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珍しい九州産馬も出走 ばんえい十勝が22日開幕

松岡 秀宜

十勝毎日新聞社 編集局社会部

 22日に開幕する今年度の「ばんえい十勝」に、珍しい九州産馬が競走馬登録されている。出走馬の大半が北海道産馬だが、2頭は熊本生まれ。重種馬の一つで、ばんえい競馬を支える「日本輓(ばん)系種」の生産頭数は、生産者の高齢化や後継者不足の影響も受け、減り続けている。地方競馬全国協会(NAR)では今年度から、道外生産者対象の奨励金制度も設けるなど、道外産馬の確保に向けた取り組みも進めている。

栗駁毛の容姿も目立つクマモトイケメン=ばんえい十勝提供

熊本生まれの「クマモトイケメン」と「クマモトヨカバイ」
 九州産馬2頭は、クマモトイケメン(牡3、西弘厩舎)と、クマモトヨカバイ(牡3、西弘厩舎)。能力を見込まれた2頭はいずれも昨年8月にデビューし、すでに2勝を上げるなど、今年はさらなる飛躍も期待されている。

 クマモトイケメンは名前の通り「イケメン」だ。栗色の体に大きな白斑がある「栗駁(くりぶち)毛」に分類され、ツートンカラーの容姿も目立つ“グッドルッキングホース”は、女性ファンの人気も高い。性格は「素直」(西弘調教師)だ。一方、クマモトヨカバイは青毛らしい堂々とした馬体。表情はりりしく、力強く感じる風貌で「ちょっとクセがある」(同)の性格だ。

 同郷で同厩舎の2頭は、2戦目にそろって初勝利を挙げ、現在は2勝と成績は酷似する。昨年11月8日は同じレースに出走し、ヨカバイが2着、イケメンは3着。そろって上位に食い込んだ。

 2頭について、西調教師は「馬は未完成で、これから、どのように変わっていくか」と話す。「心肺機能など、まだ足りないなというところもある。完成するのは四歳くらい」と長い目で見守る。

 生産者であり、馬主・古閑牧場(熊本県)の古閑清和社長は「2頭の父母とも、うちで生まれた馬。2頭とも、強い馬ではないかもしれないが、もうちょっと身体ができれば…という楽しみはある」。熊本を代表して、ばんえい競馬で頑張る2頭は、切磋琢磨(せっさたくま)しながら、さらなる高みを目指して、ゆっくりと歩み続けている。

誕生時から優勝劣敗
 ばんえい十勝によると、現役登録(3歳以上)607頭の大半は、北海道生まれで、本州の生産馬は、わずか7頭にとどまる。内訳は青森3頭、岩手2頭、そして熊本は、クマモトイケメンとクマモトヨカバイの2頭のみだ。

 厩舎関係者によると、かつては「馬力」と呼ばれる草ばん馬が盛んだった青森や岩手では、生産者が“自信作”を北海道に連れ出して、能力検査(能検)も合格。ばんえい競走馬になりえた素材もいた。ただ、現在は、東北からの登録自体も少なくなっている。

 ばんえい競走馬用に生産される日本輓系種。前年度、国内で血統登録された日本輓系種は967頭。牧場関係者によると、1年間に生産される馬のうち、ばんえい競走馬を目指す馬は「1割半ばから2割程度」。残りは当歳(生まれた年)の秋市場や1歳馬市場で肥育業者向けに出荷されるか、繁殖牝馬になるために飼育されるときもある。

ばんえい競馬の世界は優勝劣敗。能力検査合格への門も、決して広くはない(4月17日)

 資質が認められて競走馬を目指す形となった馬は、牧場や競馬場で馴致・育成され、能検(2022年度は10回開催予定)を目指す。能検では本番と同じようにレースが行われ、基準タイムに達すると合格し、晴れて競走馬デビューを果たす。

 しかし、能検に合格しなかった馬は、肥育業者向けに出荷されたり、繁殖用や草ばん馬用などに用途が変更される。日本輓系種は、生まれたときから、2歳の能検まで、常にふるいにかけられ、最終的に残った馬だけが競走馬となる。

競走馬デビューを目指す若駒の登竜門となる能力試験(4月17日)

 ばんえい十勝によると、21年の能検には計370頭が挑戦し、281頭が合格。合格率75・9%は、かつてよりは高くはなったものの、その門は決して広くはない。晴れて競走馬デビューをしても、そこは優勝劣敗の世界。長い間、現役として活躍できる馬はわずか。「競走馬としての実力がない」と判断されると、その使命を静かに終える。

 クマモトヨカバイとクマモトイケメンは能検を通過し、すでに2勝を挙げた。「レースに勝ってくれれば、九州の馬産地やファンからの人気も出る」(西調教師)2頭。今季緒戦はクマモトヨカバイが23日の第1レースを、クマモトイケメンは26日の第1レースを予定。「ランクはまだ下の馬。少しずつ着実に上を目指せれば」(同)。再び勝負の世界に臨む。

生産頭数減少
 ばんえい競走馬の約9割は道内産。十勝、釧路、根室各管内などをはじめ、道内各所に生産牧場が点在する。また、家族経営の牧場が大多数を占め、農耕馬として働いていた時代から、馬に関わってきた人がほとんどだ。帯広競馬場のお膝元となる十勝で生産されるのは、道内産のうち約4割で、多くの名馬も誕生している。

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 しかし、近年は、生産者の高齢化や後継者不足で、生産牧場自体が減少。これは十勝でも同じだ。十勝農協連によると、十勝の輓系馬飼育戸数は02年には349戸あったが、21年は87戸。20年で四分の一となった。

 一方、日本馬事協会によると、日本輓系種の血統登録数は21年が967頭と、20年前(02年、2932頭)と比べると7割も減少。生産農家の減少に比例して、減少の一途をたどっている。

 地方競馬の公正で円滑な実施の推進とともに、畜産振興に関する補助事業にも取り組むNARでも、こうした状況を危惧。本年度から、道外生産馬がばんえい競馬の能力試験に合格した場合、その母馬の飼養者に最大20万円を上乗せする「優良種牝馬改良促進奨励」を始めた。

 重種馬の生産頭数が減る中、ばんえい競馬の資源の確保が必要との観点から、道外産の生産者に対する奨励金を加増。道外の生産者にも、ばんえい競走馬づくりへの積極的な参加を促している。同協会では「馬資源の確保によって、魅力ある競馬につながれば」と期待する。

阿蘇からも「ばんえい」で活躍できる馬を
 古閑牧場は、熊本で食肉用の馬を生産・肥育する。「私が競りで買うと、生産者は『えっ…』と言葉に詰まるときもある」と話す古閑社長は現在、サクラジョージ(牡5、金田厩舎)など、北海道産の現役馬も数頭所有する。

 クマモトイケメンとクマモトヨカバイは、「血統は決して良くない。幼駒のころから、能力的に目立っていたわけでもない」(古閑社長)。しかし、その自家生産馬が一定の能力を認められ、ばんえい競馬の舞台で闘う姿に「毎年、ばんえいに走らせる馬を出したいね」と静かに話す。

 すでに古閑牧場では、カネサブラック(ばんえい記念など重賞21勝)など、「ばんえい競馬歴戦の雄」の子孫に当たる種馬や繁殖牝馬を導入。さらに、第2牧場の造成も計画しており「坂道コースなどがある、ばんえい用の育成場を作りたい」とする。

 古閑社長には「若い時に言われた、北海道の生産者の言葉」が今も残っているという。「私たちは、熊本(食肉)向けに馬を作っているわけではない。ばんえい競馬用の馬を作っている」。今はその言葉の重みも感じながら、「阿蘇という広大な原野の中で、ばんえいでも活躍できる足腰の強い馬ができる。『そんな夢を持て』と、阿蘇の若い牧場関係者には言っている」と笑う。

 ◇ ◇ ◇

 もともとは農耕や運搬の担い手として、需要が高かった重種馬たちの「力自慢比べ」を起源とするばんえい競馬。時代の変遷に合わせて、生産者は「レースでより強い馬」を求めて、品種改良を重ねてきた。

 廃止の危機を免れ、帯広市単独開催となってから、今季で15年目を迎える。その屋台骨を支える競走馬の確保。ばんえい競馬の魅力を後世に伝えるため、道内だけでなく、道外産馬の積極的な参加も視野に入れた新たな取り組みが、静かに始まっている。(松岡秀宜)

【血統登録】
 生まれた子馬について、母馬に種付けをした父馬を確認した上で品種や血統を登録し、毛色や特徴を記録すること。人間の戸籍に当たる。

【日本輓系種】
 北海道の開拓に尽力したペルシュロン、ブルトン、ベルジアンなどの交雑種。種馬の多くは、実際にばんえい競馬で活躍した馬たちで、「より重い荷物を引く能力を持つ」ことに特化して品種改良された。2003年、両親のいずれかが半血種または輓系種であれば日本輓系種とする定義が成立した。

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