勝毎電子版ジャーナル

勝毎電子版

混迷のアフガニスタン 女性や少数民族弾圧に懸念 帯広出身ジャーナリスト佐藤和孝さん

 イスラム主義組織タリバンが実権を掌握し、混迷を深めるアフガニスタン。日本政府は1日までに、アフガニスタンに残された日本人らの退避任務で派遣した自衛隊撤収のため、任務の終結命令を出した。現地を40年以上に渡って取材してきた帯広出身のジャーナリスト佐藤和孝さん(65)=ジャパンプレス代表=は、十勝毎日新聞の電話取材に応じた。佐藤さんは「米軍が撤退すれば政権がつぶれることは市民も感じていたが、こんなに早いとは思わなかった」と驚き、今後、少数民族の弾圧や女性の就学就労の権利などが侵害されないかを懸念する。(聞き手・松田亜弓)

1979年のソ連侵攻からアフガニスタンを取材。アフガニスタン紛争やイラク戦争などを取材し、2003年にはボーン・上田記念国際記者賞特別賞を受賞している


 ―タリバンによる掌握は予想されていたのか。
 米国が軍の撤退を決めた時から大変なことになると感じていた。以前から多くのカブール市民が「米軍が撤退すれば絶対に政権はつぶれる」と言っていた。

 つまり、ガニ政権の求心力がほとんど無かったということ。それは汚職に加えて、世界中がこれほどお金を20年間掛けてきたのに、地方のインフラはほとんど行き届いてない。米軍がタリバンを追い出したとしても、恩恵は何も無かった。米軍もアルカイダ・タリバン掃討作戦をする中で誤爆が多かった。

 それらがタリバン台頭の原因になったと思う。市民レベルでそう感じていた。しかしながら、これほど早いとは私は思っていなかった。こんなにガニ政権は弱かったんだと驚いた。

 ―一部のアフガン兵は隣国へ逃走している。
 アフガニスタンの軍は徴兵制までひけなかった。希望者が入隊するが、基本的に兵士っていうのはボランティア。末端の兵士たちはどちらかというとお金で自衛隊になったという人がものすごく多い。アフガニスタンの政治家は「自分の国を守るために金、金、金というのはおかしいだろう」とよく言っていた。ただ、給料すらも軍の上の連中がポケットに入れてしまい、自分たちの給料払ってもらえない。それで士気なんて上がらない。

 いろいろと原因はあるが、ひとつは識字率。大体40%くらいだけど、兵士で読み書きできる人はもっと少ない。命令が上からどう下まで伝わるのか。20年間、軍を含めてなにをやってきたんだと思う。


 ―現地住民の受け止めは。
 アフガニスタンの主要民族はパシュトゥーンで、大体40、50%ほど。パシュトゥーンの地域では「タリバンでもなんでもいい」という人が多いと思う。

 タリバンはイスラム原理主義で、パシュトゥーン民族主義。「この国は自分たちパシュトゥーンのもの」だと思っている。タリバンはパシュトゥーンが主体で、はるか昔から「パシュトゥーンワーリー」という掟(おきて)がある。このイスラム原理主義と独自のパシュトゥーンの掟が結びついていることから、パシュトゥーンの人々がタリバンの方向に動くことには抵抗はない。一方で、少数民族はやはり抑圧されていくわけですから抵抗がある。

 ―タリバンの支配体制でどういうことが起こりうるか。
 住民たちはものすごく震えている。友人でもともと政府の大臣などをしていた人々は国外へ出た。国外へ出られない人たちは多く、それもハザラ人との関係は良くないため、ハザラ人たちは出たい。親戚とかの縁故を使って逃げようと必死になっている。

 ―かつての虐殺、民族弾圧も考えられるか。
 考えられる。タリバンは当初カブールに入って、「報復はしない」「イスラム法の範囲の中で」と言っていた。ただ、タリバンの指揮系統は一本ではなく、穏健派や過激派もいる。タリバンの上層部には最強硬派グループ「ハッカニネットワーク」がいる。そうすると、どういう風になるか分からないし、上の決定が末端に届くという指揮系統がまだできていない。末端が何をするのか。

 また、昔は女性の就学・就労をはじめ、映画や踊り、音楽といった娯楽も禁じられていた。写真・映像も偶像崇拝につながるということで一切だめだった。

 現実的なことでいうと、男性はひげを生やさなくちゃいけない、女性は服装は頭から足がすっぽり隠れるブルカ(女性用のベール)など制約がものすごくあった。

指に付けたインクは投票をした証。「私の一票がアフガニスタンの未来を創るの」女学生の目は真っすぐに将来を見つめていました。タリバンの統治で彼女たち女性の権利はどうなるのでしょうか(2014年大統領選挙、佐藤さん提供)


 ―今後、情勢はどう動いていくと考えられるのか。
 少数民族の弾圧、シーア派との宗派争いがどうなるかなど、少数の人々の権利を守れないようであれば当然国はつくれないが、タリバンにそういう能力が備わっているかというと疑問に思う。上の意思が下に行き届いてないのが大きな理由。

 加えて、地方では反乱が起き始めている。タリバンと闘っていた総司令官マスードの息子もパンジシール州で戦うといっている。パンジシールは制圧されていない最後の一州で、それがまだ落ちていない。なのでタリバンも早いこと平たくしなければ、どういう方向に行くかは不透明。タリバンの統治が続けば続くほど彼らの本質的なところが見えてくる。

 ジャーナリストに対するどう喝であるとか、いろんなことが起きている。そういうものがもっと激しくなれば、抵抗という火の手が上がる可能性がある。

 ―アフガニスタンへの思いは。
 ソ連侵攻の1979年から断続的にずっと取材しているので、アフガニスタン人の良いところも悪いところも自分なりに知っているつもり。友人・知人も多い。

 アフガニスタンは本当に風光明媚な厳しく激しい風景だけども、観光立国になってほしかったし、アフガンへの希望だった。ただ戦争がやまない。

 ジャーナリスト人生で最初に関わった現場だから、40年以上。まだ戦争が続いているのはどうにもこうならない。ソ連侵攻の時に生まれた人が40歳を過ぎている。平和っていうのは本当に遠いんだなと。

 (今回の混迷は)また20年前の繰り返しに戻るわけで、本当にがっかり。西側におけるテロ組織の巣窟になる可能性も高い。そうすると世界から当然嫌われるわけで。平和がますます遠のいてしまう。

 ―国際社会の対応は。
 国際社会も様子見でしょう。人権問題が根幹だと思うので、そこら辺がはっきりと見えてきたときに承認するかしないのかを決めていくということだと。

 いまは国民の避難をどうやるかっていうことに一生懸命になっている段階。将来におけるアフガン政策は五里霧中だが、西側から見るテロの根城にならなければ一番いい。タリバンが専制的な政治体制を敷いたとしても、テロリストをかくまわなければそれでいい、という風に動いていくのではないかと思う。そうなると、人権は無視して地球上に置き去りにされてくような国になる気がする。民主主義がアフガニスタンにとって良いのか分からないけれど、人間が自由に動けてものを言えて、それなりに家族を養っていけるのが一番いい国だと思う。そういう体制からかけ離れていくんじゃないかと思う。

 ―どういう風に考えていけばいいか。
 いつも思うことは、この仕事(ジャーナリスト)を若い頃からやっていて、アフガニスタンの戦争やいろんな企画書を出すけどほとんど跳ねられる。担当・編集者からは「アフガニスタンは遠い国だ」と言われ続けてきた。

 でも、同じ地球上・時間に生きていて、地図を開けば何センチの世界。飛行機で飛べば大してかかるわけでもない。遠いところの戦争は自分たちのところに降り掛かってこないと思っているようだけれども、最終的には経済的なものも含めて日本にも必ず波が来る。

 テロ組織やイスラム過激派が世界に活動を展開するかも分からない。そうなると日本への影響も当然出てくる。

 自分たちの半径5メートルのことではなくて、もう少し世界がどうなっているかを知ることも非常に大事なことだと思う。何かをしろとかそういうことは思わないが、やはり同じ人間が苦しみの中にいて殺されている、全く知られないうちに命をひねり潰されてる世の中があることは知っておいたほうがいいと思う。

記事のご意見・ご感想
深掘りしてほしい話題はこちらへ

かちまい投稿ポスト