個性いろいろ、十勝のワイン(1)「十勝のワイナリーめぐり~十勝が丘ワイナリー」
01.音更町 十勝が丘ワイナリー
ワインを通じて広がる地域の輪
今年4月、十勝川温泉に新たなワイナリーがオープンした。管内における5番目のワイン醸造所で、音更町内では初となる。
代表の中村利雄さんは、帯広信用金庫で定年まで勤め上げた金融畑の出身。農家から手つかずの土地の活用法を相談されたのが縁で、自らブドウ畑を切り盛りするようになった。2020年には十勝ぶどう園を設立。1.55ヘクタールもの畑を有し、山幸と清舞を無農薬の有機栽培で育てている。
害虫を一つずつ手で取り除くなど、多大な手間を要する無農薬のブドウづくり。それでも中村さんがオーガニックにこだわるのは、「おいしくて体に優しいワインで、地元を盛り上げたい」という強い思いがあるからこそ。そうして大事に育てたブドウは、23年に24度近くの高い糖度を記録。努力の結晶として、渋みが少なくフルーティーなワイン〈オトプケ浪漫〉が完成した。
地元のボランティアとともにブドウを収穫し、子ども向けにブドウジュースを用意するなど、気軽に立ち寄れる雰囲気づくりにも力を入れる。「この場所を次世代に引き継ぎ、地域に恩返しをしたい」と中村さん。観光の呼び水に留まらず、交流スポットとしての可能性も見据えている。
音更町十勝川温泉北14丁目4-10
Tel:0155・67・1981
営:9時~16時
休:火・水曜
■購入できる場所/同ワイナリーショップ、ハピオ木野(音更)、らららマルシェ(音更)など
風土が生み出す豊かな味わい
十勝ワインの可能性
十勝のワインの特徴と魅力について、北海道ワイン教育研究センターの曾根さんに伺いました。

教えてくれた人
北海道大学 北海道ワイン教育研究センター センター長 曾根輝雄さん
2022年に北海道大学で設立された、北海道ワイン教育研究センターのセンター長。ブドウ栽培や北海道ワインに関する課題について、学問の分野からアプローチを試みる。同大学大学院農学研究院・教授、同大学大学院・国際食資源学院長などを兼任。
十勝地方は北海道で最も古く、最も新しいワイン産地であるといえます。道内のワイナリーで最も早いタイミングとなる1963(昭和38)年に、池田町が十勝ワインを創業しました。そして今年4月に開設された十勝が丘ワイナリーは、2025年7月現在で最も新しい施設です。
現在、十勝地方のワインづくりの中心となっているのが、清見、清舞、山幸のいわゆる「十勝品種」です。十勝のワインの味わいは、ブドウの特徴と切り離せません。山ブド由来の野生的なニュアンスの香りを持つのが「十勝品種」で、醸造法の探究などによってエレガントな味わいから個性的な風味まで、多彩な楽しみ方ができるようになりました。また山幸は特に寒さに強く、木に実ったまま凍らせた果実を使用するアイスワインを安定的に作れるのもメリットです。北海道では十勝と富良野のみで可能となっています。
北海道内のワイナリーは、10年間でおよそ3倍というペースで増加しています。しかし、まだ全国的な知名度は高くないのも現状です。今後は北海道のワインと食、アクティビティを楽しむ国内外のツーリズムにも期待が高まります。十勝のワインにも、さまざまな可能性が秘められているのではないでしょうか。
<北海道大学 北海道ワイン教育研究センター>
札幌市北区9条西8丁目
メール:winec@agr.hokudai.ac.jp
※フリーマガジン「Chai」2025年9月号より。
※撮影/辻博希。写真の無断転用は禁じます。
個性いろいろ 十勝のワイン
管内で新しいワイナリーがオープンし、改めて十勝のワインに注目が集まっています。各施設の歴史や食事とのペアリングなど、飲んで応援したくなる、地元ワインの魅力をご紹介。