2024年4月号

特集/ときめきのプリン&愛しのシュークリーム

音を紡ぐ左手(5)「お茶のひととき、至福の時間」

 入院して5週目を迎える頃、2人部屋に移ることになった。8人の大部屋とは異なり、静かな時間も味わえる。週末には自宅に帰ることも許され、病院との間を寝台の付いた車で送迎してくれた。

 いろいろな本が読みたくて、でも結局井上靖の「楼蘭」とか「敦煌」のような古代のシルクロードを素材とした物語に引かれた。大気の流れ、運命の運びに操られて行く人間の姿に強く引かれた。こまやかな心理や感情の動きに左右され