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1920年10月7日の十勝毎日新聞記事にはスペイン風邪の脅威が記されている

100年前のスペイン風邪、十勝では? 市中感染に脅威、「ワクチン」奨励も

 新型コロナウイルスの第6波が日本各地を襲っている。2020年1月に国内初の感染が確認されてから2年がたち、陽性者数は170万人(うち死者数は約1万8000人)を超えた。世界では100年ほど前にもインフルエンザ「スペイン風邪」が猛威を振るい、十勝管内でも多くの罹患(りかん)者が生じた。当時の十勝毎日新聞でも「コレラ赤痢チフス等よりも恐ろしい」などと報じ、ワクチン接種の必要性など新型コロナとの時代を超えた共通点も見られた。(松田亜弓)

 新型コロナウイルスの感染者数は全世界で2億8000万、死者数は543万(2日時点、厚生労働省)を超えている。これに対し、スペイン風邪は1918年3月から20年ごろまで全世界で流行し、当時の世界人口18~20億人の3分の1以上が感染し、数千万人(おおむね2000~5000万人)が亡くなり、致死率は2・5%以上だったと推計されている。

 本格的にスペイン風邪が日本を襲ったのは18年(大正7年)9月末から10月初冬といわれている。学校や軍隊を中心に1カ月ほどで全国に広がり、内務省衛生局が記した「第1回流行」(18年8月~19年7月)の1年間では日本の人口5720万人に対し、患者数は約4割の2116万人に上っている。うち死者数は25万人で、致死率は1・2%だった。

 「第2回流行」(19年9月~20年7月)では患者数241万人、死者数12万(致死率5・3%)、「第3回流行」(20年8月~21年7月)は総患者数22万、死者数3698人(致死率1・6%)と推移。徐々に国民が免疫を獲得していき、季節性インフルエンザへと移行した。

 十勝の詳細な患者数や死者数は記録に残っていないとみられるが、当時の十勝毎日新聞によると、20年10月7日の記事に「流感 帯廣を襲ふ」と見出しがある。記事中では「急性肺炎になってゐるのが決して少くない」「東京ではもう盛になってきて~本道は東京と最も密接な関係があって人の往来も頻繁だから帯廣地方にも患者らしいものが見られている」と現在のコロナ同様の人流を介した感染の広がりが記されている。

 また、当時はインフルエンザウイルス発見前で現在と同様のワクチンではなかったが、記事中には「初期だから今のうちにワクチン注射をして予防して置けばよい」「注射をした人でも罹病した人が澤山あつたが、併し注射をしてゐないとしたら更に激烈な魔のお見舞を受けたかも知れないので大難が小難が済む譯である」と今のワクチン奨励と同様の考え方があったようだ。

 十勝在住の教育者でアイヌ民族研究家の吉田巌の日記には、「流行性感冒者6割5部5厘強に当るを以て、学校閉鎖の手続書を」との記述があり、子どもたちが熱や頭痛、めまいなどの症状も訴えていたとの記録がある。同様に清水町百年史(2005年発行)にも、「大正7年(1918年)の冬からはやりはじめ、人舞村では同年11月には村内9小学校の児童総数1234名のうち、71%の878名が風邪のために欠席、教師もまた28名中20名が罹患して授業どころではなくなった」と市中感染が広がっている様子が記され、一週間の休校措置を取ったが死亡者が出るなどしたとある。

 加えて、大雪で死者の埋葬が間に合わず、雪の中に埋めておき、春に墓地に改めて埋葬した話や、清水市街の病院にはワクチンや薬も何もなく、「医者もお手上げだった」と脅威に感じていたようだ。また、「私の叔父も爺さんも孫爺さんも悪性の風邪で亡くなりましたが、そのとき熊牛では1週間で10人も亡くなり、坊さんがマスクをつけてお経をあげたり、道行く人もそこの家の前を通るときは手拭いでマスクをして走り抜けたそうです」(佐藤栄「熊牛の百年」)と当時も従来通りに葬儀を行うことが困難になったと記している。

▽1920年10月7日の記事全文は次の通り。(漢字やひらがな表記は現在使用されているものに変更し、句読点を付けました)

 秋風と共にまたまた
 流感帯広を襲う
 のどに症状が現れる
 何よりも各自の注意


 昨年末以来毎年寒気と共に例の猛烈なる伝染力死亡率をもった流行性感冒一名西班牙(スペイン)風邪という奴が

 ▽年中行事の一つのように涼風が吹いて薄ら寒くなってくる。暖気に馴れていた肌が急に冷たい空気にあたるので感冒となる。少し弱い者は直きのどを悪くして咳をし出す。熱が出ることを唯の風邪だと思っていると中には例の一時鉄砲風邪などと名づけられた激烈なる流行性感冒があって

 ▽急性肺炎になっているのが決して少なくない。また罹病後直ちに死ぬ程激烈性なのは襲来していないが、やがてはこれがまた昨今のようにやって来るものと思わねばならぬ。これについて当町某医師について聞くと現に東京ではもう盛になって来て中流以上の社会に多く患者が出て来たらしい。本道と東京とは最も

 ▽密接な関係があって人の往復も頻繁だからしたがって帯広地方にもぽつぽつ患者らしいのが見られている。中流以上の社会に患者が多いというのは中流以下の人は比較的寒気に対する抵抗力が強いが上流社会の人は弱いからだ。ふだん体の虚弱的な人はこの際大いに警戒しないと

 ▽普通の感冒でも危険である。また何といっても初期だから今のうちにワクチン注射をして予防して置けばよい。昨年も大分ワクチン注射にて問題を起こして注射をした人でも罹病した人がたくさんあったが、しかし注射をしていないとしたら更に激烈な魔のお見舞を受けたかもしれないので

 ▽大難が小難ですむわけである。腸チフスと違って一度やった人でも免疫性となるわけはないから必ず安心は出来ない。流行性感冒の普通感冒と異なる点はのどの症状が違うのであるが、普通の感冒だからといって安心していると飛んでもない間違いが起こるから早いうちから用心して少しいわゆる

 ▽風邪心地であったら直ぐに医師に見て貰った方がいい。流感は罹病者中半分までは肺炎併発者の二割以上は手遅れでなくても死ぬ位だから何病よりも恐ろしい我が国の流行病。伝染病中この位死亡率の多い病気はまあ少ない位でコレラ赤痢チフス等よりも恐ろしいといってよかろう。何をしても転ばぬ先の杖で各自に注意が肝要である。

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