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指導者ビジネスの可能性 資金調達へクラファン募る~新時代の部活2部(2)

大海 雪乃

十勝毎日新聞社 編集局 コンテンツグループ

 休日部活動の地域移行を進める埼玉県白岡市の南中学校で陸上部の指導を引き受けた、東京都内で整骨院運営やパーソナルトレーニング指導などを手掛ける「レリューム」代表の柿沼俊平さん(37)は「今後、コーチ業を取り入れたいと考えており、社員らに先行して自分が引き受け、仕事の場を広げていきたいと思った」と話す。

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南中陸上部で部員にトレーニングのコツを教える柿沼さん


 指導を始めたのは昨年の秋。市が地域移行の管理・運営業務を委託するスポーツデータバンク(東京)を通して依頼を受けた。柿沼さんは中学から社会人まで砲丸投げや短距離種目で活躍し、スポーツトレーナーとして約20年の経験を持つ。指導は月2回程度で1回3時間、場所は中学校のグラウンドの一角を使う。平日は走るトレーニングが多いと聞いているため、柿沼さんが入る時は負荷を減らし、体をうまく使うことを重視したメニューを組む。

 部員は3年生が引退し、1、2年生の男女13人。体幹を鍛え、股関節を動かしやすくするため、2キロのボールを持ってハードルをまたぐトレーニングでは、「目線は正面から上ね」「うまくバランスを取って」などと穏やかな口調で声を掛ける。生徒らも集中してメニューをこなし、待ち時間には仲間と会話するなど楽しそうだ。本業を生かし、練習後にはストレッチを伝授。生徒らは家でも実践するなど好評で、柿沼さんは「この年代には、ライフスタイルの中に運動があることを大切にしてもらいたいと考えている。高校でも競技を続ける足がかりになれば」と話す。

練習で使った筋肉を伸ばすストレッチを教える柿沼さん


◆休日は楽しさ意識
 菁莪(せいが)中ソフトテニス部で休日の指導に当たるのは、県内でテニススクールを展開する「彩テニススクール」のヘッドコーチ野口尚吾さん(35)。これまでも技術向上を目指す学校に依頼を受けて指導に出向くこともあり、地域移行は「テニスを好きになり、競技人口が増えてほしい」という思いから引き受けた。1、2年生の男女17人の部員を同スクールのもう一人のコーチと交代で指導する。

菁莪中ソフトテニス部で練習メニューを説明する野口さん(写真中央、黄緑色のTシャツ)


 スクールでは県大会出場など高い目標を掲げている一方、部活は成績の目標は掲げていない。2年生の野本翔太部長(14)は中学校からソフトテニスを始め、「大会は少ないので成績の目標というよりは、仲間と楽しく練習したい」と話す。同じ考えの生徒も多いことから、基礎的な練習を中心にしながらも、飽きさせないようにメニューを構成。野口さんは「礼儀や気配りなどについては声を掛けるが、プレーについてはガツガツ言わないようにしている。楽しく続けてもらいたい」と話す。 

 3人いる顧問はテニス経験がないため、野口さんが平日の練習メニューも考えて、生徒に伝えている。ある女子部員は「顧問とコーチの教えが違うこともあるが、自分に合ったやり方を考えている」と話す。市教委の小林大輔参事は「子どもは柔軟性があり、大人が考えるほど戸惑っていない。逆に複数の指導者から教えてもらえることを前向きに捉えている」と話す。

サーブの打ち方を教える野口さん


 ソフトテニス部の顧問3人は、全員が休日部活動の移行に賛成しており、「プライベートの時間が増えた」と歓迎。それぞれ休日は趣味や授業の準備をして過ごしているという。コーチは技術面の指導をし、顧問は人間関係や規律など技術以外も見るという、それぞれの役割を認識しているが、ある顧問は「厳しさがない分、なんとなく生徒の気持ちが抜けてきたように感じる」と漏らす。他にも地域移行において、「技術だけでなく、苦しさ、耐える、続けるなどの気持ちが弱くなって、部活というより遊びに近くなってしまうことが心配」と課題も挙げた。

 指導者への謝金は時給2000円で、両指導者とも実証的な取り組みとして金額に納得している。会社の事業として部活動指導を検討する柿沼さんは「コーチとして子どもに教えたいというニーズはあるので、事業として成り立つと思う」と語る。一方で「謝金が上がらなければコーチの質は上がらない」と指摘する。

◆クラウドファンディングで50万円
 昨年度、2校の地域移行に関する事業費は1000万円程度で、主に指導者への謝金や交通費、保険料などに充てた。市では資金調達のため、クラウドファンディングを実施したが、目標の300万円に対し、集まったのは約50万円にとどまり、小林参事は「企業のスポンサー契約などお金を生み出す工夫が必要」と今後の検討課題を述べる。

 今年度も引き続きモデル地域として国からの補助金があるが、持続的な運営をする上で財源の確保は欠かせないため、これまで行っていなかった受益者負担も今年度中に始める。負担額は月額1500円に設定し、初年度は半額を市が助成する方向だ。金額は、スポーツ庁と文化庁が地域移行に合わせて困窮家庭へ定額支給する年間2万2000円を参考にし、保護者に行ったアンケートで「月1000~1500円」が妥当と考えている割合が最も高かったことも考慮した。

 現在は地域指導者が担っているが、休日の指導を続けたい教員もいることから、11月から教員の兼業兼職も可能にする。地域移行の先進地として国会議員や自治体職員の視察が舞い込むが、制度づくりは道半ば。小林参事は「ちょっと進んでは壁があって、その壁を乗り越えたらまた次の壁がある」と語る。

休日部活動の地域移行に取り組む白岡市役所


◆民間協力の仕組みを
 十勝の自治体でも指導者の確保が課題となる中、民間でスポーツ・文化芸術活動に携わっている事業者の協力が鍵となる。地元出身選手やスポーツチームが子ども向けに体験教室を開催するなどの取り組みが、部活動においても専門的な指導や多様な種目を体験する機会の確保につながる可能性もある。部活動指導をボランティアで行うことは継続性や責任性などの観点から難しく、地域移行に向けて指導者の管理や学校と調整する仕組みの確立が欠かせない。(大海雪乃)

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