ぼくの新店めぐり~100万円握り日本一周 26歳店主が開いた忠類の森カフェ
移住3週間の開店劇 「忙しいけど楽しい」
店で提供する約10種の飲み物のうち、コーヒーは「三毛猫ブレンド」の1種類。ブラジル、コロンビア、コスタリカの3種の豆をブレンドし、その日の料理や菓子、または気分に合わせた深さで自家焙煎する。「雨の日は中浅煎りの(布フィルターを使った)ネルドリップ。気分が乗らない日は深めになりがちかな」と笑う。
現在、料理は日替わりで、「定番メニューや週替わりで提供したいけど、私の方がまだ追いついていなくて」と苦笑する。4月に占冠村から移住、「(tomono店主で、十勝を離れた)友子さんの旅立ちに間に合わせたい」と急ピッチで準備し、4月15日にプレオープンした。
「すごく忙しいけど、やって良かった。毎日楽しい」
食とコーヒーのペアリング 目指すは長居できる店
日替わりで料理を提供する但馬さんだが、意外にも料理は苦手だという。「苦手だから力を入れすぎて、お菓子が追いつかない」とするも、記者が訪ねた日の菓子は、プリン、アップルパイ、焼き菓子3種盛り合わせの3つのメニューが用意されていた。菓子作りは得意で、「お茶屋さんで働いたこともあるから、煎茶に合うお菓子も作りたい」と意気込む。
大事にしているのは食事と飲み物のペアリングだ。「自分の好みだけれど、コーヒーと和食、特にしょうゆが合うから」と言い、提供する食事は和食が多め。ただ「仕込みが大変なのと、洋食を希望するお客さんも多い」とする。客の要望も踏まえながら、固定メニューを決めていきたい考えだ。
店のコンセプトは開店前から決まっており、「仲の良い友達を自宅に招くような、気軽に入れてゆっくりできる店」。インスタントカメラのチェキやコピー機、ミシンなども貸し出し、長居できる店を目指す。料理やコーヒー焙煎の教室開校も考えている。
真面目な少女、日本一周の旅で“テキトー”に
東京都で生まれ育った但馬さんは、高校在学中に大学進学へのイメージがつかず、「自分を変えたい」との思いもあり日本一周の旅に出た。「100万円もあれば3年は何とかなるだろうと思っていた」と、アルバイトでためた資金を手に旅へ出たが、すぐに底をついた。
旅先でアルバイトをするなどして、約6年かけて47都道府県を踏破。4年ほど前からは北海道を生活の拠点にしていた。北海道に居着いたのは、「強い女性が多くて、輝いて見えたから」。自立した女性像に憧れを感じた。
「旅をしているうちに性格が変わった」と但馬さんは言う。元は学校になじめず、人に気を遣い、真面目に生きる自分自身にも違和感があった。「でも、旅先で出会う旅人は変な人ばかりだったんです」。さまざまな人との出会いで違和感は消え、「良い意味で“テキトー”になれた」と振り返る。
旅を通じてカフェ巡りがひとつの趣味になり、「自分でやりたいと思うようになった」。オープンしてからは“カフェをやっている”ことより“好きなカフェでずっと過ごせる”ことへの満足感を感じている。「だから忙しくても疲れない」
不便を楽しむ森暮らし
店は忠類の町中からも4キロほど離れた林の中にあるが、「車のリースが切れるから、これからは自転車生活」。今は定休日の水曜も仕込みなどに追われているが、店が落ち着いたら庭の手入れなど「田舎暮らし」を楽しみたい考えだ。
人里離れたカフェでの毎日は快適な暮らしではないと言うが、「何も不満はない。不便を楽しんで過ごせるから」とほほえんだ。
日常を忘れられる「森カフェ」で、ほっと一息つきませんか?
<但馬望里(たじま・みのり)>
1997年東京都生まれ。高校卒業後、日本一周の旅へ。北海道内は3か月以上かけて自転車で回った。「自分で(自立して)生きる」ことに魅力を感じる26歳。
<Cafe森の音こ(もりのねこ)>
幕別町忠類東宝93、10時~17時、水曜定休、電話090・6948・9668。店名は「森の音が聞こえそうな場所だから」であり、猫はいない。インスタグラム@cafemorinonekoでメニュー情報など発信している。支払いは現金のみ。