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課題見える化で民間の力引き出す スポーツ庁検討委石塚氏~新時代の部活2部(3)

大海 雪乃

十勝毎日新聞社 編集局 コンテンツグループ

 学校部活動の地域移行に向けて、スポーツ庁と文化庁は全国の自治体と実証事業を進めている。埼玉県白岡市をはじめ、全国40以上の自治体で地域移行の伴走型支援を行っているスポーツデータバンク(東京)社長で、スポーツ庁の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」委員を務めた石塚大輔氏(41)に、制度設計のポイントや民間活力導入の事例を聞いた。(大海雪乃)

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◆生徒・指導者の実態数値化
 地域移行には大きく分けて「人材」「財源」「管理」の三つの要素がある。人材は指導者の育成や保障、財源は資金調達の仕組みや手段、管理は生徒の個人情報、出欠の管理などのクラブ運営管理、安全・安心な指導などの安全管理、学校の体育施設などの施設管理で、これら三つをクリアするための制度設計が求められている。

 制度設計には、まず各部活の実態がどうなっているかの現状分析が必要。教員からはそもそも指導したいのか、指導するならどのくらいのレベルで教えられるのかなどを聞き、ノウハウや知見は生かすべき。教員が教育的観点から指導してきたことと、地域指導者が持つ専門的知見を融合すれば地域にとってプラスになる。
 
 子どもからは、練習日数や求めるレベル、種目などのニーズを聞けると地域の課題が見える化できる。団体向けや地域の指導者向けの調査も行い、同じ市町村の中でも、エリアごとの人口推移と部活動の数を一緒に考えると、今の部活の数を維持すべきか、拠点的にやるのがいいかが見えてくる。よく人がいないとか、お金がないと聞くが、具体的な手法のイメージが膨らんでいないことが多いので、数値的に把握し、分析することがスタートだ。

自治体と民間企業をつなぐ役割を担うスポーツデータバンクの石塚社長


◆人材バンクで指導者管理
 人材は派遣型モデルではなく、地域の中にいる指導者にどうしたら中学生の指導を担ってもらえるかを考え、いなければ育成・募集も含めて行う。地域によっては総合型地域スポーツクラブの人やフリーランスのスポーツ指導者、スポーツ協会を含めた地域の団体と連携する事例もあれば、プロスポーツチームや企業チーム、大学などが関わって管理の仕組みをつくっている。

 部活動にある競技を網羅して運営できる組織は全国にもほぼないので、地域の指導者が登録し、一元管理のベースとなる人材バンクを作らなければならない。スポーツデータバンクでも最初の段階で相談して制度を作り、研修や管理の仕組みを落とし込んで設計している。地域指導者の中にも管理する経験やコーディネーターの要素を持つ人もいるので、一緒に設計し、情報共有して進めている。学校とつなぐ上での課題として、現状アナログで管理されていることが多いので、現在の指導を見える化するためにICT・DXの活用も大切になる。

◆企業版ふるさと納税、応援基金で財源確保
 財源の部分では、スポーツ庁が予算を付けて、実証できる地域には積極的に支援していく体制があるので、これを使ってベースとなる仕組みを構築するといい。ただステップ2では自走化、ステップ3では持続可能な運営が求められる。そうなるとスポーツ庁の予算だけを頼りにするのは限界がある。自治体も教育委員会だけでは難しく、首長部局との共通認識を持つ必要があるので、勉強会を開いて地域移行の背景の理解や、どのように環境を整備し、どういうゴール設定をしているのかなどの現在地の整理が大切。

 沖縄県うるま市では、財源確保に向けて企業版ふるさと納税制度を活用して、2021年度には1500万円を集めた。ただ制度は地域外に所在している企業が対象となるため、地元企業との連携モデルでは、「部活動応援基金」を作った。商工会や観光協会など地域の産業を束ねている組織と連携して、課題感を共有した上で基金化した。 

 地域によっては中学、高校卒業後に人口流出してしまうケースがあるので、1企業・団体あたり大きな金額ではなくても、地域企業を中学生のうちに知ってもらえるメリットがある。「自分が中学校の部活をできたのは、あのお店があったからだよね」などとまちを理解して、「シビックプライド」(地域に対する誇り、愛着)を高めるような関係性を構築できるとすごくいい。自治体はどのように企業側のメリットを出していくかが次の課題となる。

 また寄付やCSR(企業の社会的責任)ではなく、企業が持つリソースを地域の課題に当ててもらうことによって、ウィンウィンの関係が作れる。うるま市は、地域移行を進める中で、指導者の研修制度や認証制度に課題にあった。そこで全国の保険プランナーに一斉に研修を行うeラーニングの仕組みがある三井住友海上と連携して、地域指導者が自然災害や救急時の対応などを学ぶ研修制度に活用している。

◆学校施設の利用拡充
 管理については、学校の体育館含め体育施設管理で鍵の受け渡しや施設の予約にも大きく課題があり、これをクリアしないと教員の関わりが減らないのでスマートロックの設置や予約管理システムも導入した。学校体育施設を資源として考えたとき、今までは体育の授業や部活動でしか使われていなかったものを地域クラブが使うことによって、利用者が拡充される。
 
 社会体育施設の老朽化で維持管理が課題となる中、学校体育施設にも指定管理制度を導入していくともっと住民が使いやすくなり、地域のスポーツ環境が広がっていくと思う。この地域移行を契機に、“スポーツによるまちづくり”を進め、まちの未来像を描けるのであればすごく意味がある。

十勝管内にある中学校の体育館(イメージ)


◆市町村の連携模索を 
 地域移行はまだ市町村単位でしか進められてないことが課題。市町村間の連携型はぜひ北海道が先進的にやるべき。地域が広く、移動手段などの課題も多くあり、1市町村で移動手段の検討や財源の確保するにはおそらく限界がある。だからこそ課題をオープン化して北海道、十勝でモデルを作れると、全国でも活用できる。

<いしづか・だいすけ>
 1981年神奈川県生まれ。2003年、スポーツデータバンク創業メンバーとして参画し、15年に社長就任。同年、台湾に現地法人を設立。16年にスポーツデータバンク沖縄を設立し、国内外でスポーツ・ヘルスケア事業領域における地域課題解決型事業を展開。学校部活動の地域移行を契機とした新たな地域スポーツの環境整備にかかる事業設計、多産業との連携によるスポーツを通じたまちづくりに取り組む。沖縄スポーツ関連産業協会代表理事。

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