解説/道立帯広美術館主任学芸員 藤原 乃里子
展示室に足をふみ入れると、まず最初に、いまは亡き著名人の姿が、ほの暗い空間のなかに浮かびあがります。三島由紀夫、夏目雅子、美空ひばり、勝新太郎…。それぞれの人生を生き抜いた彼らの面影は、ある種の神々しささえをも漂わせています。篠山は語ります。「死は平等にやってくる。与えられた生を、どう生きたかが問題なんだ」※と。写真とは、時の死の記録であり、そして人々の生への祈りにほかならないのかもしれません。※『芸術新潮』2012年10月号
勝新太郎 1992年
夏目雅子 1982年
続く部屋では、各界のスターが華々しく登場します。市川海老蔵(撮影当時は新之助)、吉永小百合、杏などの役者陣からピンク・レディーら往年のアイドル、長嶋茂雄、羽生結弦らスポーツ選手まで一堂に会します。なかでも山口百恵の特大写真は必見! スターがスターとして最も輝く瞬間をとらえたポートレートは、時代のシンボルとしての存在感とともに、時空を超える魅力にあふれています。われらが吉田美和、中島みゆきも帯広限定出品!
杏 2011年
羽生結弦 2011年
子供も大人も虜(とりこ)にしてしまうディズニーランド、賑々(にぎにぎ)しい演目をみせる歌舞伎の舞台…これらは、いわばフィクション(嘘)の世界。篠山はこうしたフィクションに、さらに写真というフィクションを重ねることで、リアリティーを生み出します。「嘘の嘘は本当」というわけです。ピエロや大道芸人が集う公園に“夢少女”後藤久美子が4人登場する「シノラマ」(シノヤマとパノラマを合わせた造語)も見られますよ! お楽しみに。
市川海老蔵『暫』鎌倉権五郎景政 2009年
中村扇雀 片岡亀蔵 片岡市蔵 中村勘三郎 中村七之助 坂東新悟「口上」 2006年
人間の裸体=ヌードは、自然を形づくる最も根源的なもので、古今の美術作品において重要なテーマ。篠山もまた初期から一貫してヌードを撮影し続けています。大自然とヌードを対峙(たいじ)させた造形的な作品、女性芸能人の「激写」シリーズ、18歳の宮沢りえが被写体となり社会現象をも巻き起こした『Santa Fe』、ダンサーや力士の鍛えあげられた肉体など、新しいヌード表現をひらいてきた写真の数々は、篠山ワールドの真骨頂!
大相撲 1995年
黒柳徹子 1969年
「STAR」「SPECTACLE」「BODY」と、欲望に誘いかけてくるかのような蠱惑的(こわくてき※人の心をひきつけ、まどわすさま)なイメージとまみえた後、展覧会にふたたび静けさが訪れます。震災発生50日後、被災地に入った篠山は、人知ではどうすることもできない自然の力に畏怖(いふ)と畏敬(いけい)の念をいだき、神聖さすら感じたと率直に語っています。廃墟の風景を前に、災害を悲劇として強調することなく被災者をとらえた肖像は、いまを生きる私たちの胸に深く焼きつけられるのです。
大友瑠斗(9) 大友乃愛(7) 名取市 2011年
前田久美子(33) 前田翔太(2) 仙台市 2011年