寒さ本番、おうち充実(1)「職人に聞く 家具作りに込めた思い~ki-kiru」
職人に聞く 家具作りに込めた思い
熟練の職人の手にかかれば素材が美しい作品へと生まれ変わる。十勝で活動する2人の職人に家具製作への思いを聞きました。
木の表情を生かした唯一無二の作品
「木が割れていたり、虫食いだったり。それも木の個性だから。木の味を生かしたい」と話すのは「ki‐kiru」の斗沢誠さん。作品の約8割が広尾産の木材を使用し、テーブルやイス、お玉など家具から実用品までさまざまな作品を手掛ける。定番商品の〈くるみのカッティングボード〉は丸太買いした一本の木から切り出し、一枚一枚丁寧に削って形を作る。作品によっては彫刻刀で荒く削ったり、等間隔に削るデザインも。「川の流れや高くそびえる山々など広尾の風景を表したい」と斗沢さんの個性が光る。
工房には妻よしのさんが作る野花や落ち葉を模倣した繊細な作りのアクセサリーや滑らかな曲線と優しい手触りのカトラリーなどの作品も並ぶ。
印刷業から木工作家へ 大きな挑戦
帯広出身の斗沢さんは帯広農業高校林業科の卒業生。今でこそ木に関わる仕事をしているが、当時は林業に興味はなかった。自宅に近いからと選んだ進路だった。
それから約30年、印刷業に携わった。ずっと均一な品質を求められる仕事に違和感を持ちつつ、2011年に義母に作った化粧台が転機となった。それまで趣味で日曜大工を行うことはあったが、よりレベルの高いものを目指して木組みの家具にも挑戦するように。「自分が作ったもので喜んでくれる人がいる。追求したい」と木工の道に進むことを決めた。
木の加工、家具の組み立てなどは動画を見ながら独学で身につけた。本格的に家具製作を始めるため、大樹の木工サークル「くるみの会」に毎日通って腕を磨いた。「学校や職人の元で修業するより自分でやり方を考えるから自由な発想で作れる。それでよかったと思う」と斗沢さんは話す。
ある日、広尾で働く妻よしのさんの元に向かう道中で、ポツンとたたずむ一軒家が目に入った。眼下に広がる雄大な山々、夕日の鮮やかさに目を奪われた。「ここで家具作りをしたい」と2014年に現在の地で工房を立ち上げた。「情熱をもって取り組めばできないことはない。自分ならできる」と自分を奮い立たせると同時に、妻を安心させたいという思いも重なった。木工作品の制作をするかたわら、長年の経験を生かして印刷機械の修理もして生活を支えた。
設立時は工房に訪れる人はいなかったが、2017年に帯広市内で開いた個展がきっかけに町内外から訪れるように。現在は木工作品だけで生計を立てられるようになったが、それもここ2年くらい。「苦労も多かったが、自分の生活がかかっていると思うと頑張れる」と話す斗沢さんの目は真剣な眼差しだった。
納得のいく作品作りを目指して
斗沢さんに休みなどはない。「後悔したくないから」と時間を決めず作業にかかる。それが夜中の2時だろうが3時だろうが関係ない。
「作りたいものを作り続けたい。定番のカッティングボードなど実用性や作業の効率を考えて作ってしまいがち。でも、一つ一つ丁寧に刃物で彫って仕上げていく個人の作品も力を入れたい」と意気込む。
森を育てる、伐採して運搬する、製材すると使う木材にはそれぞれの職人の思いが込められている。だからこそ一つとして無駄にしたくない。作品のためにこの木を使うではなく、出合った木を見てどの作品なら木を生かせるか考える。
斗沢さんが作る無垢(むく)な木工の家具とよしのさんが作る繊細な木のアクセサリーやカトラリー。夫婦2人それぞれの個性を生かし作り上げる大小さまざまな木工作品を見ていると次はどんな作品に出合えるのか楽しみになる。
<ki-kiru きーきる>
広尾町野塚6線
Tel:090・1527・2170
営:9時~19時 ※訪問の際には要連絡
休:不定休
※フリーマガジン「Chai」2023年2月号より。
撮影協力:グランピングリゾート フェーリエンドルフ
※撮影/辻博希。写真の無断転用は禁じます。
寒さ本番 おうち充実
2月は寒さ本番。厳しい寒さから、ついつい家にいる時間が多くなります。毎日過ごす部屋なら、たまには気分転換に模様替えをするのもいいかも。せっかくインテリアを変えるのなら自分のお気に入りを見つけて、快適な空間を作りませんか。