ぼくの新店めぐり~十勝開拓をイタリアが? 「もしも」の味を届ける店「バッサ オステリア」
開拓の始めは豚とひとつ鍋
「十勝開拓時にイタリア人も入植していたら、現代でどのような料理をしているか」をコンセプトに、十勝中心の食材を使ったイタリアンを提供する。「良い炭火の香りが出るから」と、ランチタイムの「中札内田舎どりの炭火焼き」やディナーの「十勝牛ランプ肉の炭火焼き」には浦幌の木炭を使うなど細部にまでこだわる。「十勝産中心だが十勝だけにとらわれず、おいしさで選んでいる」と言い、魚介は自らがおいしいと感じる厚岸産を仕入れる。
コンセプトにしたがって十勝の歴史をメニューに取り入れ、アイナメで作った郷土料理「ルイベ」や十勝開拓に尽力した晩成社の依田勉三の言葉「開拓の始めは豚とひとつ鍋」をイメージした豚肉料理を提供することもある。
メニューはランチ2000円、ディナー5000円からのコース主体だが、単品でパスタ(1400円)も提供する。飲み物はイタリアワイン(グラス700円~、ボトル3500円~)、イタリアの「モレッティビール」(700円)などイタリア産中心だが、近く国産ワインも用意する。
学びを通して「好き」に変わった料理
千葉県柏市で生まれ育ち、高校卒業後は東京都内の調理師専門学校に進んだ。「料理が好きだったわけじゃないが、学費を払えるのが専門学校だった」と言い、学費と生活費は奨学金に加え飲食店を中心に四つのアルバイトを掛け持ちしてまかなった。
それでも自信はあった。「手先が器用で何でもうまくできる方だった」。しかし料理は小手先の技では通用せず、魚をさばく技術や微妙な味付けの変化など場数を踏まないと上達できないことが多かった。「逆に練習すればするほど成長を実感できるのが面白かった」
専門学校では技術的な指導の他、マーケティング方法など経営スキルも学び「自分の店を持ちたい」という気持ちが芽生えていった。
「北海道」のイメージにぴったりの十勝で
専門学校を卒業後はアルバイトしていた都内のレストランでそのまま働き、アルバイト期間と合わせて3年勤めた後、道内の食堂などで2年半腕を磨いた。
北海道に来てからは休みを使い、店を構える場所を探した。「おいしい食材が手に入る場所にこだわった」と言い、東京に戻るつもりはなく、あくまで食材が豊富な北海道にこだわった。当初は東京で勤務していた頃からカキなどを仕入れていた厚岸を考えていたが、町の様子がイメージに合わなかった。
そして十勝を訪れ、広大な畑の先に山々がそびえる風景が描いていたイメージとぴったり重なり、帯広からは地元である柏市にどこか似た空気を感じた。ちょうど求人の出ていた帯広市内のレストランに2年半勤め、今年10月に店を構えた。
手間かけた分、おいしい料理を
「最初はゆっくりやっていきたい」と、オープン時に大きく宣伝はせず、SNSを使って情報を発信した。その後、新聞やフリーペーパーで多少の露出はあったが客入りはまばらで、それでも「最初はこのくらいがちょうど良い」。
提供するパスタは全て手でこねた自家製麺のため、1度に40分以上かけて8食分しか作れない。1日に用意するパスタは16食ほどだ。「手間がかかっている分、自信はある。弾力と歯切れの良さ、小麦の香りは他ではきっと味わえない」と胸を張った。
「ただ、満席になるとどうしても時間がかかってしまって」と頭をかく。「お客さんの好みやアレルギーにも合わせたい」と料理は作り置きせずに都度作っているため、提供に時間がかかる。その丁寧さからかリピーターが多く、オープンから1カ月の間に4度訪れた客もいるという。
「イタリア人が開拓した十勝の料理」、味わってみてはいかが?
<齊藤翼(さいとう・つばさ)>
1994年、千葉県柏市生まれ。東京都内の調理師専門学校を出た後、都内のレストランなどで腕を磨き、今年10月にバッサオステリアを開いた。店が不定休なのは「予約がなかったら休みたいから」。負けず嫌いで、どの店よりもおいしい料理を作りたい28歳。
<バッサ オステリア>
帯広市大通南15丁目6ノ3、午前11半~午後1時、午後6時~同9時、不定休、電話050・8884・9895。インスタグラム(@bassa_osteria)のダイレクトメールでも予約を受け付ける。