2024年4月号

特集/ときめきのプリン&愛しのシュークリーム

【シニア】音を紡ぐ左手(9)「曲を弾ける喜び」

 脳出血で半身不随になって1年と数カ月が過ぎた頃、米国に留学していた長男ヤンネがフィンランドに一時帰国した。シカゴに戻る前に、1冊の楽譜を私のピアノの上に置いていった。英国の作曲家ブリッジの「三つの即興曲集」だった。第1次世界大戦で右手を失った友人にささげた曲集である。「夜明け」「夜の祈り」「酒宴」の3曲で構成されていた。

 ブリッジにも左手の作品があったのだと思い、楽譜を開いたその瞬間、恐