北海道の山を切り撮る

十勝川源流へ 秘境パンケトムラウシ川 トムラウシ山(2141m)

2016年7月27~28日(雨)

 8月11日は今年から始まった国民の祝日「山の日」。登山ブームが続き、中高年や"山ガール"と呼ばれる若い女性など、日本の山々は幅広い層でにぎわっている。道内にも、登山道が整備されて気軽に楽しめる山から、数日かけて縦走しなければたどり着けない秘境も多く存在する。十勝毎日新聞社は今回、山の日に合わせ、十勝川の源流をたどる企画を立てた。舞台は大雪山系トムラウシ山(2,141メートル)の秘境パンケトムラウシ川。大樹町在住の登山愛好家望月和親さんをガイド役に、記者とカメラマンが、身をもって感じた山の魅力を伝える。

  道をふさぐ倒木を避けながら林道を歩くこと約30分。水が流れる音が聞こえてきた。藪(やぶ)を超えるとスタート地点に出た。穏やかな川の流れにほっとする。ひんやりとした山の空気も心地よい。この奥にはどんな世界が待っているのか。

  最初のなめ滝が現れる。冒険心をかき立てられるような美しさだ。岩盤を這(は)うようによじ登るが、簡単にはいかない。足の踏み場を失い、さっそくドボン。雪解け水だけあって冷たい…。自然を前に非力な自分が悔しい。

  途中で降り出した雨の勢いが増してきた。ぬらした荷物はとにかく重い。ザックにロープを結びつけた後、先回りして引き上げる。これも沢の攻略法の一つ。

  数々の難関を超えたと思いきや、追い打ちをかけるような"非情の滝"が現れた。まるで滝が怒り狂ったよう。激しい水流に体ごと持っていかれそうだ。きょうの宿営場所はもう目の前。あと一歩だ。

  テントで宿営。ゴーッという水の音で目が覚めた。外を眺めると、前日の川は一変。水かさが増し、濁流へと姿を変えていた。とても遡行(そこう)できそうにない。笹薮をかき分けながら尾根に上がり、上流部を目指す。

  濁流を避けて進んでいくと水の音が止んだ。沢に降りるとそこは銀の世界。だが油断は禁物。所々で雪渓が切れ、すぐ下は激流が渦巻く。雪の硬いルートを選び、雪に足をねじ込みながら慎重に登っていく。

 トムラウシ公園近くの高山植物チングルマ、ツガザクラ。かわいらしい姿に心が癒やされる。ついに沢の源頭部に到着。トムラウシ公園近くにある登山道も見えた。望月さんと握手を交わし、歩みを振り返りながら感慨に浸る。藪をこぎ、崖を這(は)い…。通常ルートでは味わえない自然の奥深さを肌で感じた2日間だった。(2016年8月 十勝毎日新聞社紙面より転載)