鹿追百年新聞「発展に熱き鍬 明日へのバトンつなぐ」
「昔は月明かりの下で、デントコーンを一本一本鎌で刈り取っていた」と往時をしのぶ妻ユキヘさんの横で、「大変だった思い出はない」とほほ笑む正保さん
町の１００年の歴史は町民一人一人の手で紡がれてきた。数え切れない歴史のページの中から、特に町民が深く関わった出来事を振り返る。
◆佐賀団体ルーツ 瓜幕の１０１歳 正保義明さん
開拓の厳しさ胸に 「何ごとも辛抱」
正保牧場（瓜幕西２５）の正保義明さん（１０１）は、開町前年の１９２０（大正９）年生まれ。一帯に広がる豊かな大地で、デントコーンが巨大な収穫機で一払いに刈り取られていくさまを、妻ユキヘさん（９８）と並んで感慨深く眺める。
２人は共に佐賀県福富村（現白石町）にルーツを持つ。有明海に臨む干拓地を高潮で失ったそれぞれの一族が、新天地に選んだのが瓜幕だった。
入植当時の正保家。最後列で父猪八さんに抱かれているのが正保さん
入植して間もなく生まれた２人の記憶に残るのは、郷里を同じくする移民団による簡素な小屋での共同生活。目の前には巨木が茂る原野が広がり、頼れるのは人の手と馬だけ。正保さんの両親らが８ヘクタールを開墾するのに１０年を要した。
正保さんは関東軍の一員として４１年から２年半、旧満州（中国東北部）に赴いた後、４４年に結婚。その５年後、分家して受け継いだ３・３ヘクタールの農地を、１０倍に広げて三男敏さん（６８）に移譲した。一方、一帯へ入殖した佐賀団体１３戸の子孫で今も営農するのは２戸だけで、そのことが開拓の厳しさを物語る。
正保さんは「人に負けるのが嫌いで、何ごとも辛抱してやってきただけ」と振り返り、「鹿追町もよその町村に負けないように頑張って」とエールを送る。
毎年多くの釣り人を魅了してきた然別湖の特別遊漁解禁「グレートフィッシング」の様子
◆然別湖
「持続可能な遊漁に」 田畑貴章さん
大雪山国立公園内で唯一の自然湖の然別湖は、古くから多くの観光客や釣り人を引き付けてきた。オショロコマの固有の亜種ミヤベイワナをはじめ希少な動植物の宝庫で、町は一帯の自然の保護と利用のバランスを図ってきた。
「グレートフィッシング然別湖」事務局長の田畑貴章さん（５９）＝静岡県出身＝は、同湖の釣りシーンで長くこの課題と向き合ってきた一人。海外での釣行経験も豊富な田畑さんから見ても、「鹿追・十勝のフィッシングフィールドのポテンシャルは世界基準」。釣りで十勝を訪れる中で、町内でグリーンツーリズムを推進する道ツーリズム協会と出会った縁で、２００３年に鹿追へ移住した。
「これからも釣り人目線で、気持ちの良い釣り場づくりを進めていきたい」と話す田畑さん
田畑さんらは餌釣りやミヤベイワナの持ち帰りを禁じ、魚への影響が小さい針の使用や１日の人数制限など、ルールに基づいた釣りを提唱。０５年から同湖での遊漁を町から任され、環境と調和した釣りを提供してきた。ただ、近年は気候変動の影響で同湖でも水温上昇が顕著に。「釣りを通じ、多くの人に環境に関心を持ってもらいたい。そのためにもこれまでと同様に町の理解をいただきながら、経済的にも持続可能な遊漁を目指したい」と話す。
豪州の名所エアーズロックを訪れた菊池さん
◆カナダ留学
パイロットの道へ 菊池慎太郎さん
カナダ・ストニィプレイン町との姉妹都市提携は、鹿追出身の菊池慎太郎さん（４１）＝神奈川県在住＝が世界を股に掛けるパイロットになる遠因となった。
中学生の頃、交流事業でカナダの子どもが鹿追へやって来た。軽い気持ちで話し掛けると意外と意思疎通ができ、英語の楽しさに目覚めることに。鹿追高校１年時にカナダへ短期留学し、もっと英語を学びたいという意欲を持った。
高校卒業後にカナダへ語学留学する中で思い出したのが、小さい頃から夢見ていたパイロットの道。北アルバータ工業短大のパイロット養成コースで自家用、事業用、インストラクターなどの資格を取得した。
ビザの関係で現地では就労できなかったが、帰国して国内のライセンスを取得。今は大手航空会社の北米、欧州路線を中心にコックピットに座る。「思い描いた以上の今があるのは、英語でも何でも、興味を持ったらまずやってみたおかげかも。積極的に動けばきっと、運も味方してくれる」と後輩にエールを送る。
