大樹航空宇宙基地構想

ホリエモンの宇宙開発

〜ぼくがここでやりたいこと〜

大樹宇宙セミナー2016〈講演採録〉

 大樹町主催の「大樹宇宙セミナー2016」が3月30日、町生涯学習センターで開かれた。町内でロケット開発を行うインターステラテクノロジズ創始者の堀江貴文氏が同社の展望について話し、改めて今年中に宇宙空間へのロケット打ち上げを予定していることを強調した。また、将来的に有人宇宙飛行や他の惑星に向けた人工衛星の打ち上げを目指す考えを示した。堀江氏の講演の要旨を紹介する。

SNS media & consulting 株式会社 ファウンダー堀江 貴文氏

大樹はロケット開発に適地 関連産業集積に可能性

 大樹町は世界でも有数のロケット打ち上げに適した場所。東と南の海が太平洋にガツンと開けていて、人口が密集していない。われわれが開発を始めたのは10年くらい前だが、実験場所を探すのも一苦労だった。いい縁があって大樹町で開発できる状況になり感謝している。

 日本はどこから打ち上げても良いが、大樹は打ち上げられる時期が結構あり非常に適した土地だった。今は工場を大きくしたいと思っており、新しい工場用地を模索している。

 世界にはロケットの打ち上げベンチャーが少しずつ出てきている。世界で一番大きい「スペースX」という会社が米国のロサンゼルス郊外にあるが、ものすごく大きい。社員が4000〜5000人いる。ロケット産業は爆発力があって、急成長している現状がある。

 大樹でそうなっても全くおかしくない。スペースXは2002年にできた。ロケットエンジンの燃焼実験成功が04年、初めての打ち上げ成功が07年。このタイムラインで見ると、大樹にわれわれの工場ができたのが3年前。先日、宇宙空間にタッチできるくらいのエンジンの燃焼実験に成功したが、その感じでいけば5年後くらいには5000人が働くでっかい工場ができているだろう。家族を入れると大樹の人口は3倍になる。

 地方創生と言われ、ふるさと納税でお金を集めようとか、地元の名物やB級グルメを作って人を集めようとしているが、これはどこでもできる。ロケット開発は大樹でしかできない。それがポイントだと思う。

 宇宙基地を作ろうとした先人のさまざまな努力の軌跡が残っていて、そのおかげで多目的航空公園でJAXAの成層圏気球実験も行われている。そいういう素地があって、さらにまちや行政が応援してくれるのはロケットベンチャーにとってありがたい。国内にはそういった場所がほかにない。大樹でしかできない地方創生があり得る。

 宇宙基本法が何年か前にできて、宇宙活動法が閣議決定されて国会で議論されようとしている。これが成立するとロケットベンチャーが法律の枠組みで堂々と打ち上げができるようになる。それに従って、恐らく宇宙庁というような組織が立ち上がると思う。

 新しい基本法ができると、省庁ができるのが通例。宇宙庁が大樹にできてもおかしくない。先日文化庁が京都に移るのがほぼ決まった。大樹で宇宙庁ができたらいいなと思う。

 町多目的航空公園には立派な1000メートルの滑走路があるが、最低でもあと800メートル延長したらジェット旅客機が離着陸できるようになる。ロケットビジネスは日本だけではない。特にアジア、アフリカの発展途上の国々ではまだ衛星すら打ち上げたことがないところが結構ある。「おらが国」の衛星を上げようというビジネスもあるはず。そういう国から衛星をプライベートジェットで持って来て、うちのロケットで打ち上げることも全然普通にある。

 僕たちみたいな会社が来ることで、産業が大きくなっていくのは歴史を見ても証明されている。例えばトヨタ自動車が創業した豊田市も、関連会社が集まって愛知県の一大都市になっているが、大樹は道東で一番活性化する可能性がある。僕たちの工場もでき、関連産業、衛星やロケットを作るメーカーとか、そういう形で産業はどんどん集積していく。

今年中に宇宙空間へロケット打ち上げ 将来は有人宇宙飛行

 これからの計画は、夏前までには高度100キロ以上の宇宙空間にタッチして5〜15分間の無重力状態をつくれるような無人小型ロケットを打ち上げたい。かなり良いところまで技術が蓄積しており、恐らくうまくいくだろう。

 そしてできるだけ早く無人の小型人工衛星を軌道に投入できるロケットを開発しようと思っている。それについても十分な人員体制を整備中で、必要な要素技術の基礎研究もしている。うまくいくと、何年か以内に小型衛星を上げられる。並行して当然有人宇宙飛行や、月、火星、小惑星など、もっと遠くに衛星を飛ばせるようなロケットも作ろうとしている。

 無人の宇宙探査ではまず小惑星帯を目指す。なぜかというと、たまに隕石(いんせき)ではなく、鉄とニッケルでできた隕鉄というものが地球に落ちてくる。鉄とニッケルでできた星があるということで、レアメタルでできた星もあるはず。それらを探して地球に持ってくるとお金になる。

 ウランでできた星もあるはずで、原子力のロケットエンジンを飛ばして、ウランの星へ持って行き、そこで原子力燃料を使って太陽系よりも遠いところまで探検に行く。そういうことが現実にできると思っている。

ロケット産業に競争原理を 世界で"最低"性能のロケット作る

 僕らが宇宙に行けない理由は費用が高いからだと十何年前に気づいた。この会場に何百人も人がいるのに誰も宇宙に行ったことがないのは変。人類が宇宙に行って50年以上たっている。行けないのは競争がないから。国が作っているから。予算をめいいっぱい使って一番良いものを作るというのが、官のメンタリティー。いつまでたっても安くならない。

 だからこそロケットの世界に競争の原理を持ち込まないといけないと考えた。とにかく安くする方法をずっと模索し、たどり着いたのが使い捨てロケットの量産化。うちのロケットは部品点数はめっちゃ少ない。自動車とかに比べたら何十分の1で、シンプルな構造。しかも特殊な部品はほとんど使われていないない。だから安くできる。ロケットといえども特殊なものではなく、ただの工業製品。たくさん作ってたくさん飛ばせば絶対安くなる。

 僕たちは世界で最低の性能のロケットを作ろうと思っている。宇宙に行けさえすれば性能なんてどうだって良い。大樹から帯広に行くのにフェラーリと軽自動車どちらが良いか。フェラーリもそれはそれで良いが、別に軽自動車でも良い。だから多くの人が軽自動車を選ぶ。ロケットも同じ。

 5年後には大樹町から毎日ロケットが10本上がる。大きなことを言うが、多少時期は前後しても、僕が言っていたことは大体実現する。断言はできないが、長い滑走路ができて旅客機がバンバン離着陸するようになるとか、ロケットが1日10発打ち上がるとか、4000人、5000人の雇用で大樹の人口が3倍になるとかは実現すると思う。言ったからには僕も一生懸命やる。

 うちの工場が広がれば、もっと人が集まる。僕が心がけているのが次につながる投資。お金をかけて作っても利用されなかったり、人が集まる契機にならないと意味がない。僕たちのロケット工場は確実に人を集められる引力があると思っている。

堀江 貴文氏(ほりえ・たかふみ)
1972年、福岡県生まれ。ライブドア元社長で実業家。SNS media&consulting 株式会社ファウンダー。大樹町内でロケット開発を行うインターステラテクノロジズ創始者で、2015年12月から大樹町民となった。
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