2024年4月号

特集/ときめきのプリン&愛しのシュークリーム

十勝の“さしすせそ”(1)「す 丸勝」

手前から〈小豆の酢〉〈きんとき豆の酢〉〈白いんげん豆の酢〉〈ながいもの酢〉各940円(税別)。豆類を原料にした酢を販売しているのは全国唯一だそう。十勝ヒルズ(幕別)や帯広市内の百貨店などで購入できる

豆を身近に 異業種から挑戦した酢
 穀物卸売りの丸勝(帯広)が手掛ける酢は、十勝の「豆」が原材料だ。豆の一大産地で、消費拡大を願い開発した。

 「豆は煮るのに手間がかかるでしょう」と商品製造室室長の水谷光さん。栄養価も高く食卓に取り入れたいが、浸水やアク抜きと家庭での調理は確かに面倒。調味料で身近に感じてもらおうと2005年から、十勝圏地域食品加工技術センターや道立食品加工研究センターの協力を得て研究を重ねた。

 従来、雑豆からの酢は難しいのが常識だった。豆を煮ると、豆の細胞のつながりが切れてできた「餡粒子」が豆のでんぷんを覆ってしまい発酵が難しい。加えて、食品加工の知識がゼロからのスタート。「醸造に適した温度や時間など、地道にデータを取り続けた」と試行錯誤した当時を振り返る。その後、餅粒子を崩壊させてでんぷんを糖化し、アルコール発酵させる醸造技術を確立。07年に小豆の酢を商品化し、現在は4種を展開する。

 小豆の酢は、穀物酢と比べてうま味成分のグルタミン酸が豊富で、小豆の栄養素やポリフェノールも多いという。サラダにかけるとコクが増す。かんきつ類の代わりに入れたサワーもいい。何より、十勝への思いが舌に染み入る感覚が心地いいのだ。

<小豆の酢>
独自の特許製法で醸造した酢。豊かな風味とまろやかな酸味で、ご飯との相性がよく酢飯もおすすめ。料理や飲み物の隠し味にも


<きんとき豆の酢>
とろみがある珍しい酢。油を使わなくても素材とよく絡むので、塩やこしょうを加えたノンオイルドレッシングとしてどうぞ


<白いんげん豆の酢>
高級和菓子に使われる豆「大手亡」が原料。料理や飲み物の隠し味に。あっさりとした酸味で、魚介類のうま味を引き立てる


<ながいもの酢>
口当たりがよくフルーティー。ドレッシングの他、薄めてハチミツなどを加えた飲料としても。しょうゆとの相性がいい

手軽に楽しみたいときは酢を使ったドレッシングを。〈豆のドレッシング〉など小豆の酢を使ったシリーズは4種(写真奥、各600円)。〈食べる豆ジュレドレ〉各260円は珍しい豆まで16種そろう。各税別


◇工場を拝見
 豆の酢を造るには、1カ月半から長いもので半年かかるという。丸勝敷地内にある醸造酢工場で、小豆の酢の製造工程の一部を見せてもらった。


案内してくれたのは…
十勝ヒルズ開発製造室 製造主任 田沢直也さん


「十勝の豆をおいしく食べてほしいと願いながら日々製造に励んでいます」。菌を扱うので、製造は生き物に接するのと同じ難しさがあるそう

(1)炊く
前日から浸水させた小豆を炊く。この日は60㎏を大きな釜でかくはんしながら、94℃以上の温度で約1時間半煮詰めた。炊きが甘いと次の工程で粒が残るので慎重に


(2)粉砕
炊いた小豆を数回に分け、石臼のパーツを取り入れた専用機械に入れるとペースト状に(左下)。あんと同じよい香りが漂う


(3)アルコール発酵
温度が下がったら酵母を入れてアルコール発酵させる。約3時間程度で糖度が上がり始め、小豆では4、5日置いておく

(4)醸造発酵
固形と液体を分離し、液体部分の上澄みを酢酸菌が入っている発酵槽に移して、酢酸発酵させる。期間は1カ月半~半年。ツンとした独特の香りで満ちる醸造室には、発酵中の酢を入れた缶が眠る


(5)充てん
80℃以上で10分加熱して酵素を死活させ、約3日間沈殿させてろ過したあと、専用機器を使って手作業で充てん。最後に殺菌して完成

<丸勝>
帯広市西25条南1丁目1
Tel:0155・37・4211 


【特集】十勝の“さしすせそ”
農業地帯の十勝は、地元の農作物などを使った調味料の生産も盛んです。十勝らしい砂糖や塩、酢、しょうゆ、みそを紹介します。

※フリーマガジン「Chai」2018年11月号より。
※撮影/辰巳勲。写真の無断転用は禁じます。