大樹航空宇宙基地構想

「十勝宇宙セミナー」

〈2月8日開催〉講演採録

 国の航空宇宙政策などを紹介する「十勝宇宙セミナー」(道主催)が2月8日、帯広市内の帯広経済センタービルで開かれた。管内の政財官関係者ら約120人が、国による射場のあり方検討の方向性や大樹町でのロケット開発の取り組みなどについて理解を深めた。

 セミナーは大樹町、十勝圏航空宇宙産業基地構想研究会、NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)、北海道スペースポート研究会が共催。内閣府宇宙戦略室の松井俊弘参事官が「我が国の宇宙政策」、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の稲谷芳文副所長が「JAXAにおける観測ロケット等研究・実験用ロケットの運用状況」、インターステラテクノロジズ(大樹町)の稲川貴大CEOが「大樹町における民間企業によるロケット開発の現状と今後の展開」をテーマに講演した。3氏の講演要旨を紹介する。

インターステラテクノロジズCEO稲川貴大氏

射場に適地、自前でも整備

 これまでの高機能の人工衛星は開発費が1機100億円を超えることもあったが、最近は機能は少なく、安く多く打ち上げた方がよいという流れがある。50キロ以下の超小型衛星の打ち上げ数は、大学や研究機関のほか、商業ベースもあり、急激に伸びている。2020年には年間500機以上打ち上げられる予測もある。
 小型の人工衛星は数億円で開発できるようになったが、その衛星を宇宙に運ぶのに、これまで世界の最先端を目指して造ってきた大きなロケットでは費用が高い。小さい衛星は小さいロケットで運べばよいというのが、われわれが目指すところだ。
 今年には宇宙空間まで打ち上げて落下させる観測ロケットの初号機を、19年には地球を周回する人工衛星用ロケットを打ち上げたいと考えている。
 小さい衛星を打ち上げる場合、小さいロケットの方がメリットがある。大きいロケットは1回の打ち上げで複数の衛星を載せるため、メーンの衛星の打ち上げ時期や目的地が優先される。小型は1回の打ち上げで1、2機しか衛星を運ばないため、打ち上げ時期を選ぶことができ、コストも安い。
 今後の打ち上げビジネスに向けて、これまでの開発で技術的に難しいロケットの姿勢制御能力を獲得した。営業、販売の面では大手総合商社の丸紅と業務提携し、国内外の衛星事業者、観測ロケットの実験希望者の営業活動を行ってもらえるようになった。
 打ち上げには設備や射場が必要だが、小型ロケットには大した設備は必要ない。最低限、射場を支えるアスファルトとプレハブの指令所があれば、われわれの宇宙港は完成する。
 ロケットは東、南方向に打ち上げる。東と南が開けているのが重要で、北海道、大樹は、世界を見てもこんなに打ち上げに良い場所はない。われわれにとっては大樹で打ち上げるのが大前提で、自前でも設備を整えて打ち上げる考えだ。
 本格的な射場にするなら、射場までの舗装道路と射場・組み立て所への電気、通信インフラが必要となる。これらは、単独のベンチャー企業では整備するのは難しいので支援を頂きたい。

内閣府宇宙戦略室参事官松井俊弘氏

近く方向性 スペースポート

  わが国の宇宙開発利用は1950年代のロケット実験開始から始まり、大きな節目として2008年の宇宙基本法施行がある。
 議員立法の宇宙基本法では、宇宙利用推進の方向を示した。内閣総理大臣を本部長とする宇宙開発戦略本部で策定する宇宙基本計画の10年間の工程表の中で、射場は今年度から検討に着手するとした。昨年12月の改訂では、今年度に調査し、17年度をめどに中間的整理をするとした。
 スペースポートなどを含む国内外の射場の状況調査を行い、抗たん性(敵の攻撃から機能を維持する能力)や老朽化対策、即応型小型衛星打ち上げ、宇宙ベンチャー振興など幅広い論点整理を今までに調査・検討しているところ。16年度以降に具体的検討を行う。
 アメリカは静止軌道は東海岸、極軌道は西海岸と、東西で打ち上げ軌道をすみ分けている。民間の射場整備も始まっている。各国の動向を見ながら議論を始めたところで、一つはグローバルスタンダードの射場は何かを議論している。
 地理的条件では、種子島は静止衛星の打ち上げに有利な赤道に近いギアナに比べて多少緯度が高い。ただ昨年12月のH2Aは再々着火という新技術導入で不利を補い、競争力を高めた。
 もう一つ議論しているのがスペースポート。アメリカは10カ所以上が認可済み。イギリスも検討を進めている。日本ではこれから議論して取りまとめていきたい。即応型小型衛星の打ち上げや老朽化対策などもある。年度内の約束まで残り1カ月ちょっと。調査を加速して進めたい。

JAXA宇宙科学研究所副所長稲谷芳文氏

再使用可能な小型版を

  JAXAはロケットや人工衛星、探査機、宇宙輸送などの研究をしている。今回は、小型ロケットを中心に説明したい。
 全長10メートルほどの観測ロケットは、高度100~1000キロに打ち上げ、弾道飛行でさまざまな実験や観測を行う。日本で運用中の観測ロケットは3種類ある。軍事転用でコストが安いアメリカに比べると高いが、性能は良い。
 観測ロケットを使い上層大気の運動メカニズムを調べ、気象や大気現象の研究がある。太陽光が当たると赤く光る物質(リシウム)を放出して空気に印を付けることで、地上から高度250キロの風を把握できる。
 微小重力を利用した研究も重要で、物質や生命科学分野などでの科学技術の展開が期待できる。本来は宇宙ステーションで行うが、観測ロケットだと短期間でできる。
 宇宙の仕事は国が税金を使ってきたが、民間が事業として取り組める環境をつくらないと、これ以上は望めない。宇宙開発は違う世界に入りつつある。ロケットの打ち上げが一般化すれば、宇宙旅行にも結びつくかもしれない。
 小型ロケット発展の方向として、2つの流れが考えられる。1つは、スペースシャトルのように行ったり来たりできる再使用可能な小型ロケットの開発だ。もう1つは安く飛ばせるロケットの開発。民間や大学を中心に、超小型衛星の打ち上げはここ10年で活発化している。これをビジネスとして捉え、安いロケットで打ち上げられるようにし、需要に応えるべきではないか。
 ロケット打ち上げには安全確保が重要。大樹は自由に実験でき、日本の中では非常に有利な環境にある。

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