖の原料となるビート(テンサイ)生産量が道内トップで、3つの製糖工場もあり砂糖の一大生産地でもある。でも「砂糖はどうやって作るのか」はよく分からない。日本甜菜製糖(日甜)の「ビート資料館」を訪ね、館長の清水政勝さんにビート栽培から砂糖ができるまでを一から教わった。

 ビートは、英語で「シュガービート」と呼ぶ。名の通り糖度は平均16・5 〜17%程度と高く、メロンと同じぐらいの糖分を含んでいる。ビート1個は約1㎏ あるので、単純計算で160g〜170g程度の砂糖ができる。

 では、どうやって砂糖をつくるのか。まず、ビートを洗浄した後、糖分を抜き取りやすいようにスティック状に裁断し、約1時間30分、70℃前後の温水に浸す。糖分が染み出たお湯をろ過して不純物を取り除くと、透明な「糖液」ができる。さらに余分な水分を飛ばして糖液を濃縮して、この中に、微細な砂糖(5/1000㎜の大きさ)「タネ糖」を投入し、加温すると、タネ糖の周りに糖が集まり結晶化する。その後、蜜と結晶(砂糖)を分離すると砂糖の完成となる。砂糖が白く見えるのは、結晶に光が乱反射しているためで、雪が白く見えるのと同じ原理。不純物をしっかり取り除いているので、無色透明な結晶ができる。

収穫後、畑に積まれたビート


 結晶は、結晶化させる時間に比例して大きくなっていく。グラニュ糖よりも上白糖のほうが結晶は小さい。上白糖は、結晶にブドウ糖と果糖を合わせた液を添加し、しっとりとさせている。これは日本人の好みに合わせて作っており、日本独自の砂糖。氷砂糖は、結晶を大きくしたもので、大きな塊一つが1個の結晶だ。

ビート資料館で育てられている本物のビート

砂糖を取り出した後の糖液からはラフィノース(オリゴ糖)を抽出でき、イースト菌を育てる材料となる。搾った後のビートの繊維は家畜の飼料として利用されるなど、ビートは捨てるところがない

ビート資料館館長の清水政勝さん。ビート栽培から製糖、日甜の歴史など、館内を回りながら丁寧に解説してくれる


【ビート栽培と製糖の歴史】

大きな製糖工場は帯広・十勝の名所として絵はがきに記録された。現在の帯広市稲田町にあった北海道製糖帯広工場。今は日甜の研究などの施設になっている(撮影年不明、帯広百年記念館提供)


約150年前に道内でビートを試験
 日本で最初にビートが栽培されたのは、1870(明治3)年。内務省が海外から取り寄せた種を、東京で植えたのが始まり。翌71(明治4)年、札幌の北海道開拓使の農園で試験栽培を始めた。今から147年前のことだ。80(明治13)年には、現在の伊達市に官営のてん菜糖工場が完成、操業を開始した。しかし、収支が合わず経営は道庁に移管され、その後、民間に移ったが、うまくいかず16年後に操業停止。製糖事業は中断してしまった。

十勝農事試作場で試験栽培、糖業の適地と確認
 十勝では、95(明治28)年に十勝農事試作場(現・帯広市内)が開設され、同時にビートの試験栽培が始まった。大正初めにかけての収量が良かったことなどから、十勝は糖業の適地とされた。

 中断していた糖業は、第1次世界大戦の影響で、世界的に砂糖不足に陥り、改めて注目された。1920(大正9)年に現在の帯広市稲田町に、翌21(大正10)年には清水町に、それぞれてん菜製糖工場が建設された。昭和30年代に、日甜が紙の筒でビートの苗を育てる「ペーパーポット」を開発したことで、ビートの収量が格段に向上した。

 昭和の初めにあった冷害では、ビートだけは被害が少なく、十勝の農業経営に欠かせない作物として再認識され、現在も経営面はもちろん、輪作体系の中で重要な作物となっている。

【砂糖のあれこれ】
◆砂糖の成分は脳のエネルギー源

 砂糖は、糖類の一種「ショ糖」が主成分。ショ糖は、ブドウ糖と果糖がくっついてでき
ている。脳のエネルギー源となるのは唯一、ブドウ糖だけ。砂糖は摂取するとすぐに
ブドウ糖と果糖に分解され、素早く脳のエネルギーとなる。

◆国内砂糖生産量の8割は「ビート糖」
 国内で栽培されている砂糖の原料は、ビートとサトウキビ。寒冷地に向いているビートは北海道だけで栽培され、サトウキビは鹿児島県南西諸島や沖縄県で栽培されている。国内砂糖生産量の8割はビートから作られている。2017年産てん菜糖の生産量(北海道農政部生産振興局農産振興課調べ)は、十勝の3工場(芽室町の日甜、清水町のホクレン、本別町の北海道糖業)合わせて30万1,880t。道内全体の生産量65万6,669tの半分近くを占めている。

◆ビートはホウレンソウの仲間
 ビートは、「サトウダイコン」とも呼ばれ、カブのようにも見えるが、ホウレンソウと同じヒユ科。糖分を蓄えている白いところは「根」の部分。昭和30年代後半に日甜が「ペーパーポット」を開発。これは紙の筒の中に土と種を入れて苗を育て、畑に移植する。雪解けを待ってから畑に直接種をまく方法に比べ、畑での生育期間が延びるため、ビートがより大きく育ち、飛躍的に収穫量が増えた。

【砂糖ができるまで(ビート糖)】
(1)ビートをきれいに洗う:収穫して工場に集められたビートを水で洗い、土を落とす。
(2)ビートを切る:ビートから糖分を抜き取りやすくするため、スティック状に切る。
(3)煮る:スティック状になったビートを70℃のお湯の中を通す。
(4)清浄・ろ過:ビートが通ったお湯から不純物を取り除くと「糖液」ができる。
(5)糖液を濃縮:糖液を煮詰めることによって余分な水分を飛ばして濃縮する。
(6)結晶化:濃縮した糖液にタネ糖を入れると周りに糖が集まり結晶となる。
(7)分蜜:遠心分離器で結晶と蜜に分ける。
(8)結晶を乾燥:分離した結晶を乾燥させると砂糖の出来上がり。

【砂糖の種類】
◇三温糖

糖液からは、最初にグラニュー糖や上白糖を作る。残った糖液は数回、加温を繰り返して砂糖を作るため、加温を重ねることでカラメル色となる。三温糖に色がついているのはこのため。


◇黒糖
サトウキビの搾り汁をろ過して、そのまま煮詰めて濃縮し、冷やして固めたものが黒糖。糖の割合は75~86%と砂糖の中では糖度は低め。


◇上白糖
日本の家庭で最も一般的な砂糖。結晶が小さくしっとりしているのが特徴。料理に使うと甘味とともにコクも出る。糖の割合は約98%。


◇グラニュ糖
上白糖よりも結晶が大きくサラサラしている。糖の割合はほぼ100%と上白糖よりも高く、他の素材の邪魔をしないので、スイーツ作りに向いている。


<ビート資料館>
帯広市稲田町南8線西14
Tel:0155・48・8812
開館:9時30分~ 16時30分
休館:8月15日、9月5日、年末年始
料:一般300円、大学生200円、高校
生以下100円


※フリーマガジン「Chai」2018年11月号より。
※撮影/辻博希。写真の無断転用は禁じます。