みんなの好きなパン(3)「『体も心も喜ぶ、有機の小麦づくり音更町 中川農場~toi(トイ)、kanouseipan(加納製パン)」
音更町 中川農場
強い信念から生み出された”モノ“には、人の共感を集める力が宿る。音更町・中川農場の有機小麦もその一つだ。
同農場では、2008年に約55haの農地で有機JAS認定を取得。そのうち20〜25haには一般的な小麦のほか、アレルギー症状が出にくいことで注目される「スペルト小麦」や、数種類を混ぜて植える混播(こんぱ)小麦「ブレドゥポピュラシオン」など、多彩な品種を植えている。
化学肥料や農薬を与える「たし算」の慣行農法とは違い、余計なものを省く「引き算」の手法を用いるのが中川農場の自然農法。健康な苗と土づくりに注力し、農作業の多くを山野の力に頼る。「僕のやり方は昔ながらの方法です」と代表の中川泰一さん。有機農法を「ごく当たり前の姿」と捉えている。
中川さんは農家の三代目。東京のIT企業で勤めた後、Uターンして家業を継いだ。「戻ったからには”本物の食べ物“を作りたいという思いがありました」。理想のスタイルを探るうちに有機農法や、健康志向が高いヨーロッパで親しまれるスペルト小麦へ興味を持つように。食や環境への思いが詰まった中川さんの小麦の評判は、パン屋同士の口コミで広まっていった。今では全国のパン屋と取引があるほか、職人や学生の視察を年間100人ほど受け入れている。
化学肥料を使わなければ収穫量は減り、メジャーな品種の穀物を育てなければ収入は限られる。それでも中川さんは「自分が信じた道で、好きなことをやっている実感がある」と目を輝かせる。環境保全、食の安全、おいしさ。中川農場ではどの要素も自然な形で実現されている。
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中川農場の小麦で作ったパンを提供する店
中川さんの思いに共鳴し、パン作りに励む店があります。
toi(トイ)
十勝の小麦に魅せられた中西宙生(ひろお)さん・貴子さん夫妻が、中川農場の畑の見える場所にパン店を開いたのは2019年の1月。中川農場をはじめとする道産のオーガニック小麦だけを使い、自家製発酵種でじっくり発酵。宙生さんが設計してレンガを積んだ薪窯で焼き上げる。
「t」はつながる、「o」はおいしい、「i」はいただきますという意味を店名に込め、「小麦生産者の思いをパンに乗せて届けたい。パンのある食卓を彩りたい」と2人は声をそろえる。
ブロン(白いパン)、カンパーニュ(茶色いパン)、コンプレ(黒いパン)のほか、軟らかいパンドミなどもあり、個性豊かな品々から好みの味を見つけるのも楽しい。
音更町上然別北6線23-4
Tel:0155・32・9177
営:10時~16時
休:月・火曜
ホームページ
kanouseipan(加納製パン)
加納雄一さんが焼き上げるパンは十勝産小麦と水と塩を原料にした素朴な食事パン。オープンまでにすべてのパンを焼き上げ、接客も1人でこなす。「よい小麦があるからおいしいパンが焼ける。そのことを伝えていきたい」と来店者との会話を楽しむ。
店頭にはリュスティックやバゲットも並ぶが、大半は黒っぽく丸いカンパーニュで、手にするとどっしり重い。クルミやレーズン、大豆など混ぜるものに応じて小麦と3種類の自家
製酵母を使い分けるほか、「パンは日々の糧、毎日食べても飽きないように」と探究心を欠かさない。そうして情熱を注いだパンは香り高く小麦の力を感じるものばかり。食べ手のパワーにもつながっている。
帯広市西15条南12丁目1-48
営:水~土曜10時~17時、日曜7時30分~17時(なくなり次第終了)
休:月・火曜、ほか不定あり
Instagram:kanou_seipan
※フリーマガジン「Chai」2025年5月号より。
※撮影/辰巳勲、平栗玲香。写真の無断転用は禁じます。
みんなの好きなパン
小麦王国・十勝には、全国から注目されるパン屋が数多くそろいます。気になるあの店やこだわりの小麦農家など、心もほっこりするパン情報をお届けします。