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「理解してもらえない」 苦しむ声続々 CSアンケート~増える化学物質過敏症(3)

小林 祐己

元JICAグアテマラ事務所企画調査員

塩原 真

十勝毎日新聞社 編集局デジタルセンター

 「いつまで仕事を続けられるか不安」「周りに理解してもらえない」。十勝毎日新聞電子版「電子版ジャーナル」で行った化学物質過敏症(CS)に関するアンケートに、さまざまな症状に悩まされる人々の声が十勝管内外から寄せられた。CS患者が「原因」と考える化学物質と症状の因果関係が科学的に解明されない中、治療法もなく、社会的にも理解を得られずに苦しむ人たちが多くいる実態が浮かび上がった。
(デジタル編集部=小林祐己)

◆582件の「声」

 「近所の洗濯物の臭いから頭痛やめまいが始まった」「同僚の香水で具合が悪くなって」。アンケートに寄せられた声は582件で、ほとんどがCSと思われる症状に悩む人の悲痛な訴えだった。

さまざまな日用品をきっかけに症状を訴える声がある

◆始まりは「他人から」

 多くの人が発症のきっかけとするのが「他人から」の化学物質。最も多いのが柔軟剤や洗剤などに含まれる香り成分で、このほか消臭スプレーや消臭剤、芳香剤、制汗剤、除菌剤、シャンプー、化粧品など、日常で使われる製品が挙げられた。職場での受動喫煙で発症という人もいた。

 「自分は使用していないのに他人の洗剤、特に柔軟剤で体調不良が増えました」「柔軟剤や香水を使う人の近くの席になり発症した」「人が多い場所では気道が狭くなり、呼吸が苦しくなる」「隣家の柔軟剤、抗菌洗剤の香りに苦しんでいる。夏も窓を開けられずつらい思いをしている」

 柔軟剤については、香り付きの商品が近年増えるとともに発症したり、症状が悪化したりしたと感じている人が多い。スポーツインストラクターの人からは「スポーツをする人が汗臭さを気にして香り洗剤を使う人が増えている」との指摘があった。ごく微少なプラスチック容器「マイクロカプセル」に入った芳香成分が原因ではと言う意見も多かった。

 「料理屋で働く調理師です。無香料・石けん生活でしたが、お客さまの高残香の柔軟剤の暴露で発症したと思われます。服やお店のものすべてにマイクロカプセルがくっつき、除去に追われる日々です。体力的にも精神的にダメージがきつい中、お店を続けています」

◆社会と隔絶されて

 CSの症状を訴える人たちは、日常生活や仕事が大きく制限されている。

 「家族が付けて帰る化学物質臭でも気持ち悪くなる」「電車の席に座ると臭いが付く」「電車や高速バスに乗れない」「人込みに行けない」「香りきつめの洗剤や柔軟剤、香水をたっぷり付けた人が近くにいると鼻水やくしゃみ、時には吐き気も。移動できない映画館やコンサート、食事でそういう方がいると何も楽しめない」

 症状は頭痛や吐き気、倦怠(けんたい)感、関節痛、発熱、のどの痛み、まぶたのけいれんなど多種にわたる体調不良が報告された。「その時の暴露の量やものによってさまざま」という声もあった。

 職場で発症したり、症状が悪化したりしたという人も多く、もともとの仕事を辞めざるを得ないケースも多い。職場環境が良く、周囲の理解を得られる仕事を見つけるのは難しく、休職中という人もいる。

 「看護師をしているが職場でマスク三重とゴーグルをしないと仕事にならない」「体調を崩して仕事を休んでいる」「会社で多数の人の柔軟剤などの成分で体調が限界になり退職した」「天職だと考えていた美容師の仕事ができなくなった」

 フィットネスクラブで香料入りの除菌剤が噴霧されていて、「頭が痛くて吐き気がするのでやめてもらった」という事例もあった。しかし、多くの場合は自宅以外の環境を改善することは難しく、出かけなかったり、仕事を辞めたりと、社会と隔絶されるしか方法がない実態が伝わってきた。

◆学校に広がる香り

 「娘が塾から帰宅すると『頭が痛い』と言うように。聞くと、部屋の芳香剤やアロマ加湿器に加え、大勢の子どもたちの衣服の臭いが混ざって気持ち悪くなると言う」

 アンケートで目立ったのが、子どもたちが通う学校や保育施設、塾でのCS被害を訴える声だ。

 「小学校から帰ってきたら子どもの全身に、他人の洗濯洗剤や柔軟剤の臭いが染みついている」「子どもが給食当番で持ち帰るエプロンに他の家庭の洗剤の臭いが強烈」「保育施設で先生らの洗剤、柔軟剤香りが子どもの衣服、お昼寝布団に」「子どもが帰ってくると移香がすごく、抱きしめることができません」

 多くは子どもが自宅に持ち帰る臭いに困っているという内容だったが、中には「娘が学校に通うことができなくなった」という例もあった。

アンケートに多くの声が寄せられた

◆CS?精神疾患?

 「この病気は専門の医師も少なくとてもつらい」

 CSは正式に病名として認められてはいるが、発症のメカニズムや原因物質と症状の因果関係などは科学的には未解明で、具体的な治療法もない状況だ。

 このため医師の診察を受けて「CSと診断を受けた」という人も多数いる一方で、「産業医でもCSを知らない人がいる」「精神疾患扱いをされて絶望した」という声も。

 医学界にもCSについては議論が分かれる現状がある。アンケートにも、医療関係者から「衣類の柔軟剤などの臭いに反応して症状が出る人がいるのはよく分かります」とした上で、「症状と化学物質は無関係だと考えられます。臭覚閾値(いきち=感じられる最小量)以上の臭いに反応する『香害』と『化学物質過敏症』を混同すべきではない」という意見が寄せられた。

 治療や対応については、「食事から生活全般を見直して体調が良くなった」という人がいる一方で、「完治する方法も現段階ではない」「明確な治療法はなく、自費で体質改善をするしかない」などあきらめのような意見も多くあった。

◆社会の理解を

 「目に見えないためなかなか理解してもらえない」

 こうした状況から、CSを訴えても、職場や家庭で理解を得にくい現状がある。

 「訴えても『市販品は安全性が認められている。使用の自由を奪うな』と言われる」「神経質すぎると言われた」「伝えると怒り出した」「学校や教育委員会に保護者が訴えてもクレーマー扱いされる」「芳香剤を使う夫に気持ちが悪くなると訴えたら『世間はこれが普通だ』と言われた」「夫や実の親から理解を得られず、孤独なつらい毎日を送ってきました」

 化学物質にあふれる現代社会でこうした症状を抱える人はどう生きるのか。アンケートでは「個人で対処できる範囲を超えている」と行政や企業の対応を求める意見が多かった。

 一方で、「CSについて最近知った。当事者は大変な思いをされているだろう。自分にできることとして、芳香成分のないものを使うようにしたい」との声も届いた。自分の家庭や職場など身近な環境を一度見回してみて、不必要な化学物質は使っていないか、周囲に苦しんでいる人はいないか、考えてみることがまず大切な一歩だと感じた。



化学物質過敏症アンケート

●6割が体調変化を経験~化学物質過敏症アンケート結果
 「化学物質過敏症アンケート」は、十勝毎日新聞電子版に掲載した記事「『香り』に苦しむ人たち レストラン休止も~増える化学物質過敏症(1)」(12月7日)に連動して、WEB上で実施(19日まで)。582件の回答が寄せられました。

 質問では、「化学物質過敏症と思われる体調変化などを経験したことがある」人が61・1%を占めた。このうち「発症3年以内」の人は35・8%で、「それ以前」が44・1%だった。「芳香成分の入った合成洗剤・柔軟剤を使用している」は29・5%で、7割は使用していないと回答した。

 十勝毎日新聞デジタルメディア局にはアンケート以外にも、メールなどで多くの声が寄せられた。

 帯広の市民団体「アレルギーを考える会」の村上尊子会長によると、「全国的にCSが注目され、団体も設立されている」と話す。会員内でも香害を問題視する人は多かった。主に柔軟剤や消臭剤のにおいにより、体調を崩す話が多かったとする。
(デジタル編集部=小林祐己、塩原真)

<読者の声の一例>
看護師の40代女性のケース
 2014年頃、仕事の介護施設に行くたびに、帰りにはめまいがひどく、目も霞むように。鼻の奥がひどく荒れて顔面の痛みを伴うようになる。帰りの運転中に意識が飛びそうになることが続き、内科、脳神経外科、心療内科等受診するが原因は不明。耳鼻科で化学物質過敏症ではないかと言われ、職場で職員が制服に高残香性柔軟剤を使う人が増えてからこうなったと思い当たる。

 職場に訴えたが、周囲の医師も看護師も柔軟剤からの発症に懐疑的で協力(マスクやゴーグルの着用、他の人に柔軟剤使用を控えてもらう等)が得られず、職を変わらざるを得なかった。何とか理解してもらえる職場を見つけるまで2年間4カ所を点々とした

 買い物、職場などでは活性炭マスク1~3枚とゴーグルの着用が必須。近所の柔軟剤臭が入ってくるので自由に窓を開けられない。外で公共の椅子に座ると衣類に臭い成分が付着するから座れない。商店のかごやカートに臭い成分入りのハンドクリームが付着していて触ると手に移る。病院の職員も柔軟剤使用者が多く病院に行くのもつらい。

 調べたところ、自分程度の症状では(軽度の慢性的症状)薬も治療法もなく、原因物質を避けるしかないとのことなので、今以上に困ることになったら県外の専門科を受診しようと考えている

 高残香性柔軟剤が流行してから普通の生活ができない。医療従事者と同様に一般社会でも強い香りを身に付けることはマナー違反だったはず。とにかく、一刻も早く何とかしてほしい。

帯広市内の40代女性のケース
 6、7年前から症状が現れた。柔軟剤、消臭剤の臭いで気分が悪くなった。3人の子どもがいるが、部活の送り迎えで他の子を乗せた時や、他の家庭で洗ったユニホームを持ち帰った時に頭痛がした。



 11月末に休止前にレストラン「ペニーレーン」へ行った。張り紙を見て私と同じ症状だと思った。「やっぱりか」という気持ちだった。

 ほとんどの人が柔軟剤を使用していると思う。夫も子どもも柔軟剤を使いたいと言っている。自分はマイノリティーで打ち明けると立場がなくなるのではないかと思う。表には言えない。世の中の人が使用するのは止められない。柔軟剤に有害なものが入っていないか改めて確かめてほしい。

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