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地域の力で子育てを 広がる「ファミサポ」事業 利用増も、預かり手不足

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 登録した住民が子どもの一時預かりや送迎を行う「帯広ファミリーサポート事業(ファミサポ)」の利用会員が増えている。地域ぐるみで子育てを支援する活動として、2013年のスタートから多くの母親らを支えているが、子どもを預かる側は人数が足りない状況が続いている。関係者は「預かる人も地域の力になれると感じる相互援助活動。子どもが好きで、ちょっとした時間がある人ならだれでもできる」とサポートの輪がさらに広がることを願っている。
(小林祐己、松田亜弓)

◆仕事に、リフレッシュに、気軽に利用可能
 「地域の中で子育てをすることが大切」。事業を行う市内のNPO法人「子どもと文化のひろば ぷれいおん・とかち」(今村江穂理事長)の羽賀陽子事務局長は話す。同NPOは帯広市の委託で、「帯広ファミリーサポートセンター」を運営している。

 公共や民間の育児サービスが充実する一方で、羽賀さんは「地域の中の子育て」の意識は「まだ低い」と感じる。子育てが分からず、「人に迷惑をかけてはいけない」と一人で悩む母親らに「周りに頼ること、いろいろな人の中で育ててもらうことに気づいてほしい」と呼びかける。

 ファミサポは、子育てをサポートしてほしい人(利用会員=父母ら保護者)と、子育てをサポートしたい人(提供会員=地域住民)が共に会員登録する。サポート対象は生後57日~小学6年の子どもで、利用会員は活動報酬として30分300円(平日)を払う。

ファミサポの仕組み(帯広市ホームページより)

 利用形態は一時預かり(宿泊除く)や送迎で、「上の子の発表会の間に下の子を見てほしい」「(親が)美容室に行く間に」など、仕事や冠婚葬祭、買い物、通院、親のリフレッシュと幅広く利用できる。

 利用会員は現在、519人で近年微増している。対する提供会員は139人、利用・提供両方36人が登録しているが、羽賀さんは「実際に動いている提供会員は20人程度。提供側は常に不足している」と話す。地域差も大きく、駅周辺や東、清流など、提供会員の「空白地区」もあるという。

 提供会員は「自宅等で安全に子どもを預かることができる市内在住の20歳以上」が条件。活動前には保育や小児看護の基本を学ぶ講習会があり、同NPOは「子どもが好きならばだれでもできる」とPRする。今年も5月31日~6月10日に全6日、全13項目の講習会を予定している。

この写真はフォトサービスで販売していません。

 保育施設などのサービスと異なり、一般住民がサポートするファミサポ事業。羽賀さんは「預かる側にもメリットがある」と話す。

 「地域の力になるという社会参加意識が高まり、主婦の方が生き生きとしたり、高齢の方がファミサポをきっかけに健康管理や運動を始めたりした例も。預かる自分も地域で生きる中で『助けられている』と感じられる良い制度です」

◆育児の先輩、悩みも共有
 「何かできないか」。小学4年と2年の女の子2人を育てる市内の高谷麻衣さん(38)は、上の子が年長だった4年ほど前、ファミサポの提供会員になった。自身も転勤族で、家庭で子育てをする母親を応援したいという思いがあった。

 2年ほど前から利用会員の佐々木郁佳(あやか)さん(35)の依頼で、娘の美杜(みと)ちゃん(2)を預かっている。佐々木さんが自営業の仕事をしている間、週に3~4回、当初は佐々木さん宅で、今は自宅で面倒を見ている。

高谷さん宅の預かり風景。(左から)見守る佐々木さん、真莉音さん、美杜ちゃん、花琉音さん、高谷さん

 「ファミサポは楽しい。小さい子と関わると自分の子が大きくなったなと感じ、自分自身の喜びにもなる」。長女の真莉音(まりね)さん(9)、次女の花琉音(はるね)さん(7)も積極的に美杜ちゃんの遊び相手になり、今では姉妹のように仲良くなった。

 4人で公園に行くと、娘たちの友だちも「かわいいねー」と集まってくる。「子どもたちも小さい子が大好き。下の子が喜んで世話をするのを見て、こんなに優しくできるんだと発見した。一緒に遊んで子どもたちも成長した」と預かりのメリットを感じている。

 佐々木さんは初めての子育てで、「いまできていることが月齢通りなのか」など発達について悩むこともあったという。子育ての先輩の高谷さんにアドバイスをもらい、「育児の悩みを共有してもらえる安心感がある。地域の人たちにかわいがってもらえ、娘も家での遊びや話す内容が成長した」と喜んでいる。

 預かり中にしたことや子どもの様子は毎回、高谷さんが紙のリポートにまとめて伝えてくれる。「子どものいいところを見つけてもらえたり、自分で気づかないこともたくさんあって勉強になる。(リポートは)後で成長の記録になる」

 初めは預けることに不安もあったという佐々木さんだが、「一歩踏み出すのはドキドキですが、子どもは母一人で育てられるものではない。いろいろな人との関わりの中で育っていく。私も娘もとても良い経験になった」と考えている。

 「お母さんたちは大変なことをやっている自覚がない」。子どもがかわいくても、ずっと1対1でいると苦しくなるときもある。高谷さんは母親らが「我慢の子育て」をしないでほしいと願う。「母親も家で働いたり、起業したり、今はいろいろな働き方がある。(サポートを)上手に利用すれば、自分の夢もあきらめないでいられる」と話す。

 先日は友だち同士でランチにいくというお母さんから赤ちゃんの預かりの依頼があった。「帰ってきたお母さんは『ゆっくりできたから明日からまた頑張る』と言っていた。母親に頼んだら怒られそうだけど、身内だけがすべてではない」。我慢せずに、子育てを楽しんでほしいと願う。

 高谷さんは保育士の資格を持つが、「子どもが好きでやる気があればだれでも提供会員になれる」と話す。「まずはみんなが気軽にファミサポを利用して広まってほしい。預かる側も、子育て経験のある人はたくさんいるので、やってみようという人が増えれば」と期待している。

◆夫婦でサポート、信頼の存在に
 「陽菜(ひな)が3歳の時からお世話になってて。おじいちゃん、おばあちゃんがもう一人いるような感じ」

 帯広市内の今川晃貴子さん(36)は、長女陽菜さん(8)と長男颯人ちゃん(1歳2カ月)を週2日ほどファミサポを利用している。2人を主に預かるのは夫婦で提供会員に登録する佐々木裕さん(68)と和栄さん(64)だ。

 4月1日に佐々木さん宅へ伺うと、子どもたちの明るい声が聞こえてきた。和栄さんが颯人ちゃんを抱っこし、裕さん、陽菜さんと4人でボール遊びを楽しむ。颯人ちゃんがボールを小さな腕を振って投げると、全員に笑顔がこぼれた。

ボール遊びをして楽しむ(左から)陽菜さん、和栄さん、颯人ちゃん、裕さん(塩原真撮影)

 今川さんは5年前からファミサポの利用を始めた。佐々木さんとの「初めまして」は陽菜さんが2歳の頃だったが、大泣きしたことから一度は断念。一年が経ち、改めて顔合わせしたところ大丈夫そうな様子だったことから預けるようになった。

 この日は午前10時から午後2時まで依頼。預ける理由は仕事やリフレッシュのため。特にコロナ禍で昨年は子どもたちと家にいることが多かったため、少しの時間でもストレス解消につながったという。「この前は陽菜が夢で『おじいちゃん(裕さん)が出てきた』って言って」と晃貴子さん。晃貴子さんも子育ての悩みを相談する時もあり、子どもたちにも晃貴子さんにとっても信頼できる存在だ。

 佐々木さん夫妻は裕さんが高校教諭だったことから、転勤族で道内を転々としていた。退職後は帯広に戻り、ファミサポを受託するぷれいおん・とかちの会員に友人がいた和栄さんが2014年に提供会員に登録。その翌年、裕さんも同様に登録した。

 「帯広に来て何をしようか考えていた」という和栄さん。自宅に近い帯広明和小の放課後児童クラブも手伝っているが、片耳が聞こえづらいため、複数の子どもを相手にすることが難しいことも。ファミサポは基本的に1対1のため、「本当に登録して良かった」と自らに合った支援ができると喜ぶ。

 利用者は1ヶ月に一度ほどだったり、今川さんのように継続して利用する人だったりさまざま。活動の中で子どもたちから元気をもらい、「地域とのつながりもできた」と話す。

 裕さんは主に塾や習い事の送迎を担当することが多い。いまも市内の高校で授業を持ち、地域の子に算数を教えることも。「普段は高校生相手だけど、ファミサポは赤ちゃんや小学生。小さい子の純粋さは接してて気持ちがいいし、高校生とはまた違う感じがする」とやりがいを感じている。

◆5、6月に提供会員講習会=終了 
 今年度の第1回提供会員講習会が5月31日~6月10日に開かれる。

 遊びや子どもの世話、小児看護の基礎知識、軽食づくり(実習)など13項目。対象は市内在住の20歳以上の人。参加無料、託児無料(定員あり)。会場は帯広ファミリーサポートセンター(ぷれいおん・とかち内、西20南5)など。

 保育士や保健師などの有資格者は一部講習が免除になる。問い合わせ、申し込みは同センター(0155・66・4285)へ。

 詳しくは帯広ファミリーサポートセンターHPへ。

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