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動物園のあるまちプロジェクト

第4回

生き残り模索 おびひろ動物園の未来

 2015年、夫婦アミメキリン2頭が相次いで突然死したおびひろ動物園。ただ1頭残されたのが忘れ形見の「メープル」(雄、2歳)。原因不明で死ぬ“負の連鎖”を食い止めようと、同園はキリンの健康管理を見直し始めた。

 「野生の状況に近い餌に変え、リスクを少しでも減らしていく」。柚原和敏園長は力を込める。従来は乾草や牧草を主に与えていたが、野生状況下に近い木の葉に切り替えた。種類は季節で変え、現在はシイなどを、メープルの反応を見ながら与えている。

シイの葉を食べるメープル。夫婦キリンの死をきっかけに、健康管理が見直され始めた

 試みはほかの動物でも徐々に進む。エゾシカは、けが防止のための「角切り」で麻酔銃を使っていたが、より正確に麻酔を直接打てるための訓練を始めた。笛の合図でシカから近付いてもらい、腹部に軽い刺激を与え、うまくできたらエサを与える-この一連の流れを定期的に行っている。

 動物福祉の観点も入れた取り組みにうれしい「成果」も出た。ゴマフアザラシのプールは冬場は全面結氷していたが、運動不足の解消にと15年から職員が割って泳げるようにした。モモ(雌、24歳)は流産または死産が続いていたが、16年3月に同園として23年ぶりの赤ちゃん「マシロ」(雌、1歳)が誕生した。

 10年には帯広畜産大学と連携協定を結んだ、大学連携は、京都市動物園と京都大学に次ぐ国内2番目。死んだ動物の解剖だけでなく、病原体の疫学調査など多くの研究がされ、帯畜大の佐々木基樹教授は「動物園単独でできなかった解析が可能となり、研究の幅が広がり、学会での発表の場も増えてきた」と効果を実感する。

 動物福祉に基づくソフト面の改善が進む一方、獣舎などハード面は依然として課題が山積する。

 市民からは新しい動物導入の要望も多いが、海外からは、原産国の受け入れ基準をクリアすることが重要。具体的な広さの基準はないが、ゾウでは雄1頭と雌3頭が飼えるスペースが理想とされる。

 柚原園長は「今のゾウ舎は日陰もなく、コンクリートで足が痛む。財政面を抜きにすれば土や草、水場をそろえた獣舎にしてあげたい」と現場の思いを語る。

 近年は繁殖を目的に他園から借りる動物も多く、チンパンジー「プヨ」(雌、9歳)やライオン「ヤマト」(雄、3歳)などが来た。園同士の貸与「ブリーディング・ローン」は種の保存の効果的な取り組みとして約30年前から盛んだが、繁殖可能な獣舎でなければこうした交流もできない。

 昨春にカバ「ダイ」が死んだ後、市民から新たなカバを求める声が多数届いた。カバは多産のため、ペアで飼育してる他園に“予約”すれば受け入れることは可能だ。しかし、築45年の現獣舎は老朽化が進み、冬場は冷え込むため「動物福祉の面から考え、現時点での受け入れは断っている」と柚原園長は苦しい心境を漏らす。

 動物園の「存在意義」をどこに置くのか。おびひろ動物園では1988年に「娯楽」から「教育施設」への転換を図った。資料館建設やボランティアガイド導入などが計画されたが、実現しなかった。

 01年に管理運営が教育委員会に委ねられ、03年には博物館相当施設とされた。05年には動物園条例を制定。設置目的を「野生動物を保護し、調査研究するとともに、動物とのふれあいを通じた情操教育、自然環境教育活動及びレクリエーションに資する」と定めた。

 「園を運営している責任、教育委員会に置いた意味を市は改めて考えるべきだ」。札幌市円山動物園の参与を務める小菅正夫さんは運営主体が運営ビジョンを明確にする大切さを指摘。「最終的には市長の決断も必要」と語る。

 大牟田市動物園は市民と二人三脚で閉園の危機から脱却し、旭山動物園(旭川市)は生き生きとした姿を見せる展示方法で動物の魅力を改めて伝え、日本一有名な動物園に成長した。53年前、市民の熱意で誕生したおびひろ動物園。存在意義が揺らぐ今こそ、再び市と市民が一体となって「動物園のあるまち」の未来を考えていきたい。

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