本を探しに。(4)「十勝19市町村の図書館司書に聞く<人生を変えた一冊>&知ろう<わが町本>(1)」
<帯広市図書館>
千葉智子さんの一冊
「喜べ、幸いなる魂よ」佐藤亜紀(著)KADOKAWA
舞台は18世紀ベルギー。裕福な亜麻糸商の娘ヤネケは頭がよく、好奇心旺盛。幼なじみのヤンの子を身ごもり生家を離れ、女性たちの互助組織「ベギン会」に入会します。彼女は生涯単身で経済学や数学など独自の研究に没頭し、その成果は「会」の運営やヤンが継いだ家業の経営にも惜しみなく還元されます。
当時の世間の常識や女性のあり方に無関心なヤネケ。自由のない時代を独特の価値観でさっそうと生きる姿に勇気百倍です。
<足寄町図書館>
村田美佳さんの一冊
「いやいやえん」中川李枝子・さく 大村百合子・え(著)福音館書店
小学校低学年の頃に、何度も繰り返し読み続け、時間を忘れてその世界に入り込んでしまうほど、夢中になりました。本を読むことの楽しさを知るきっかけとなり、今でも内容を思い出せる大好きな一冊です。
<池田町立図書館>
大堀爽香さんの一冊
「足みじかおじさんの旅」やなせたかし(著)新日本出版社
この本は大人向けの短編童話集です。足みじかおじさんの奥深く温かい言葉がメルヘンな世界だからこそ、日々の疲れた心にすんなりと染みます。もっとラフに生きて良いんだ、と私を前向きにしてくれた一冊です。
<浦幌町立図書館>
山崎菜摘さんの一冊
「モモ」ミヒャエル・エンデ(著)岩波少年文庫
10歳の時に読みました。人々の時間を奪う「灰色の男たち」と、奪われた人々が、心の豊かさを失い利便性や効率性にとらわれる描写に恐怖を覚えました。今読み返すと「灰色の男たち」は現代社会にあふれていて、時間の過ごし方について心から考えさせられました。
<音更町図書館>
高瀬はるかさんの一冊
「ブラック・ジャック」手塚治虫(著)秋田書店
医者としてではなく一人の人間としてけが人や病人を助ける主人公の姿から命の重さ、生きているという素晴らしさを教わり、考えさせられる手塚治虫の色あせない名作。コロナ禍の現代にも読んでほしい名作です。
<上士幌町図書館>
橋本香奈代さんの一冊
「三四郎(『夏目漱石全集』第4巻より)」夏目漱石(著)岩波書店
戦争に息子を取られた老人、大学生の迷い、女性の恋愛観など、生活に地続きの会話が、私を明治時代に生きている人間のような感覚にさせてくれました。
読書の新たな楽しさを教えてくれた一冊です。
<更別村農村環境改善センター図書室>
斎藤優子さんの一冊
「1リットルの涙」木藤亜也(著)エフエー出版
本書の数多い名言の中で、特に「人は過去に生きるものにあらず、いま出来ることをやればいいのです」は、私の心に響きました。それ以来、昔の栄光にとらわれず、人生の一瞬一瞬を大切に過ごすように努めています。
司書のお仕事って?
図書館に行くと、出迎えてくれるのは司書の方々。知っているようで知らない司書の仕事を、帯広市図書館司書の菊地さんに取材しました。
本の貸出や返却のカウンター業務、選書、管理、展示コーナーの作成、イベント開催など司書の役割は幅広い。困っている利用者に声をかけ、必要とする文献や資料を検索し、提供することで学びの援助をする。
みんなが使いやすい図書館にするため、裏方の作業も多い。傷んだ本の修復作業のほか、本全てにラベルなどを貼り管理をしている。
新たに入れる本を選ぶだけではなく、捨てる本を選ぶことも仕事の一つ。そのため、世の中の流れ、利用者の関心事をリサーチすることも大切な業務だ。職員同士、ニュースの情報交換も欠かさない。「情報と人の出合い」を手助けする重要な役割を果たしている。
※フリーマガジン「Chai」2022年11月号より。
※撮影/辰巳勲。写真の無断転用は禁じます。
本を探しに
本は宝物だ。読書をすればその世界に没頭し、感動や新しい知見、技術を発見する。宝物たる本が眠る書店や図書館はまさに迷宮。入るだけでワクワクがあふれ出す。財宝のような、輝く一冊を探す冒険に出かけよう。