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大樹から宇宙へ(4)「商業利用へ法整備が不可欠」

「ロケットを打ち上げるには日本の中で大樹が一番」と強調する伊藤理事長

 北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)は今夏、大樹町で推力250キロ級のCAMUI(カムイ)型ハイブリッドロケットを、海上の高度10キロまで打ち上げる計画を立てている。これまでの最高高度は3・5キロ。2007年にパラシュートによる減速技術の課題が生じ、4年ほどかけてようやく確立した。

 「07年の段階からようやく一歩、踏み出せる」と、カムイロケットを開発する北大大学院の永田晴紀教授。今夏以降は海上打ち上げで、商業利用に不可欠な飛行誘導などを実験していく。

 既に実用化も始まっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が09年、カムイロケットを使用し、エンジン部品の性能を試験。カムイがマッハ0・3ほどまで加速する中で、各種データを取得した。「JAXAがそろえているロケットの中で、カムイのようなニーズを満たすものがないことの分かりやすい事例。このロケットの必要性を確認できた」(永田教授)。

 将来的にはカムイロケットの商業利用により、新たな市場開拓が見込まれる。HASTICの試算では、成層圏(高度11~50キロ)の大気をサンプリング(標本抽出)する実験で年間数億円、高度約100キロから自由落下させて微少重力環境を生み出す実験でも、年間10億円の需要があるという。

 ただ、日本では08年に宇宙開発・利用の枠組みを定めた「宇宙基本法」が施行されたばかり。現在は同法に基づき、民間事業者による宇宙活動のルール作りが進められている段階だ。ロケット開発はこれまで国主導で民間が自主的に携わってこなかったため、カムイが想定する到達高度100キロ以下を規制する法律が存在しない。

 HASTICの伊藤献一理事長は、この法整備の行方を注視する。ロケットの打ち上げでは現在、大手メーカーが関わっている。伊藤理事長は「新しい法律で打ち上げの事業者から中小企業が排除されないだろうか。条件次第で、カムイロケットの打ち上げができなくなることもある」と危惧し、「これまでの52機の打ち上げ実績を考えてほしい」と訴える。

 民間の宇宙開発では大樹が近年、独自の発展を遂げている。カムイロケットをはじめ、町内では東京の事業会社SNSの小型液体ロケットの開発、産学連携の超小型衛星事業も進んでいる。

 10年後の民間宇宙開発と大樹の関係について、伊藤理事長は「国の役割が狭まり、民間のできることが増えてくる。その中でわれわれは、大樹により多くの研究者や見学者が訪れることを思い描いている」と将来を見詰める。(佐藤圭史)

<宇宙基本法>
 2008年8月施行。宇宙開発・利用の基本理念を定め、宇宙開発戦略本部(本部長・内閣総理大臣)の設置や民間による宇宙活動促進、宇宙活動の法整備などを掲げている。民間が宇宙事業を展開するための具体的な法整備は、現在計画中の宇宙活動法で規定される。

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