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「メルカリで山菜」どう考える 自然を利用するモラルとは

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 自然の恵みはだれのものか?-。十勝毎日新聞が5月に報道した「フリマアプリでの山菜販売」問題で、山菜の販売行為について賛否の声が寄せられている。春の楽しみとして道民に親しまれる山菜採りだが、インターネットの恩恵で個人による販売行為が手軽になる中、「自然とどう付き合うか」というモラルの再確認が求められている。
(デジタル編集部=小林祐己、社会部=高田晃太郎)

「メルカリ」に出品された山菜

◆フリマアプリに「道内産」
 天然物の山菜の販売はこの時期、道内では農家の直売所や道の駅などで普通に見かける。しかし十勝毎日新聞では20日付紙面で、「メルカリ」などインターネットのフリーマーケット(フリマ)アプリで「道内産」が多数販売されている実態を報道した。さらに31日付紙面では、管内の民有林で、所有者に無断の山菜採取が相次いでいる問題を取り上げた。

 山菜の採取と販売は自身の所有林であれば問題ない。ただ国有林や道有林では「個人で楽しむ採取」は自由だが、販売目的の採取は想定されていない。十勝西部森林管理署は「国有林は国民の財産。販売は認められない」とする。

 販売するためには、厳密には「林産物売買」の契約を結ぶ必要がある。一方、記事では「道内なら採る分以上に十分な量があるので、目くじら立てることでもないのでは。ただ来年も同じ場所で採れるように根などを残すことが大切」との専門家の意見も伝えた。

 民有林で所有者の許可なく採取・販売することは論外だ。では、国有林や道有林などでの山菜の採取・販売は、社会的にどう認識されているのだろうか。

◆「金儲け」に疑問の声
 「自分で楽しむためなら良いが販売はマナー違反」。山菜の販売についての認識を取材すると、反対意見では、法律上やルール、マナーの面から「販売自体がダメ」とする人が多かった。

 「自分の土地以外(の販売のための採取は)は窃盗」「道内では山菜は自分で食べるために採るもの、お裾分けでもらうものという考えがある。金儲けの手段にするべきではない」

 さらに乱獲による資源枯渇や自然への影響を懸念する意見も多い。「金銭目的の乱獲はその後に採れなくなってしまう」。山菜採りには資源を守るための「暗黙のルール」があるとし、「行者ニンニクなら1枚葉のものと3枚葉は残すというルールは守らなければ」との指摘もあった。

 ネット販売については、産地が確認できないことなどへの不安が聞かれた。「産地の記載ができないものは販売しないでほしい」。このほか「万が一毒草が混じっていたら責任が取れない。規制すべき」と安全面を懸念する意見もあった。

◆採りに行けない人も…
 一方、販売に賛成する意見も複数あった。

 「山菜採りは長く続く生活習慣。自家消費と販売に差を設けるべきではない」「食べたいけれど採りに行けない人のために販売はあっても良い」「私有林はダメだが国有林がダメな理由は?国民として税金を払っているのだから(国有林などは)山菜採りくらいさせてほしい」「私有林でなければ問題ない」

 ネット販売についても、「法人格での道の駅や直売所、ネット販売は生産地の活性化やアピールにつながる」と肯定する意見がある。「乱獲や高値で売らなければ良いと思う。山菜を食べたいけれど採りに行けない人、近くのスーパーなどで売っていないという人もいるから」

 販売を賛成する人も、多くはマナーや資源保護、安全面への配慮は必要と考える。「勝手に私有地に入ったり、ごみを捨てたりは良くない。毒性のものを売ってしまうと怖いので確実に見分けられる人がやってほしい」。ネット注文分のみを業者が採る「山菜採り代行方式」の提案もあった。

◆山菜はだれのもの?
 北欧など海外では「自然享受権」などとして、民有地でも野性の果実やキノコ類を採ることができる地域がある。日本では山菜など「自然の恵み」に対する意識はどうなのだろうか。

 「山菜はだれのものでもないので採取は構わない」。日本でも山菜などの所有権について、「緩く」捉える考えはある。山菜採りをする人に採取場所を聞いたところ、約3割は「分からない・確認しない」と答えた。実際、山菜採りをするときに国有林か民有林かを確認する人の方が少ないだろう。十勝管内の道の駅に聞いても、販売する山菜の採取地を確認しているところはなかった。

 ただ日本では民有地の無断の立ち入りや採取は認められない。さらに「日本の私有地は面積が少なく、過度の採集には耐えられない」「自然享受権を有する人間は自然保護に関する維持管理義務を負う。森林利用者のモラルが向上しない限り、問題解決には進まない」との指摘もあった。

◆自然との関わり
 メルカリなどネット販売で問題視されるのが、このモラルの問題だ。地域内の「顔の見える関係」にある直売所や道の駅と違い、ネット空間での売買では採取場所や採取方法がより不透明で、私有地立ち入りや乱獲などへの不安が強い。

 「売れると分かれば乱獲につながる。山のルールは最低限守るべき」「モラルのない一部の人が必要以上に採取したり、傷を付けたり、根こそぎ採取したりして、実がならなかったり、翌年に同じ場所で採取できないこともある」

 「きちんとした場所で採取してるなら各媒体を通して販売するのは問題ない」という意見もあるが、ネット販売では採取地を「道内」「道東」などあいまいにしているケースが多く、「素性」は分かりにくい。

 「ネットではどこで取れた物か分からないので購入しないようにしている」「信頼性に欠けるネット販売や販売目的の乱獲はやめてほしい」「認可された業者以外、知識のない人が個人的にやるのは信用しにくい。ましてやフリマアプリとか」

 国有林などで「個人の楽しみ」のための採取が認められるのも、ルールやマナーが守られ、資源が保護されてのこと。「日本の学校でも山菜の見分け方やマナーも含め『自然とどう関わったら良いか』をもっと教えるべきだ」との意見もあった。「山菜は食べる分だけ」-。これからも自然の恵みをみんなで楽しみ続けるために、自然利用の原点を再確認したい。


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