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「真の顧客は誰か」生き残るカギ 企業改革に取り組む清水出身の本田氏

「直線成長」から「十勝内循環」、相互扶助へ
 物価高や労働環境の激変で、企業や自治体の経営は大きな転換点を迎えている。清水町出身で、数多くの企業の経営・組織改革を手掛けている本田光氏(44)に、業績打開のヒントや、十勝の企業と自治体が生き残りに向けて早急に取り組むべきことなどを聞いた。(聞き手・植木康則)

 -コロナ禍という大きな環境変化の中、企業の現状をどう見ているか。
 国内全体として経済が弱くて需要不足なのは間違いない。実需に基づく純粋なビジネスの苦労もあれば、コロナ禍で受けた融資の返済などもある。民間事業者が置かれる環境としては、戦後で一番厳しいかもしれない。ただ、その中でも伸びている会社はある。

自社の経営資源 慣習越える応用を
 -業績不振打開へ取るべき姿勢や考え方は。
 まずは自社の顧客が誰なのかを見詰め直すことだ。その上で、エンドユーザーが誰で、その人にどういう価値を提供できるのかを、どれだけ深く考えられるか。

 BtoB(企業間取引)の企業にとって直接的な顧客はもちろん大切だが、最終的には必ずエンドユーザーに価値提供される。中小企業が倒産する理由の多くに連鎖倒産がある。サプライチェーン全体が駄目になっているのに目の前の顧客の担当者だけ見て、売掛金が回収できず倒産。失礼ながらエンドユーザーを見ていないと言わざるを得ない。

 自社の製品やサービスが選ばれていないなら、自分たちのリソース(経営資源)を見詰め直し、何に応用できるか、別のものに使えないかと考えなければ。ただ、社内はこれまでの事業に最適化されており、個々の社員の業務は習慣化されている。そのため自社の病状は自分たちで自覚できない。ビジネスでも生活習慣病が一番深刻だ。日々、従事しているとなかなか病識を持てず、思考と行動を変えにくいからだ。外部の専門家と一緒にある程度診断したり、病気の治療法を見いだしたりする作業はすべきだ。

 -現環境下でのブランディングの考え方は。
 ブランディングは消費者や顧客に向けて望ましいイメージを形成する活動を指す。良い製品やサービスで価値があるのに売れてないものの存在をPRして認知度を上げたり、利用者にとっての便利な機能や使う状況を想起させたりする。

 マクロ環境として人口増が続いた頃までは、イメージ形成を強めればそれなりに売れる恵まれた時代だった。でも需要不足かつコロナ禍を経てのコストアップという特殊要因で財務基盤も傷み、消費者の可処分所得が減っている中では、いくらイメージ形成したところで、本当は新しい車を買いたいがお金がない、会社が傾いているので前は買っていた商品を我慢しないといけない、となる。

 するとその種の広告は見たくないし、理想と現実のギャップをすごく意識する。企業が引き続きその層を狙うなら、廉価版の提供など、それに合わせたブランディングが必要になる。

 地方の企業でコストアップで苦労しているところは多いが、やり方を変えないと、ブランディングもうまくいかない。自分たちがどう発信すれば消費者や顧客に喜ばれるかを考えてないということ。全く同じものでも見せ方や伝え方を工夫すれば、より響くかもしれないのに。

会社掲げる理想 現実とギャップ
 自社のお客への思い込みもある。「実はこういう人に喜ばれた」とか「こういう人たちに今後買ってもらいたい」など、対象を明確化した上で発信する内容やタイミングを変えるという発想を持てないと厳しい。相手にとってちょうどよく合わせる姿勢が必要。対外的な発信だけでなく、インターナルブランディングも重要。なぜなら社内で自社の価値を整理し、再認識できていなければ、対外的にも響かず失敗してしまうから。

 だが自分たちの理想とする会社の状態と、現実の姿とのギャップを埋める作業をしている会社は少ない。傾いている会社は、ギャップの広がりは認識しているが、どんなギャップか、自分たちの顧客像や最終消費者が誰なのか分からなくなっている。今までの顧客は誰で、その人たちを維持しつつも、今後はこういう人たちも客になり得るのでは、という発想が大事だ。

 -地方自立のため、十勝の各自治体、企業が心掛けるべきことは。
 コロナ禍以後、政府は経営の厳しい事業者に対して補助金や助成金を通じて延命してきたが、それも今後は期待しない方がよい。経済環境も国内全体や海外を見据えても甘くない。

 フードバレーという旗印を掲げるのは発想としては正しいと思うが、一方で出生率が全国的に低下する中、移住定住促進策など人口を奪い合う激しい競争で、地場の企業や自治体が維持できるのかという問題が起こっている。現在、倒産や廃業の増加の報道が多いが、5年後ぐらいには自治体の存続の危機のような報道が全国で増えると思う。

日常とビジネス 中間で経済活動
 だから十勝の中でビジネスや社会の仕組みをどう回すか、同時に考える必要がある。地域のつながりや日常の延長、ビジネスとプライベートの中間みたいな経済活動を大事にする。同時に地元事業者が自分たちの適正規模を見極め、従業員が食べていけるようなビジネスモデルをつくる。

 つまり、戦後ずっと日本が志向してきた直線的な成長モデルの次の段階として、十勝のような一定のエリア内で資源と収益を循環させる経済モデルを地域特性に合わせて見いだす必要がある。これは脱成長論ではなく、人々が地域で豊かさと人生の意義を心から感じるために必要な変化で、助け合い、支え合うといった相互扶助がもたらす価値を改めて見直すことだ。

 政治や経済のトップの役割は、漠然としたイメージから解像度を上げ、ビジョンを示し、具体的な政策に落とし込むこと。自分の会社、あるいは自治体が資源として何を持っているかを、外部の視点も取り入れて見詰め直す。その中で磨けば光る部分を見つけ、割り切って駄目な部分は段階的に減らす。自分たちにとってちょうどいい状態を見いだす作業が必要。

 内側では若者流出を防ぐため、十勝で魅力的なキャリア形成ができる仕組みを作らなければならない。本当に難しいが、十勝全体でそういう考え方を持ち、それを自治体単位に落としていけると良い。そして地元マスコミにはこういう状態を目指したいというコンセンサス、風土づくりの役割がある。

 政治、業界、住民の意識向上、すべてがうまく絡み合って地域の底上げにつながる。十勝ならできると思う。ただし時間との闘いなのですぐに着手すべきだ。

 -今後首長に求められる資質とは。
 経営能力だ。経営とは、既存のリソース(資源)をいかに適切に配分し、投入して、自分たちの目指す姿に近づくかであり、自治体単位での資源は限られている。当然住民の数や年齢でマンパワーが変わる。あとはインフラを含む経済活動の基盤。それらを踏まえて、単独あるいは複数の自治体単位でその経営資源を伸びるところにどう配置し、伸びないところは引き揚げ、予算配分をどうするか。

 経営が分からなければおそらく何の策も出ない。前例踏襲で予算配分をして、ここを少し多くするとかそういう話では全くない。国は今でもそうやっているが、その結果、失われた30年を招いた。今後、自治体単位でも経営できなければ消滅する。だから人口動態に基づき、生きるための武器を見極め、それに、例えば伝統のものであっても変える、あるいはやめるという決断ができなければならない。

 でもやめる覚悟はなかなか持てない。過去に設備投資し、成功体験もあり、雇用も生んでいるから。撤退しないにしてもどう変えるか。事業転換もある。既存事業をつくり上げる途中で培った技術を活用できないか、富士フイルムのようにそれをどう転用するか。V字回復するには必須であり、自治体が持続可能な状態を維持する上でも欠かせない視点だ。リソースを見直し、例えば高齢者の経験や能力など、何に転換できるかを考えることだ。

 経営はマラソンに似ていると言われるが、今は自分たちのゴール設定自体が容易ではない。コロナ禍や円安などで、中長期のゴールをいったん定めても外部要因で変えざるを得なくなる。でも、どこを目指しているのか分からずに走り続けることはできない。高齢化が進む自治体にも変化への柔軟さや臨機応変さが求められ、地域のかじ取りの難易度が日ごとに増している。

 -経営者や首長が社員や住民に示すべき姿勢は。
 経営者や首長は、社員・従業員・地域住民が「あのトップは中庸を保てているのか」と見ていることを知るべき。見られているという意識のもとで、自社の顧客やエンドユーザー(消費者や住民)に喜ばれる価値を提供するために、いかに全体の士気を上げる雰囲気をつくっていくか。

 企業の場合、最も望ましいのは、経営陣と従業員一体で会社全体や顧客への価値提供を考える作業をすること。エンドユーザーに価値提供できなければ、経営陣も従業員も生きていけない。変化が激しい中では、思いや考えを持ち寄って組織内で相乗効果が上げる状態を目指すべき。われわれの客はこう、今あるリソースはこれ、というのを一緒に考えることが肝。その意味では従業員から呼び掛けて風土をつくることも可能だ。

 -持続可能な企業・地域をつくるため個人がすべきことは。
 40~60代オーバーの人は、自分が持つ資源を見詰め直し、社内、特に若手に価値提供してほしい。人物を見極めた上で、ノウハウやアイデアを与え、しなくてもよい苦労はさせない。登用して若手の活躍できる機会をたくさん設ける。これを自治体でも組織のレベルでもいかにできるかが未来を左右する。今まで培ってきたものや経験を自分の中である程度加工して、若手や地域にどう役立てられるかを考えてほしい。

 -個人の改善のヒントを。
 私自身のコツとしてポイントは二つ。無理せず相手に与えることと、やってもやらなくてもいいことをどれだけやるか。ただし自己犠牲はなしで。

 例えば、自転車が倒れているのを直すとか、通勤路を少し掃除するとか、小さな親切を相手に恩着せがましくなくどれだけできるか。人間として非常に高度な行動だ。最初は感謝されたくてやるが、続けていくと習慣化して、見返りがなくても自然にできるようになる。そうなると不思議とどんどん人生が豊かになっていく。ある日、「これが良い人生の歩み方なんだな」とふに落ちるタイミングが来る。

 社内で好かれている人や活躍している人は、その蓄積がある。徳を積む。それを二宮尊徳は積徳と言っている。陰徳と陽徳、どちらでもいい。やってもやらなくてもいいことだがやった方がいい、と思うことを無理なくやる。やった自分が気持ちよくなり、自己肯定感や自己効力感が上がっていって自信がつく。そういう人といると元気が出るし、魅力を感じる。

<ほんだ・ひかる>
 1980年清水町生まれ。清水小、芽室中、帯広柏葉高、広島大学大学院・社会科学研究科博士課程後期単位取得退学。ブランディングとマーケティングの方法論を軸に、さまざまな業種の企業の経営改善や組織改革、事業開発などに携わる。父親は絵本作家の本田哲也さん。

 ◇ ◇ ◇

 本田氏には電子版に、十勝発展に必要なポイントを記した「十勝の幸せな未来」を寄稿(8~11日掲載、全4回)していただいた。

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