「廃校が地域コミュニティに。TOKOMURO Cafeに流れる暖かい時間を過ごす」 やぎのとかちさんぽ十勝編(2)
広大な十勝にはかつて多くの小中学校がありましたが、残念ながら少子化の影響により、この20年近くで廃校が随分と増えてしまいました。一方で、その校舎を地域活性に生かす町も出てきました。
浦幌町も6校あった小学校は2校に、3校あった中学校は2校に、そして、2010年には浦幌高校も閉校になりました。しかし、近年、道内外から多くの若者が地域おこし協力隊などをきっかけに町にやってきて、次々に起業を成功させ定住しています。つい先日は、北海道教育大学釧路校出身の若者二人が、町長をはじめ多くの町民に見守られながら公民館で手作りの結婚式(5年ぶり!)を挙げて話題になりました。
そして、2005年に閉校した旧常室小学校をリノベーションした、〝TOKOMURO Lab〟内に、〝TOKOMURO Cafe〟を企画し、オープンさせた元地域おこし協力隊員の三村直輝さん(30)もその一人です。
カフェは林業が盛んな浦幌町の特色、資源を生かして、木のぬくもりがあふれた内装になっています。天井が高く、かわいい暖炉があたたかく見守っているようです。僕はオープン直後の2018年秋にも訪れましたが、つい先月訪れた際は、お客さんでいっぱいになっていました。
広島県出身の三村さんをはじめ、4名ほどいるスタッフは全員が道外出身で平均年齢は32歳。居心地のいい空間、スタッフのみなさんのホスピタリティだけでなく、もちろん、美味しい食事も人気の理由です。
こちらは僕がいただいた〝黒千石大豆〟を使ったキーマカレー。豆の食感を楽しみながら、最後の一粒まで美味しくいただきました。さらに町で採れたニンジンを使ったキャロットケーキ、ハスカップを使ったパウンドケーキなど、デザートも充実しています。
11月8日からスタートした「えらべるララ♪ランチ」は、主食をパンかご飯を選び、それに合わせて黒千石豆のキーマカレー、厚内産タイ風シーカレー、エゾ鹿肉のハヤシビーフ、厚内産鮭のチャウダーから選ぶスタイル。主食に合うメニューは旬に合わせて変更していく予定とのこと。メインに使うものももちろん、できるだけ浦幌町産にこだわったもの。例えば、鮭やツブ貝、カレイなどはその日にとれたものを漁港まで買いに行き、カフェでスタッフ自ら捌くそう。ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、シロップ、ジャムなどの調味料は全て手作りだと言います。
礼儀正しく、優しい人柄の三村さんにトコムロカフェを運営するやりがいを聞くと、顔がくしゃくしゃになりました。「おじいちゃん、おばあちゃんから、お孫さんまで3世代でカフェに来て下さる方もいらっしゃいます。それはおじいちゃんが昔常室小学校に通っていたからなんです。懐かしそうに杖をつきながら、当時を思い出すかのようにお話ししてくださいます。「使ってくれてありがとう」と言われたときは、やってよかったなー!と思いました」
今年5月には町内の上浦幌中とパートナーシップ協定を締結し、子供たちに地域活性化をテーマにした講演会の講師を無償で務めるほか、上浦幌中の生徒が毎秋開催する「上中カフェ」のメニュー開発を手伝っている。一方、中学校では学校農園で栽培、収穫農作物をカフェに提供しているそう。すっかり地域社会に溶け込んでいる様子が伝わってくる三村さんですが、浦幌町の魅力とは?「資源の宝庫だと思いますね。そして、第一次産業を仕事にする方々の暮らしを間近で見られることはとても貴重な経験だと感じています。また、みんな、あたたかく、困っていればお互い様の精神が脈々と受け続けられていることが肌身をもって感じられます」とのこと。
ランチは11時から15時までで、カフェタイムは17時まで(月曜と金曜はランチのみ)。定休日は火曜から木曜日。帯広中心部から車で1時間ほどのところにあります。うらほろ森林公園では、木々や花々が冬支度をしている最中で、紅葉も美しい季節です。僕のお気に入りで、忘れていけないのは、留真温泉の露天風呂からの絶景ですね!ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか?
・浦幌町
https://www.urahoro.jp/index.html
・TOKOMURO Cafe
https://tabelog.com/hokkaido/A0111/A011103/1061494/
文:八木圭一
https://twitter.com/keiicu
1979年4月19日生まれ。北海道十勝出身。帯広柏葉高校、横浜国立大学経済学部卒。旅行雑誌の編集者や飲食系のコピーライターなどを経て、2014年に『一千兆円の身代金』で宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して作家デビュー。同作は翌年、フジテレビでドラマ化。現在はIT企業でパラレルキャリアを歩んでいる。最新刊はグルメミステリー『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』(集英社)。
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