十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2025年7月号

特集/夏本番!旨辛メニュー

みんなの好きなパン(3)「『体も心も喜ぶ、有機の小麦づくり音更町 中川農場~toi(トイ)、kanouseipan(加納製パン)」

豊富な知識を周囲へ惜しみなく伝える中川さんは、多くのパン屋から頼られる存在。しかし本人は「楽しいと思うことをやってるだけ」と自然体だ

 農薬などを使わない自然農法で小麦を育てる中川農場。全国のパン屋から引き合いがあるほど好評を博しています。その小麦を使ったパンもぜひ味わってみて。

音更町 中川農場
 強い信念から生み出された”モノ“には、人の共感を集める力が宿る。音更町・中川農場の有機小麦もその一つだ。

 同農場では、2008年に約55haの農地で有機JAS認定を取得。そのうち20〜25haには一般的な小麦のほか、アレルギー症状が出にくいことで注目される「スペルト小麦」や、数種類を混ぜて植える混播(こんぱ)小麦「ブレドゥポピュラシオン」など、多彩な品種を植えている。

 化学肥料や農薬を与える「たし算」の慣行農法とは違い、余計なものを省く「引き算」の手法を用いるのが中川農場の自然農法。健康な苗と土づくりに注力し、農作業の多くを山野の力に頼る。「僕のやり方は昔ながらの方法です」と代表の中川泰一さん。有機農法を「ごく当たり前の姿」と捉えている。

 中川さんは農家の三代目。東京のIT企業で勤めた後、Uターンして家業を継いだ。「戻ったからには”本物の食べ物“を作りたいという思いがありました」。理想のスタイルを探るうちに有機農法や、健康志向が高いヨーロッパで親しまれるスペルト小麦へ興味を持つように。食や環境への思いが詰まった中川さんの小麦の評判は、パン屋同士の口コミで広まっていった。今では全国のパン屋と取引があるほか、職人や学生の視察を年間100人ほど受け入れている。

 化学肥料を使わなければ収穫量は減り、メジャーな品種の穀物を育てなければ収入は限られる。それでも中川さんは「自分が信じた道で、好きなことをやっている実感がある」と目を輝かせる。環境保全、食の安全、おいしさ。中川農場ではどの要素も自然な形で実現されている。

中川農場のスペルト小麦(2024年7月撮影)。同農場では小麦と大豆を育て、その前後に緑肥を挟むという輪作体制を取る

スペルト小麦は丈夫な皮殻を持ち、ミネラルなどの栄養が豊富。ハード系のパンに使用すると香り高く仕上がる


 ◇ ◇ ◇

中川農場の小麦で作ったパンを提供する店
 中川さんの思いに共鳴し、パン作りに励む店があります。

toi(トイ)

貴子さんが製造する自家製コンフィチュールのほか、日本酒やワイン、チーズなども取り扱う


 十勝の小麦に魅せられた中西宙生(ひろお)さん・貴子さん夫妻が、中川農場の畑の見える場所にパン店を開いたのは2019年の1月。中川農場をはじめとする道産のオーガニック小麦だけを使い、自家製発酵種でじっくり発酵。宙生さんが設計してレンガを積んだ薪窯で焼き上げる。

自作の薪窯でパンを焼く宙生さん。「生産者の情熱やパン作りへの思いを発信していきたい」と話す


 「t」はつながる、「o」はおいしい、「i」はいただきますという意味を店名に込め、「小麦生産者の思いをパンに乗せて届けたい。パンのある食卓を彩りたい」と2人は声をそろえる。

 ブロン(白いパン)、カンパーニュ(茶色いパン)、コンプレ(黒いパン)のほか、軟らかいパンドミなどもあり、個性豊かな品々から好みの味を見つけるのも楽しい。

小麦と塩と水だけで作るパンのほか、スコーンやビスコッティ、全粒粉の薪窯クッキーなどの焼き菓子も日替わりで並ぶ

〈スペルト小麦のフォルコンブロート〉980円(ハーフ490円)
ドイツ語で「全粒粉パン」を意味する。全粒粉100%で独特の香りと深い味わいが広がる

〈toiのパン〉ハーフ1,000円(1/4 500円、1/8 250円)
余ったパンをパン粉にして、全粒粉100%の生地に練り込んだ再生パン


音更町上然別北6線23-4
Tel:0155・32・9177
営:10時~16時 
休:月・火曜
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kanouseipan(加納製パン)

香ばしいパンの香りが漂う店内。食べ方や保存方法のアドバイスなど加納さんとの会話も弾む


 加納雄一さんが焼き上げるパンは十勝産小麦と水と塩を原料にした素朴な食事パン。オープンまでにすべてのパンを焼き上げ、接客も1人でこなす。「よい小麦があるからおいしいパンが焼ける。そのことを伝えていきたい」と来店者との会話を楽しむ。

「小麦を育てる農家の力をお借りし、パン屋として成長していきたい」と語る店主の加納さん


 店頭にはリュスティックやバゲットも並ぶが、大半は黒っぽく丸いカンパーニュで、手にするとどっしり重い。クルミやレーズン、大豆など混ぜるものに応じて小麦と3種類の自家
製酵母を使い分けるほか、「パンは日々の糧、毎日食べても飽きないように」と探究心を欠かさない。そうして情熱を注いだパンは香り高く小麦の力を感じるものばかり。食べ手のパワーにもつながっている。

カウンターに並ぶパンは平日で約15種類、週末で約20種類。その日のラインナップはインスタグラムで発信

〈中川さんスペルト小麦全粒粉〉1,400円、ハーフ700円
石臼で自家製粉した全粒粉のカンパーニュ。表皮の香ばしさと噛めば噛むほど口に広がるコクのある風味が特徴

〈ロブロ〉1,300円、ハーフ650円、1/4カット350円
デンマークの国民食と言われているライ麦パン。中川農場のライ麦を100%使用し健康志向のユーザーに喜ばれている


帯広市西15条南12丁目1-48
営:水~土曜10時~17時、日曜7時30分~17時(なくなり次第終了) 
休:月・火曜、ほか不定あり
Instagram:kanou_seipan


※フリーマガジン「Chai」2025年5月号より。
※撮影/辰巳勲、平栗玲香。写真の無断転用は禁じます。