「静寂のカール(圏谷)に立つと原始的な自然が歓迎してくれる」。環境省帯広自然保護官事務所の山北育実自然保護官(40)は日高山脈の魅力を話す。
帯広事務所では現在、日高山脈の国立公園化に向けて登山道の状況調査を進めている。9月9日から10日、日高山脈のカムイエクウチカウシ山(通称カムエク、1979メートル)に入山した山北さんと自然保護官補佐の丸岡梨紗さん(38)らに同行した。
カムエクはアイヌ語で「クマが転げ落ちる山」に由来し、急しゅんな山容でも知られる。氷河地形のカールを抱き、ヒグマやナキウサギが生息する野生動物の楽園だ。日本200名山の中でも最難関と言われ、滝の高巻きやハイマツこぎを強いられる原始的な登山が特徴となっている。
登山には札内川の支流の八ノ沢を遡行(そこう)して頂上を目指すのが一般ルート。20キロ弱のリュックを背負い、登山道上の危険箇所などをメモしながら実地調査を行った。標高1000メートルからの難所は設置されたロープにつかまりながら歩みを進めた。
沢の源流部を抜け、八ノ沢カール(1550メートル付近)へ飛び出すと、水音が消え静寂の空間に包まれた。平野部に雲海が広がり、飛び出た山頂のみが小島のように顔を出している。山腹の木々は既に紅葉し始め、秋の到来を感じさせた。
山北さんは昨年4月以来、日高山脈の20座以上を登頂した。実際に登ってみると、しっかりとした登山道がないことが日高山脈の良さと気付いたという。「今のままの日高を残すためには、整備がそぐわない山もあるのかも」。自治体や山岳団体と一緒に将来の日高山脈の在り方を模索している。