山レポート

トムラウシ山の秘境パンケトムラウシ川

トムラウシ山

 8月11日は今年から始まった国民の祝日「山の日」。登山ブームが続き、中高年や"山ガール"と呼ばれる若い女性など、日本の山々は幅広い層でにぎわっている。道内にも、登山道が整備されて気軽に楽しめる山から、数日かけて縦走しなければたどり着けない秘境も多く存在する。十勝毎日新聞社は今回、山の日に合わせ、十勝川の源流をたどる企画を立てた。舞台は大雪山系トムラウシ山(2,141メートル)の秘境パンケトムラウシ川。大樹町在住の登山愛好家望月和親さんをガイド役に、記者とカメラマンが、身をもって感じた山の魅力を伝える。


トムラウシ山。7月27日午前9時ごろ、標高約890メートル付近

トムラウシ山。7月27日午前9時ごろ、標高約890メートル付近

 道をふさぐ倒木を避けながら林道を歩くこと約30分。水が流れる音が聞こえてきた。藪(やぶ)を超えるとスタート地点に出た。穏やかな川の流れにほっとする。ひんやりとした山の空気も心地よい。この奥にはどんな世界が待っているのか。


トムラウシ山。7月27日午前9時半ころ、標高950メートル付近

トムラウシ山。7月27日午前9時半ころ、標高950メートル付近

 最初のなめ滝が現れる。冒険心をかき立てられるような美しさだ。岩盤を這(は)うようによじ登るが、簡単にはいかない。足の踏み場を失い、さっそくドボン。雪解け水だけあって冷たい…。自然を前に非力な自分が悔しい。


トムラウシ山。7月27日午前10時ごろ、標高約980メートル付近

トムラウシ山。7月27日午前10時ごろ、標高約980メートル付近

 突然、巨大な滝が目に飛び込んできた。最大の見どころで難所の一つ「白蝶ノ滝」だ。高さは約5メートル。険しい渓谷に圧倒される。ロープを使いながら左岸を直登する。足を滑らせれば、ごう音の滝つぼへと吸い込まれる。約30分かけて登り切る。


トムラウシ山。7月27日午前10時45分ころ、標高1,030メートル付近

トムラウシ山。7月27日午前10時45分ころ、標高1,030メートル付近

 その後も直登不可の滝が次々と現れる。滝と同じ高さまで斜面を上り、横切って超えるしかない。急斜をよじ登るがすぐに足を滑らす。山肌に無数に生い茂る笹も足に絡みつく。思うように進まないストレスと疲労が襲う。

 
トムラウシ山。7月27日午前11時半ころ、標高1,050メートル付近

トムラウシ山。7月27日午前11時半ころ、標高1,050メートル付近

 途中で降り出した雨の勢いが増してきた。ぬらした荷物はとにかく重い。ザックにロープを結びつけた後、先回りして引き上げる。これも沢の攻略法の一つ。


7月27日正午ころ、標高1,100メートル付近

7月27日正午ころ、標高1,100メートル付近

 数々の難関を超えたと思いきや、追い打ちをかけるような"非情の滝"が現れた。まるで滝が怒り狂ったよう。激しい水流に体ごと持っていかれそうだ。きょうの宿営場所はもう目の前。あと一歩だ。


トムラウシ山。7月28日午前6時ころ、標高1,350メートル付近

トムラウシ山。7月28日午前6時ころ、標高1,350メートル付近

 テントで宿営。ゴーッという水の音で目が覚めた。外を眺めると、前日の川は一変。水かさが増し、濁流へと姿を変えていた。とても遡行(そこう)できそうにない。笹薮をかき分けながら尾根に上がり、上流部を目指す。


トムラウシ山。7月28日10時ごろ、標高1,550メートル付近

トムラウシ山。7月28日10時ごろ、標高1,550メートル付近

 濁流を避けて進んでいくと水の音が止んだ。沢に降りるとそこは銀の世界。だが油断は禁物。所々で雪渓が切れ、すぐ下は激流が渦巻く。雪の硬いルートを選び、雪に足をねじ込みながら慎重に登っていく。


トムラウシ山。7月28日午前10時半ごろ、標高約1,700メートル付近

トムラウシ山。7月28日午前10時半ごろ、標高約1,700メートル付近

 トムラウシ公園近くの高山植物チングルマ、ツガザクラ。かわいらしい姿に心が癒やされる。


トムラウシ山。7月28日10時半ころ、標高750メートル付近

トムラウシ山。7月28日10時半ころ、標高750メートル付近

 ついに沢の源頭部に到着。トムラウシ公園近くにある登山道も見えた。望月さんと握手を交わし、歩みを振り返りながら感慨に浸る。藪をこぎ、崖を這(は)い…。通常ルートでは味わえない自然の奥深さを肌で感じた2日間だった。


(文・安倍諒、写真・塩原真)

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