常勝を義務づけられた希代の名騎手~鈴木恵介~
2008年度から2019年度まで12年連続でリーディング1位(年間の勝利数が最も多い)を記録した第一人者。「ばんえい十勝」を支えるトップジョッキーの鈴木は、円熟期を迎えた今もさらに進化を目指している。
輝かしい成績が示す通り、これまでコンビを組んだ競走馬はビッグネームがズラリ。近年では最高峰の戦い「ばんえい記念」を3度制したオレノココロをはじめニシキダイジン、ナリタボブサップなどの種牡馬入りを果たした名馬や、現役でもセンゴクエース、ミスタカシマ、そして次代を担うスター候補の若駒キングフェスタなど、数えたらキリがないほど毎年多くの有力馬陣営からの騎乗依頼が舞い込む。
今季は開幕から約2カ月間の騎乗自粛期間があったにもかかわらず、すでに90勝をマーク。リーディングはトップ射程圏の4位につけている(12月21日現在)。
鈴木がここまでの好成績が収められるようになったのは、決して “馬運”に恵まれていたからではない。「なかなか勝てなくなっていた時期にどうしたら勝てるのかと考えて、競馬場にいるすべての馬のクセや能力を勉強した」。レースの展開を瞬時に判断し、馬のポテンシャルを最大限に引き出す現在の騎乗スタイルは、鈴木自身の人一倍、研究熱心な面が実ったからだ。
1998年1月に旧姓の水嶋恵介としてデビューした鈴木は、新人の特典である負担重量10キロ減があった2年目までは28勝、38勝と順調に勝ち星を伸ばした。だが、特典がなくなった3年目に入ると騎乗数、勝利数も激減。どんな騎手でも必ず直面する“壁”にブチ当たった。
当時はのちに義父となる鈴木勝堤(故人)や、ミスターばんえいと呼ばれた金山明彦、坂本東一、大河原和雄、久田守、西弘美(いずれも現調教師)ら通算2000勝以上を挙げた百戦錬磨のスター騎手たちがしのぎを削りあっていた時代。そんな猛者ら相手に若手だった鈴木が立ち向かうには、努力と頭脳で勝負するしかなかったのだ。
「それこそ、VHSが擦り切れるほど見た」と笑う鈴木は、開催がない日に暇を見つけてはテレビ画面の前に陣取り、ビデオデッキを回し続けた。自身が騎乗していないレースも含めてすべてのレースを何度も何度も見返す日々。すると、少しずつであるがレースでライバルとなる馬たちがどんな動きをするのか見えてくるようになり、そして自身の騎乗馬についても「ポジショニングや、脚の使いどころが分かるようになってきた」という。
その努力が少しずつ実を結び始めたのが7年目の2004年度だった。この年の鈴木は初めて年間騎乗500回を突破。勝利数も初めて50勝を超えた(58勝)。その4年後の2008年度に172勝をマークしてついに悲願のリーディング1位。そこから12年間、王座を誰にも譲らず、その間、数々の重賞タイトルを手にした。
その後の活躍は周知の通り。2021年11月29日には現役通算3人目、ばんえい史上最速となるデビュー23年10カ月で3000勝を達成。年末年始には「第50回ばんえいダービー」「第44回帯広記念」などBG1競走が目白押しだが、もちろん各レースとも勝てる可能性が高い人気が予想される馬たちとコンビを組む。
複数の有力馬からの騎乗依頼がバッティングすることも多々あり、鈴木は「断るのがもう大変。お世話になった馬主さんや調教師の先生への義理もあるし」と苦笑いする。それでも「一度上まで行ったら下がるわけにはいかない。騎乗馬も含めて、最も勝てる方法を選択したい」とスタンスを崩すつもりはない。
昨季の2020年シーズンは阿部武臣に34勝差をつけられてリーディング2位に終わった。「タケ(阿部騎手)は、(オープン馬がたくさんいる所属の)坂本きゅう舎の馬を自分で仕上げて、自分で乗れるけれど、ボクは結果で勝負するしかない」と同期のライバルは常に意識する存在だが、もちろん2位で満足などできるはずはない。今シーズンも残り3カ月。常勝を義務づけられたスター騎手は、得意とする終盤の猛チャージで王座奪回を狙う。
<鈴木恵介(すずき・けいすけ)>
1976年10月7日、北海道森町出身の45歳。服部義幸きゅう舎所属。道立森高を卒業後、きゅう務員を経て1998年1月に騎手デビュー。通算3005勝(12月21日現在)。主なBG1タイトルは、ばんえい記念(12年ニシキダイジン、17、18、20年オレノココロ)、ばんえいダービー(15年センゴクエース)など。